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[ 本格 ]
弔いの鐘は暁に響く
ドロシー・ボワーズ 出版月: 2025年03月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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論創社
2025年03月

No.2 7点 人並由真 2025/06/03 07:53
(ネタバレなし)
 第二次大戦終結後、その年の前半。英国のレイヴンチャーチ地方にあるロンググリーティング村の周辺で、わずかふた月の間に首吊り、川への身投げ、銃弾での絶命……など4件で5人もの自殺者が続発した!? そんななか、村では事件に関する匿名の怪文書が飛び交い、やがて施錠された屋内で今度は明確な他殺による死体が発見される。スコットランドヤードのレイクス警部は、地元の警察と協力して捜査に当たるが。

 1947年の英国作品。ボワーズ最後の長編。

 探偵役がこれまでのレギュラーのダン・パードウ(パルドー)警部ではなく、30代後半のハンサム、レイクス警部に交代したのが軽く意外だった。
 とはいえマーシュのロデリック・アレン風の紳士捜査官風のレイクスはなかなか魅力的な探偵キャラで、正直パードウよりも印象がいい。たしかに作者が早逝しなければ、ボワーズの第二のシリーズ名探偵になったんだろうな。これは相応に惜しまれる。

 nukkamさんもご指摘だが、論創の巻頭の登場人物表には総勢18人しか名前が出ていないが、例によってネームドキャラのメモを作りながら読むと名前が出て来る人物だけで60人以上を数えた。
 あんまり翻訳ミステリの巻頭にズラリと登場人物の名前が並んでいると、それだけで妙な満腹感が生じ、読書欲・購読欲が減退するというのは評者自身よくわかるが(イネスの『ハムレット復讐せよ』とか、正にソレね)、あまり割愛しすぎても、実作の内容に沿っていない編集側の不見識を疑われるのではないか。
 今回の場合ざっと見ても、物語のリアルタイムでの開幕以前のくだんの「自殺者」連中をふくめて、あと15~20人は登場人物一覧には必要だろう。

 でもお話の方は、とても面白かった。
 評者の場合、前述のように私的に登場人物メモを作りながら読んだことが幸いしたかもしれんが、舞台となるロンググリーティング村の住人たちの情報が続々と積み重なりながら、物語がテンポよく進み、そろそろ……という辺りで中盤の殺人が起きる呼吸も心地よい。
(ただし論創のハードカバーの表紙に書かれたあらすじの3行目はダメ。これ書いた編集、中味を読まずに翻訳者から口頭で梗概とか聞いて、実際の内容も確認しないで記述したんじゃないの?)
 
 真犯人もかなり意外ではあったし、それが残り少なくなったページの最後の方でわかる演出もいい。カントリーものの英国旧作フーダニットパズラーとしては非常に楽しめた。

 ただし出来がいいか? と言われると、ちょっと、う~ん……となる仕上がり。真犯人の決め手となる情報は後出しで、せめてもうちょっと早めに伏線とか欲しいし、何より肝心の(中略)。あれ、説明してないよね?
 
 読んでる間はすごく面白かったので、この評点だが、本当のところは0.3点くらいオマケ。<そのポイント>をうまく捌いて決着づけてくれていたら、十分に8点だったんだけど。
 確かにまだまだ、作者のミステリ作家としての伸びしろは感じるなあ……。
 ライスやジョセフィン・テイほどじゃないけれど、当時の若い才能の喪失を、今さらながらに惜しむ。

No.1 5点 nukkam 2025/03/26 07:17
(ネタバレなしです) 長く辛い第二次世界大戦がようやく終結し、ドロシー・ボワーズ(1902-1948)は「アバドンの水晶」(1941年)以来となる本書を1947年に発表します。翌1948年には英国推理作家のディテクション・クラブへの入会も果たしますがその矢先に肺結核で世を去ってしまいます。タイタニック号の海難事故に巻き込まれたジャック・フットレル(1875-1912)、心臓発作で倒れたE・D・ビガーズ(1884-1933)、スペイン内乱で戦死したクリストファー・セント・ジョン・スプリッグ(1907-1937)、アルコール中毒だったクレイグ・ライス(1908-1957)、ガンに冒されたケイト・ロス(1956-1988)たちと共に早すぎる死が惜しまれます。遺作となった本書ですが田舎と都会が混ざり合ったレイヴンズチャーチと周辺の村で春から初夏にかけて5件の自殺事件が起きます。6件目の事件は殺人事件で、被害者は「五人が死んだ。だが六人目も死ぬかもしれない」という匿名の手紙を受け取っていました。本当に自殺だったのかの疑問については探偵役のレイクス警部が第五章で「五件もの殺人を明白な自殺に見せかけることなど、天才でなければ無理です」と語っていて論創社版の登場人物リストには自殺者の名前が載っていないので重要でないのかと油断していると、中盤以降は彼ら(と関係者)についての捜査があって誰が誰だかわかりにくくなってしまいます。登場人物リストを補完することを勧めます。第十章で「もつれた糸を解きほどすことに多大な時間を費やすのが仕事のレイクス」と紹介されているように非常に地味に展開しますが終盤は容疑者同士が二人きりになる場面が相次いで挿入されてサスペンスが盛り上がり、劇的な(それでも抑制が効いていますが)結末を迎えます。探偵役による推理説明が不十分なのは本格派推理小説としては不満もありますが、犯人の自供書が印象的です。マザー・グースの「オレンジとレモン」の詩を引用しているところはマーサ・グライムズの「『五つの鐘と貝殻』亭の奇縁」(1987年)を連想させます。


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ドロシー・ボワーズ
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