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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
ベルリンの葬送
「無名の英国人エージェント」シリーズ
レン・デイトン 出版月: 1967年02月 平均: 7.00点 書評数: 3件

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早川書房
1967年02月

早川書房
1972年01月

早川書房
1978年10月

早川書房
1978年10月

No.3 7点 2018/12/21 14:12
 英国首相直属の情報機関 WOOC(P)に属する「わたし」は、在ベルリンの工作員ジョニー・ヴァルカンを通じ、モスクワ学術院の世界的酵素学者セミッツアを西側に亡命させる計画を持ち掛けられた。KGB大佐ストックの手引きで昏睡させた彼を棺に入れ、葬儀を装い霊柩車でベルリンの壁を越えようというのだ。内務省の責任者ハラムの許可を得た「わたし」は、ロンドンとベルリンを往復する傍ら、ヨーロッパ各所に探りを入れながら計画を遂行しようとするが――。
 1964年、ジョン・ル・カレ「寒い国から帰ってきたスパイ」の翌年発表。難解な作品とされていますが大枠は単純。東側から西側にブツを運ぼう!という基本ストーリーに、臭いを嗅ぎ付けたうさんくさい連中が色々と絡んでくる話です。勿論それにも裏はあるのですが、凝っている上意味深な会話や文体に加え、単純に西側東側で括り切れない敵味方関係が、一筋縄ではいかないとされる所以でしょう。

 片方の靴先に、完全な円をなした艶やかな黒いものがあらわれるのが見えた。ゆるやかに下降し反りをみせて楕円形をかたちづくった。まばゆい幾何学図形のうえを、やがて雨滴が埃っぽい靴のつぎ目の皮まで黒い線をひきながら、灰色の水玉となって地面へしたたり落ちていった。

 こういうひねくった描写が延々と続きます。デイトンの比喩表現の巧みさはよくチャンドラーに譬えられますが、感傷を底流に持つマーロウと、ハメットの登場人物に近い「わたし」ではむしろ真逆の存在ではないのかな。こいつの外ヅラに騙したつもりが騙されて、内心結構マジになってるイスラエル情報部員のねーちゃんがかわいそうでした。ちょっとでも人間的な事を思ったら負け、みたいな世界です。
 あと後半のアクション場面、ベルリンでの大詰めはまあいいとしてラスト近く、ガイ・フォークスでの花火を使って苦し紛れの反撃とかはほとんどギャグですね。大真面目にカッコ付けながら最後にこんなの持ってくる所に作者のひねくれ具合が現れています。「意地でもセオリー通りのもんなんか書いてやるか」みたいな。おふざけ含めてそういうのを完璧な文体でこなすのが全盛期のデイトン。
 一時スパイ小説の二大巨匠扱いでしたが、デイトンは本質的にメジャーになれる作家ではないと思いますね。でも好きです。パラグラフに一々チェスの指し手を入れたり、注釈山ほど付けたり無駄に凝りまくってて。採点は好みも入って7.5点。

No.2 6点 クリスティ再読 2017/12/06 23:54
今年アンブラーをほぼコンプすることになるから、来年はル・カレに腰を据えてとりかかろうか...なんて考えているんだけども、その前に、本作やっておこうじゃないの。一時はル・カレと双璧の扱いを受けていたレン・デイトンの力作である。
「国際政治をエンタメにしたもの」というのが広い意味でスパイ小説の定義になるんだろうけど、アンブラーだったら国家に縛られることないアナーキーの視点を常に保つがために、「スパイ小説」から逸脱しようとする力学の中で作品の面白さが輝くことになる。ル・カレにせよデイトンにせよ、もはや「国家=スパイ」は所与だ。なので両者ともざっくり言うと「不平屋」の立場に立つことになる。もちろんル・カレなら正攻法でスパイ組織の官僚化を取り上げるわけだが...デイトンはずっと斜に構えている。
デイトンはもともとデザイナーだそうで、場面を印象的な比喩で描く描写力は傑出している。斜に構え方と比喩力の高さから「スパイ小説のチャンドラー」なんて呼ばれてたわけだがね。少なくとも日本ではチャンドラーのカッコよさの陰にあるナニワブシなところがウケてた印象を評者は持つんだけど、スパイ小説は本質的に「人間不信な」小説である。なので、デイトンを読んでいると、「ひたすらカッコイイ」という印象が続いて、何か疲れてくるのだ。アンブラーはずっとオトナなのか、そういうカッコよさみたいなものを「恥ずかしい」と感じるセンスがあるのが評者は大好きなんだが....で、本作は、ソ連の農学者の亡命を仕組むチームの内部の話なんだけど、本当に呉越同舟というか、それぞれがそれぞれを裏切りつつプロジェクトが動いていく話である。登場人物はハードボイルド的に見事なほどに内面を持たない。相互に裏切り合ったところで、罪も悔恨もありえないような世界である。本作はル・カレよりも007に近いのでは?なんて思ったりもするのである...
まあそういうわけで、本作は一読の価値はあるんだけど、忘れられた作品になるのは仕方ないかな、というのが正直な感想。本作でみんな聞いてるシェーンベルクの「管弦楽のための変奏曲」って、見事なまでに感情移入を排した究極に「非情な」音楽だから、本作にはハマりすぎ。

No.1 8点 mini 2012/04/25 09:54
本日25日発売の早川ミステリマガジン6月号の特集は、”SPY ル・カレから外事警察まで”

現在は白鳳の1人横綱だが横綱ってのは東西2人揃ってこそだ、そこでル・カレと並ぶもう1人に横綱土俵入りをして貰おう
ル・カレと並び称される為には活躍時期がル・カレと被っている必要が有る、そうなればこの作家でしょ、レン・デイトンだ

デイトンはル・カレみたいな真面目一本槍路線とは違う新たなアプローチを提唱した、真面目スタイルじゃないからってフレミング流エンタメ路線とも違う
自身が諜報関係の国家公務員だったル・カレと違い、凡そエリートコースを歩んできたとは言えないデイトンだけに、どこかしら斜に構えた視点を感じさせるのが特徴だ
デイトンはよくハードボイルド語法で書いたスパイ小説と言われるが、洒落た会話、超然とした態度など、たしかにそういう面は有る、そもそも主人公の”私”からして本名不明のコンチネンタル・オプみてえな奴だし
ただ私はハードボイルドと言うより新感覚派とでも呼びたいなぁ

実は「ベルリンの葬送」って昔から難解という定評が有り、今まで読むの尻込みしてたが、しかし実際に読んでみるとそれほど難解ってわけじゃない
基本は簡単、あくまでも見かけ上だが、受けた指令ってのは要するに東側の酵素学者が西側に亡命したいっていうので、金欲しさに西側に裏切り予定の東側の大佐と協力して、ベルリンの壁を越えて酵素学者を運び出すっていう話
題名の”葬送”の意味は終盤になれば分かる
難解に感じるのは具体的な部分ではなくて、意味深な会話文に読者が付いていけるかどうかだろう
読者を選ぶと言うか、多分、合わない読者は徹頭徹尾合わないだろうな
スパイ小説ではあるが理詰めな書き方なので本格しか興味無い読者が読んでも楽しめるル・カレに対して、100%全て説明されないと気が済まないタイプの読者には最も嫌われる類の感覚主義的なレン・デイトン
私は全て説明しろと要求するタイプの読者じゃないからねえ、デイトンは肌に合うし好きだなぁ


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