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[ ハードボイルド ] リンドバーグ・デッドライン 私立探偵ネイト・ヘラー |
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マックス・アラン・コリンズ | 出版月: 2001年01月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
文藝春秋 2001年01月 |
No.1 | 8点 | 人並由真 | 2023/03/19 17:39 |
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(ネタバレなし)
1932年3月1日にアメリカのニュージャージー州で起きた「世紀の犯罪」。それは「孤独な鷲」こと、先だって太平洋横断飛行を達成した世界の英雄チャールズ・リンドバーク大佐の豪邸から、新生児の長男が何者かに誘拐された事件だった。地元警察の雑な対応で初動捜査に混乱が生じたなか、いまや米国政府を動かす要人でもあるリンドバーグは、先にアル・カポネを逮捕した財務省の功績に着目。その人脈から捜査力の増強を求めるリンドバーグの悲願は、シカゴの密造酒捜査官エリオット・ネスの推挙を経て、シカゴで地元の誘拐事件を解決した若手刑事である「わたし」こと、ネイト(ネイサン)・ヘラーを世紀の犯罪に呼び込むことになる。かくして、のちの私立探偵ネイト・ヘラーの人生に大きく関わる捜査が開始されるが。 1991年のアメリカ作品。 私立探偵ネイト・ヘラーものの長編第5作で、日本で邦訳があるたった三冊のうちの一本。 シリーズ第一作『シカゴ探偵物語』に続き、二度目のアメリカ私立探偵作家協会(PWA)最優秀長編賞を受賞した作品。邦訳はみっしりした級数の活字の文庫で、本文710ぺージ以上に及ぶ大冊である。 いやー、面白かったけれど、この量と質のボリュームゆえに、読むのには仕事しながら、通算四日かかった(うち半日は映画『シン・仮面ライダー』に行ったが・笑・) 山田風太郎の明治もののごとく、実際の史実の人物オールスターをこれでもかこれでもかと導入してゆくのが本シリーズの売りのはずだが(と言いつつ、邦訳そのものが少ないこともあって、評者が実際にこのシリーズを読むのは、これでまだ二冊目だ)、豪華絢爛な登場人物に加えてそこから膨れ上がっていく多重的な構造のエピソードの累積がただただ圧巻。 作者コリンズは本書の執筆のため、膨大な数の関連書を読み込んだらしく、その辺の述懐も著者自身の談話として添付されているが、ああ、これだけ取材してその上で、20世紀の大事件の裏面史をさらに新たにくみ上げたんなら、これくらいの密度と量感のものができてもおかしくはないだろう、と納得(とはいえ口でいうのは簡単だが、破格の筆力と構成力を要する作りだ)。 ちなみに評者のリンドバーグ二世誘拐事件の知識は、小学校高学年の頃に学校の図書館で、20世紀全般のノンフィクション叢書のなかで触れたくらいだが、遠い日の記憶がいくらか呼び起こされた。 どうせ脇筋の枝葉エピソードでしょう? と舐めてかかりそうになると、意外に細かい伏線を忍ばせてあるので、実にくえない作り。 例によって登場人物メモを作ったが、本当にワンシーンのみであろう人物名の記録を一部省いても、総勢130人ほどになった。あとあとになって久々に再登場したり話題になったりするキャラクターなんかいくらでもいるので、メモは必至である。 ミステリとしては、後半4~5分の1での切り返しで、一瞬、あ、それでいいのか? と思いもしたが、読み進むうちに、その辺の不満は解消。終盤の畳みかけるような展開と、うん、確かに(中略)なまとめ方、そして、ああ、そう来るのな、的なクロージングに万感の溜息をついて終了。 いやまあ、何はともあれ、最後までしっかり読んだ。読みごたえがあった。面白かった。 なお本書を手にして初めて知ったが、実は既訳の三冊以外にも、本シリーズは第10弾も文春文庫で翻訳刊行の予定があったらしい。 そしてこれが、ロズウェル事件、つまりあのUFO事件ネタにヘラーがからむというもので、なにそれ、読みたい!!! と思ったが、周知の通り、20年以上経った今でも未刊行……。 本書とか、よっぽど、売れなかったんだろうなあ。まあ、大半の私立探偵小説ファンは、この厚さで逃げるよなあ(……)。 万が一、翻訳文ができていたら(本シリーズ各編の長さなら、訳出作業の途中で中断の可能性も高いが)どっかの出版社で拾ってくれないものだろうか。 |