皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格 ] ブレイディング・コレクション ミス・シルヴァー |
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パトリシア・ウェントワース | 出版月: 2005年06月 | 平均: 5.67点 | 書評数: 3件 |
論創社 2005年06月 |
No.3 | 7点 | 人並由真 | 2021/12/14 08:43 |
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(ネタバレなし)
第二次世界大戦から数年を経たロンドン。前身は家庭教師という、50歳代半ばの異色の女性私立探偵ミス・モード・シルヴァー。彼女は元・教え子の州警察本部長ランダル・マーチとも懇意で、これまでにも多くの難事件を解決してきた。そんなある日、彼女と同年代の有名な宝石コレクター、ルイス・ブレイディングが、近辺に不穏な気配があると相談に訪れる。だがミス・シルヴァーは依頼人の周辺の不健全な人間関係を聞きとがめ、まず生活態度を改めて宝石コレクション活動も見直すように諭した。かたや、ルイスの年下の従兄弟であるチャールズ・フォレストの別れた妻ステイシー・マナリングは、現在は細密画家として自活し、かつかつの生活を送っていた。そんなステイシーは元・大物の舞台女優マイラ・コンスタンチンから肖像画の製作の依頼を受けるが、彼女は間もなくチャールズとそしてルイスとも再会することになる。そんな彼らの周辺で殺人事件が。 1950年の英国作品。 母国では20世紀にかなりの人気を博しながら、邦訳された長編はこれ一作しかない、老嬢探偵ミス・シルヴァーの、日本語で読める貴重な事件簿。 ミス・マープルに比較されるのはよく聞き及んでいたが、アマチュア探偵のマープルと違い、こちらは完全なプロの私立探偵だよ。人柄の一面やキャラクターのビジュアルイメージこそミス・マープルに似通うところも確かにあるが、個人的にはむしろバーサ・クール(A・A・フェア)あたりが、あまり欲深さをあらわにせず社会正義の方を尊んだらこんなパーソナリティになるんじゃないか? という感触のハイミス女性探偵であった(あ、お金にこだわらないバーサというのも、かなり矛盾した存在か・笑)。 それくらい、ミス・シルヴァーは物おじせず、ガシガシと積極的に行動する(まあミス・マープルも、それなり以上に動き回るけどね)。 内容は、ミステリ部分と並行して、本心では別れたダンナと元鞘に収まりたくてたまらないのだが、女の意地で素直になれない本作のもうひとりのメインヒロイン、ステイシーのメロドラマ(ちょっとだけラブコメ風味)が進行。これがなかなか楽しくてグイグイ読ませるし、物語の舞台となるルイスの宝石コレクション(「ブレイディング・コレクション」)を納めてある施設「ウォーン・ハウス」の周辺に集まる登場人物たちもそれぞれキャラクターが明確に描き分けられている。評者の特にお気に入りは、後半のあるシーンでかなり<きっぷの良さ>を見せる某キャラだ。 全体的に、話が進むに連れて、色んな意味で、それぞれの<もう一つの顔>を見せてくる登場人物が多く、そういう意味でも退屈しない。お話の転がし方は、なるほどクリスティーに似ているが、本作だけで言えば、部分的には引けは取らないだろう。 ミステリの謎解きはやや早めで、明かされる真相は某・英国の大家の某作品を思わせた。あと、先のレビューでnukkamさんがおっしゃっている西村京太郎作品というのは……ああ、アレですね。自分も素で読んで連想しました(笑)。 終盤のミス・シルヴァーと真犯人の対峙の場面、さらに続くエピローグの余韻と合わせて、個人的には結構楽しめた。 自分はこういう傾向のカウントリー・ハウスものの良く出来た(ミステリとして、また群像劇のお話として)作品に惹かれる(他の作家で言うならエリザベス・デイリィとか)。 このウェントワースのミス・シルヴァーものはどんどん訳してほしいけど、試みに読後、Twitterで本作のタイトルを検索すると、版元の論創さんのスタッフの「あまりにも売れなかった」という主旨の、嘆きの声が聞こえてきた(……)。 一方で、そのTwitterの場では、数人ほど本作を読んだミステリファンが話題にしてるんだけど、評判は総じていいみたいなんだよね。 という訳でどなたか、原書を読める目利きの人が面白い作品をセレクトして、流行りの同人出版で翻訳してくれないだろうか? 滅多に出るもんじゃないだろうし、そんなに高くなければ、一冊すぐに注文します。 最後に、本作の名探偵ミス・シルヴァーといえば、あのマリオン・マナリングの名探偵(の偽キャラ)オールスターもののお祭りパロディミステリ『殺人混成曲』にも参加し、しかしその中で日本では一番マイナーなことで、一部のファンにも有名(?)。 で、評者もまだ『殺人混成曲』は未読なのだが、本サイトでの同作『殺人混成曲』に寄せられたminiさんのレビューは本っ当に、素晴らしい! パロディ、パスティーシュに接するのなら、まずはその原典を楽しまなければダメだと、先に本作(日本で唯一邦訳のあるミス・シルヴァーものの長編)を読むまで『殺人~』を紐解かなかったという。 こーゆー「ヲタクの心意気」こそ、ホンキでモノを愉しむ趣味人の本懐だよね。評者も遅ればせながら、見習わせていただきました。 (本サイトに来て「このサイトに参加してよかった!」と本気で初めて思ったのは、実はこのminiさんの『殺人混成曲』評を読んだ瞬間だったのだ。それくらい共感している。) というわけで、これでようやっと自分も、ミス・シルヴァー&ウェントワースデビュー。安心して心穏やかに『殺人混成曲』が手に取れるのであった(笑)。 |
No.2 | 5点 | nukkam | 2014/09/23 11:51 |
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(ネタバレなしです) アガサ・クリスティーと同時代に活躍した女性ミステリー作家はセイヤーズ、ナイオ・マーシュ、アリンガム、E・C・R・ロラック、エリザベス・フェラーズ、クリスチアナ・ブランドなどが日本でも有名ですが、最も作風がクリスティーに近いのは英国のパトリシア・ウェントワース(1878-1961)ではないでしょうか。作品も独身で編物が好きな老婦人のミス・シルヴァーのシリーズを中心に60作以上発表していたので人気も高かったと思います。1950年発表のシリーズ第17作の本書では事件がすぐに起きず、序盤は控え目なロマンス小説風ですが殺人事件が起きて探偵役のミス・シルヴァーが警察の捜査に協力するようになると一気に本格派モードに突入します。犯人当てとしてはちょっと面白くなかったところもありますが犯行のきっかけになったある出来事は西村京太郎の某有名作を彷彿させて印象に残りました(無論本書の方がずっと早く書かれています)。 |
No.1 | 5点 | mini | 2008/10/13 16:06 |
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未紹介だった頃は名前だけは日本でも知られていた作家
というのも老嬢探偵ミス・シルヴァーがあのミス・マープルに先んじて登場したというのが知られていたから ところがいざ翻訳されると話題にもならなかった ここでもちょっぴり擁護しておきたい 普通の本格としてはそんなに悪い作品ではないし、一発大トリックばかり求めなければ普通に楽しめる むしろ問題なのはクリスティに似過ぎて独自の個性に乏しい事 ミス・シルヴァーをそのままマープルに置き換えても通用しそう クリスティのファンには安心して薦められるけれど、それ以上ではなく、クリスティが持っていないような+αは何もない感じ |