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[ クライム/倒叙 ]
潤一郎ラビリンス〈1〉初期短編集
刺青,麒麟,少年,幇間,颱風,秘密,悪魔,恐怖
谷崎潤一郎 出版月: 1998年05月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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中央公論新社
1998年05月

No.1 6点 クリスティ再読 2023/01/24 14:13
どうも「谷崎潤一郎 犯罪小説集」だけだと物足りなくて、補充したくなる。谷崎というと関東大震災後の関西移住で作風が大きく転換して、王朝古典美の世界に行ってしまうけども、東京時代といえば「悪魔派」だからね。乱歩にも強い影響を与えたのはこの初期の谷崎、ということになる。

でこの中公文庫の1巻はまさにその谷崎デビューの初期短編。「刺青」は刺青に命を賭けた唯美主義の刺青師の話だから、遥々と高木彬光やら赤江瀑やらまで続く「唯美主義的刺青譚」の始祖みたいなものだろう。刺青師といえばサディズムの権化みたいに見えるけども、実は逆という逆説が一番の面白味。(乱歩って刺青趣味がない....ちょっと不思議。「黒蜥蜴」は入れているけども、あっさりしたものだしね)
でまあ、ミステリの立場ではやはり「秘密」が重要作。屋根裏を散歩する乱歩の主人公同様に、谷崎の主人公は女装して街を潜行し、映画館で旧知の妖艶な女性に再会する。主人公の女装を見破った妖女は主人公からの誘いに乗るが、住所を秘匿するために目隠しで人力車に乗って...
いやここで「秘密」というのは、実は犯罪的な秘密じゃないのだ。「秘密」というスパイスによって、世の中の見え方が劇的に「変わる」こと自体に、「探偵」の視座を見出すのが、乱歩と谷崎に共通する「デカダン」というものなのだ。だから「秘密」という一編は「心情の探偵小説」とまさに呼ぶべき作品なんだ。
うんまああとは、「少年」や「悪魔」あたりはマゾ・フェチ系の小説。いやいやここら辺の作品、明治末なんだけども「ヘンタイは不滅」というものだなあ(苦笑)ニッポンって昔からススんでるよ。


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