皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格/新本格 ] そして、よみがえる世界。 |
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西式豊 | 出版月: 2022年11月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 2022年11月 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | 2023/01/05 17:21 |
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(ネタバレなし)
身体障害者のための介護技術と、日常の代替となる仮想空間の電脳世界が大きく発展した2036年。かつて理不尽な暴力によって首から下の機能を麻痺させた、元・天才的な外科医で42歳の牧野大(ひろし)は、かつての恩師である森園春哉から連絡をもらう。現在の森園は、現代日本でも屈指の電脳世界「Ⅴバース」を創造した大企業「SME社」に所属。Vバース内のアバターの住人は現実世界の人間と密接なリンクを行なっている。森園とSME社の要職たちの牧野への依頼は、Vバース内の医療施設「ホスピタル」に入院する、記憶と視力を失った16歳の少女エリカへの外科手術を願うものだった。 第12回アガサ・クリスティー大賞受賞作品。 昨年の受賞作(『同志少女よ』)が大反響な分、今年の受賞作は地味な印象だが、結論から言えばそれなりに楽しんだ。 内容は、昨今、隆盛の仮想空間もので、SME社のプロジェクトに関わった主人公・牧野の前に次第に隠された秘密が明かされていく。同時に関係者の現実世界での変死も発生。ミステリとしてはシンプルなものだが、一応、あるいはそれ以上に、フーダニットの興味も持ち合わせている。 読了後にトータルな視点で、物語の中での面白かった要素ひとつひとつを見つめ直していくと、どこかで見たようなもののパッチワークという感触もなくもないが、一方でそれらを丁寧に器用にまとめ上げている好編という評価は、したくなる。そんな作品。 (勝手な憶測ながら、受賞が決まってからさらに審査員や編集などの意見も取り入れ、伏線や前振りなどを練り上げ、完成度を高めたのではないか? という気もする。重ねて、評者の私的で勝手なイメージだが。) 仮想空間と人間の関係性を主題にしたリアルSF、オトナが読むジュブナイルのようとしては、なかなか面白かった。 弱点は前述のフーダニットミステリとしては、犯人がバレバレなこと(だって……)。ここらはもうひとひねり欲しかった気もするが、まあ際立った外道悪役キャラが作れてはいるので、そっちの成果を選択したのであろう。 昨年の傑作と比べたら気の毒だが、フツーに楽しめた。佳作の上から秀作の中のどこかに評価はおちつく。 |