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[ 時代・捕物帳/歴史ミステリ ]
武州公秘話
谷崎潤一郎 出版月: 1935年10月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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中央公論社
1935年10月

中央公論新社
2005年05月

No.1 7点 クリスティ再読 2026/03/18 18:45
昭和初期の純文学と大衆文学の交差という点で重要な作品でもある。いや「新青年」の連載作なんだよ!伝奇時代小説なんだけども、ミステリ的興味に投じた作品であることは間違いない。

谷崎自身はもともと「途上」などが乱歩によって「国産探偵小説の例」として持ち上げられていたのを、あまり好意的に見ていなかったようでもあるのだ。もちろん当時のミステリファンたちの間で、谷崎のヘンタイ方面が大人気だったのはいうまでもない。そんなで「新青年」への登場が待たれていたにもかかわらず、谷崎は書くのを渋っていたわけである。
この状況を打開したのが、震災後関西に移住した谷崎の元を訪問した渡辺温の事故死だった。この件で心理的な負い目を感じた谷崎が、渡辺温の思い出を書いた「春寒」に続いて、「新青年」に連載したのが本作。

稗史小説の体裁を借りて、武州公、桐生武蔵守輝勝の野望と変態性欲を描く一代記、というわけなんだが、残念中絶。それでもキリのいいところで終わっているから、そう不満はない。武州公のヘンタイ性欲は何かというと、鼻を削がれた男の生首とそれをいとおしむ女、に対するフェティッシュなコダワリなんだ。少年時に落城寸前に追い詰められた城の中で見た、「女首」と呼ばれる、鼻を削がれた武将の首を洗うさまが目に焼き付いた武州公は、単身城を抜け出て敵陣に潜入し、敵の総大将を討ってその鼻を削ぐ。この鼻削ぎの因縁が巡り巡って、武州公の主君である筑摩則重とその北の方で武州公が殺した敵将の娘桔梗の方との三角関係に発展する...筑摩則重の鼻を狙うのは誰か?

こんなエログロ満開の話。いや、いいねえ。ただし、文章はのっけから漢文で書かれた序「伝曰。上杉謙信居常愛少童。又曰。福島正則夙有断袖之癖」てな感じで始まったりする。ハッタリの部類で本格漢文じゃないから楽勝だし、典拠からの引用めかした文語文も多い。そういうあたりもちょいと高校時代とか思い出して、ヘンに懐かしい。

純文学と大衆文学のクロスオーバーを明白に狙った作品というわけだ。時代伝奇、冒険、歴史小説、ミステリ、変態性欲、不倫などなど、極彩色の物語。面白くて引き込まれる。


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