皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] ファイアフォックス ケネス・オーブリー&ミッチェル・ガント |
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クレイグ・トーマス | 出版月: 1977年12月 | 平均: 7.33点 | 書評数: 3件 |
パシフィカ 1977年12月 |
早川書房 1986年12月 |
No.3 | 9点 | 人並由真 | 2021/09/06 07:28 |
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(ネタバレなし)
ソ連のベレンコ中尉がミグ25で函館に亡命した1976年9月。だが英国情報部SISの特殊工作部長ケネス・オーブリーたちは、すでにそれ以前から、ソ連内ではさらなる新型戦闘機ミグ31が試作されているという情報を掴んでいた。ミグ31の最大の特徴は、操縦者の脳波によるダイレクト操縦システムで、これが量産されれば全世界の制空権は一挙にソ連に掌握される。オーブリーたちSISはCIAと連携して、軍人パイロットをソ連に潜入させて、ミグ31=コードネーム「ファイアフォックス」を脱出する作戦を計画。だが英国空軍は軍事予算縮小でろくなパイロットが育成されておらず、CIAはかつてベトナム戦争で「空飛ぶ死人」と呼ばれた凄腕のパイロット、ミッチェル・ガントを選抜。彼をオーブリーのもとに潜入工作員として預ける。かくしてソ連駐在のSISエージェントとソ連の反体制派有志たち、彼らの決死の支援を受けながら、ガントのミグ31奪取作戦は開始された。 1977年の英国作品。 作品の大枠は、作者のレギュラーキャラである、SISの大物スパイ、ケネス・オーブリーサーガの一編だが、主人公は完全にガントひとり。 シリーズのポジションから言えば、ル・カレのスマイリーサーガにおける『寒い国から帰ってきたスパイ』みたいな立ち位置にある作品。 すでに殿堂入りしているイーストウッド主演の映画はまだ観てないのだが、たぶんこの作品、少なくともストーリーに関しては<絶対に>原作小説の方が面白いだろうと勝手に予見。広瀬訳のHN文庫版の方で読んだが、期待通りに、いやそれ以上に、十二分に楽しめた。 日本で最初に翻訳された元版(パシフィカ)が刊行されたときに「小説推理」で北上次郎が絶賛していたのを記憶しているが、そのレビューの中で<忍者が敵陣に迫る隠密小説みたいな面白さ>という主旨のことを語っていたように思う(記憶違いなら、すみません)。 で、小説の中身は、ガントがミグ31に接近するまでの第一部「奪取」と、それ以降の第二部「脱出」の二部構成だが、双方の内容が、本当に骨がびびるくらいに面白い。早川文庫で400ページちょっとの厚さを、5時間かけずに一息で読んでしまった。 なにしろ前半から重厚なA級娯楽冒険小説(&スパイ小説)のオーラが全開で、前述の北上次郎の物言い通り、とにかく、主人公ガントをミグ31にまず接近させるためのSISとソ連反体制派側の滅私の苦闘、そして一方でその動きを探るKGB&モスクワ警察側、双方のシーゾーゲームが並ではない。 これで快い疲労感を感じながら中盤までいって、さあまだまだクライマックスはこれからだとばかりに、後半は後半で最高潮にハイテンションの展開となる。キーワードは「(中略・四文字)」だ。 おのおのの使命に殉じ、理想を夢見て(中略)仲間たちは多かれ少なかれこの作戦の中で達観している。一方で、もともとベトナム戦争の心の傷を引きずりながらこの作戦に応じたガントは後半にいたってもパッショネイト。 が、ガントのエモーショナルな描写はすべて、最後の最後、HN文庫版でいえば399ページのラストからの叙述のためであった。この場面で逆説的に大泣きしたわ(もちろんここでは、ソレがどんなのかは、具体的には書かないが)。 傑作という評判を心得ながら読んで、やはり、いやその思いすら飛び越えたさらなる傑作。 続編『ファイアフォックスダウン』もこのテンションを維持ということらしいので、そちらもまた期待しながら読みましょう。 【9月6日18時追記】 そういえば、今日9月6日はくだんの「ベレンコ中尉亡命事件」の当日だった。読了後に家人と本作の話題をして、言われて気がついた。このタイミングで読んだのはまったくの偶然。潜在意識とかアクト・オブ・ゴッドとかの話題までは何とも言えないが。 |
No.2 | 6点 | mini | 2011/05/20 09:57 |
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先月亡くなった作者の追悼書評
二部構成で、第1部は旧ソ連に潜入するスパイ小説風、第2部がソ連から脱出する純然たる冒険小説として描かれている スパイ小説と冒険小説、どちらも英国伝統のミステリージャンルだけに、英国作家クレイグ・トーマスには得意分野なんだろう 第2部での航空機アクションに徹した場面も迫力があるが、一見地味な第1部のル・カレ流リアリズム風スパイ小説である前半も、その緻密な描写に感心する 作者は実際にソ連に取材したのかと思えるほど 一つ気になったのが周りがプロというか信念と業務に徹した迷いの無い人物揃いな中で、主人公だけが葛藤に苛まれる人物なのは、やや対比が極端過ぎて創りものめいてしまっているのが残念な点 主人公を活かす為に周囲が犠牲になるのはまるで天平の甍 |
No.1 | 7点 | kanamori | 2011/04/27 18:17 |
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航空冒険小説の傑作。
ソ連の最新鋭ミグ戦闘機の強奪作戦というシンプルなプロットながら、スリル満点のシーンの連続で一気読みの面白さだった。 前半のミッチェル・ガントのモスクワ潜入とKGBの追跡、後半のソ連将軍との頭脳戦とミグ2号機との空中戦など、これぞ懐かしの正統派冒険小説という感じです。 名作の続編には失望させられることも多いが、本書の続編「ファイアフォックス・ダウン」は緊張感を持続しており共にお薦め。 ちなみに、航空冒険小説の私的ベスト5は、 本書と「シャドー81」「ちがった空」「双生の荒鷲」「超音速漂流」といったラインナップ。 |