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[ ホラー ] 髑髏城の花嫁 ヴィクトリア朝怪奇冒険譚シリーズ |
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田中芳樹 | 出版月: 2011年10月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
東京創元社 2011年10月 |
東京創元社 2021年03月 |
らいとすたっふ 2021年03月 |
No.1 | 7点 | Tetchy | 2024/06/30 01:52 |
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今回エドモンド・ニーダムとメープル・コンウェイが訪れるのはイギリス北部のノーザンバーランドに聳える髑髏城が舞台でしかも登場する怪物は人狼。
但し1作目もそうだったようにこのシリーズは田中氏オリジナルの味付けがなされた怪物が登場するのが特徴で、本書も通常の人狼物とは異なり、水族と翼族と2種類がおり、前者が水の中に棲む人狼であり、後者が翼を持つ人狼である。 さて髑髏城と聞いて私はすぐにディクスン・カーの『髑髏城』を想起した。カーの髑髏城は本書のダニューヴ河畔ではなくライン河畔、本書ではかつての東ローマ帝国が舞台なのでルーマニアになろうか。そしてカーはドイツで微妙に位置は異なるがほぼ似たような地方である。 そして本書の髑髏城の主ドラグリラはワラキアの貴族であり、ワラキア公国と云えば、吸血鬼ドラキュラのモデルとなった串刺し公ヴラド・ツェペシュである。つまり吸血鬼の系譜であるのだが、敢えて田中氏はそうせずに人狼の種族を持ってきているところは安直な方向に進まないという田中氏なりの矜持なのか。 ただ本書に登場する岩塩の山をくり貫いて髑髏の形に仕立て上げた髑髏城はさすがに作者の創作のようだ。上に書いたように吸血鬼伝説の色濃いルーマニアを舞台にしているからこそさもありなんと思わされるが。 ただ本書の物語の展開は唐突感が否めない。なんせニーダムとメープルはライオネル・クレアモントの依頼でノーザンバーランドの荘園屋敷に図書室や書斎を作るために訪れたのにいきなりそこで集めた血族たちを殲滅して富と権力を独占しようという大量虐殺に巻き込まれる展開が理解し難かった。 目的の異なる人物たちを集めること、つまり人狼たちと普通の人間たちをなぜ一堂に集める必要があるのか。他の賓客たちが人狼であることは追々露呈するだろうから、その席に図書室や書斎、書庫のプロデュースを依頼した者に下見に来させることがおかしい。つまり手段と目的の辻褄が合わないのだ。 そんなちぐはぐな印象の中で一気に物語は荘園屋敷で人狼たちの殲滅作戦が行われ、それに巻き込まれたニーダムとメープルの2人が自身の生き残りを賭けて、ライオネルと対決するようになり、物語が一気に結末へと向かう。 ここら辺はどうもやっつけ仕事のように感じてしまった。 主人公のエドモンド・ニーダムはクリミア戦争のバラクラーヴァの激戦を生き残った銃の名手というキャラ付けがなされているものの、書中の挿画に描かれた穏やかな風貌の英国紳士というイメージが怪物たちと渡り合うタフなヒーローへ結びつかないのだ。そして好奇心旺盛なこよなく書物を愛する姪のメープル・コンウェイもまたその書物愛とジャーナリスト志望という芯の強さだけが特色で、苦境を乗り越える線の太さを感じない。 つまり一般人に少しばかり特徴づけられた主人公2人に対して、相対する出来事が怪物や人外の者との遭遇と戦いというスケールの大きさと釣り合わない違和感をどうしても覚えてしまう。 とはいえ、本書ではその辺のバランスの悪さにこだわるよりもやはり田中氏の博識に裏付けられた裏歴史のエピソードや次々と登場する歴史上の人物、しかもこれまたイギリス文壇の著名人やウィッチャー警部ら学校では習わない有名人たちとの織り成す物語に素直に浸る方がいいのだろう。 |