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[ 社会派 ]
白い闇の獣
伊岡瞬 出版月: 2022年12月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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文藝春秋
2022年12月

No.1 7点 人並由真 2023/01/12 06:40
(ネタバレなし)
 西暦2000年三月のその夜。昨日、若葉南小学校の卒業式を終えたばかりの少女、滝沢朋美が、父の俊彦を迎えに行ったまま姿を消した。やがて少女は無残な死体で見つかり、加害者の15歳の少年トリオは、少年法の厚い壁で、遺族の憤怒からも法の裁きからも免れる。そして4年後、19歳になったかつての加害者の若者たちが、一人ずつ死亡していく。

 文庫オリジナルだが、作者あとがきでの述懐によると、以前に書き上げて仕舞っていた長編を、思う所があって陽の目を見させたらしい。先に同じく文春文庫から文庫オリジナルで出た伊岡作品『赤い砂』と、同じ経緯のようである(評者はまだ、その『赤い砂』は未読)。
 
 題名の「ケダモノ」とは善性の欠片もない非行少年たちのこと。

 少年法の陰の部分や矛盾によって悲しみや怒りに封をされる凶悪犯罪の被害者や遺族の無念は本作の大きなテーマのひとつである。
 が、よくも悪くも伊岡作品の大半には<度外れた人間の心の闇>が主題として扱われているので、正直、今回はそういう題材(サイコパス非行少年の獣性)を語ったか、というような、冷めた部分も、評者のような受け手側にはあったりもる。
(もちろん、作中のリアルで凶行の犠牲になる少女の描写も、悲しみと怒りに精神を灼かれる遺族や関係者の叙述も読んでいて辛いものだが。)

 ミステリとしては後半~終盤で明らかになる「意外な犯人」の文芸設定にいささかブッとんだ。ここら辺は、テーマの社会性とかどうのこうのを全く別に、正にフィクション、オハナシという感じでハジけている。
 あと、被害者の少女・朋美の元担任で主人公ヒロインの香織が気づく伏線の張り方にもちょっとニヤリとさせられた。
 
 まとめるなら(秘蔵原稿の蔵出しとはいえ)、今回もいつもながらの「外道悪」を主題にした、おなじみの伊岡作品。その上でテーマがテーマだけに社会派度も高いが、一方でエンターテインメントのミステリにすることもちゃんと忘れていない、職人作家のお仕事。

 なおご本人は、これはある意味で、これまでの作家生活の集大成的な作品とかおっしゃっているようだが、ファンの末席の一人からすれば、いや、ちょっとソレは違うでしょう、とも思う(汗・笑)。作者の著作の中では、中の中か上くらいでないの?


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