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[ ハードボイルド ]
ミスター・マジェスティック
エルモア・レナード 出版月: 1994年10月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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文藝春秋
1994年10月

No.2 6点 人並由真 2020/07/05 05:48
(ネタバレなし)
 メキシコ国境近隣のテキサス州の一角で、中規模のメロン農場を営む中年男、ヴィンセント(ヴィンス)・マジェスティック。彼は収穫期のために短期の労働力を募るが、そんな状況につけこんだワルの人材斡旋屋ボピー・コパスが押し売りのごとく、質の悪い労働者を多数雇うように要請してくる。固辞したマジェスティックだが、コパスは難癖をつけてマジェスティックに傷害の罪を負わせてしまった。マジェスティックは逮捕されるが、彼の片腕で農場の作業頭ラリー・メンドーサ、そして気の良いメキシコ人娘の流れ労働者ナンシー・チャヴィスたちが留守中の農場を守る。しかし大量のメロンの収穫を指揮するためにマジェスティックは一刻も早く留置場から帰宅する必要があった。そんなマジェスティックが拘留された留置場には、暗黒街でその名を響かせた大物殺し屋フランク・レンダがたまたま捕まっており、事態は思わぬ方向に動き始める。

 1974年のアメリカ作品。
 評者は、80年代後半からの本邦でのレナード人気の波にはまったく無縁だったので(汗)、これが初めて読む著者の作品。
 初期の作品らしく、裏表紙でも訳者あとがきでも、のちの作家性が成熟した時期のレナードの諸作とは相応に作風が違うようなことを書いてあるが、そういうわけだから評者にはその辺の比較はまだできない。
 
 単品としての本作の大筋はおおざっぱに言って、<地味に暮らしていたのに思わぬトラブルが降りかかってきて、それまで眠っていた主人公の野性と闘志が目覚める(正確には、内側に潜んでいたそれらが表に表れる)>パターン。
 敷居が低い言い方をすれば『野性の証明』をふくむ往年の高倉健の映画みたいな作劇だが、それでも主人公の心には最後まで一片の理性(必要な戦いはするが、可能なかぎり暴力沙汰は避けたい)があり続けるのには、ちょっとほっとする。
 そういう意味で物語の大綱はシンプルだが、ストーリーの組み上げはけっこう小技が利いており、ある意味では中盤以降の主人公のピンチはマジェスティック自身が呼び寄せた一面もあるのがなかなか面白い(その辺について、ここでは詳しくは書かないが)。
 そもそも本作は、もともとチャールズ・ブロンソン主演の映画『マジェスティック』(1974年)のためにレナードが書いたシナリオを、その直後(同時?)に本人自身がメディアミックスとして小説化した長編というから(ジャプリゾの『さらば友よ』みたいなもんだね)場面場面の視覚的な見せ場や小規模な山場の連続ぶりなど、いかにもソレっぽい。メインヒロインであるナンシーの、直球で剛球のいい女っぷりも(こんな偏差値の高すぎる娘、まず現実にいねえよと思わせるくらいに)ステキ(笑)。

 もちろんこれ一作でレナードらしさの片鱗に触れたなどというおこがましいことを言う気などは毛頭ないが、まずは一晩フツーに楽しませてもらった。評点はあと0.5点くらいつけてもいいんだけれど、たぶんこれからもっとこの作者のより良い作品に出会うと思うので。
 さて、次はレナードのどの作品を手にとりましょうか?

No.1 8点 Tetchy 2009/08/04 22:39
この話、一言で云うならば
「おれのメロンの収穫を邪魔するんぢゃねぇ!!」
である。
レナード初期の作品は非常に物語り構成がシンプルで、最後の対決まで一気呵成に突き進む。
殺し屋とメロン農場主がどうして対決するのか、その成行きが現在のレナードの先の読めないストーリー展開の下地として既に見られるのが興味深い。
とにかくミスター・マジェスティックがカッコよく、こんな農場主は日本にはいません!


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