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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
オデッサ狩り
テッド・オールビュリー 出版月: 1986年02月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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東京創元社
1986年02月

No.1 7点 人並由真 2022/11/22 07:32
(ネタバレなし)
 1980年、パリの一角。両親から愛情も得られず成長した27歳のドイツ女性アンナ(旧姓ボルトマン)は、優しくハンサムなユダヤ人の30歳の学者ポール・サイモンと結婚。彼の新妻として、ようやく幸福を掴もうとしていた。だがその幸せは、ある日いきなり夫ポールを爆殺され、妊娠中の我が子を流産させられたことで砕け散った。やがてアンナは、夫ポールがひそかに、ナチスの残党組織オデッサの活動を暴く運動に関わっており、それゆえに殺害されたのだと知る。ポール殺害の主犯格の元ナチス将校たちは4名。ポールの父で老富豪のピエールから託された生活の支援金を元手に、アンナは元CIAの戦闘教官ヘンリー(ハンク)・ウォーレスに接触。我が身に戦闘術を短期で叩き込みながら、4人の標的をひとりずつ抹殺していこうと動き出す。

 1980年の英国作品。オールビュリーの第16番目の長編。

 「スパイ小説」でもナンでもねえ、これはまちがいなくナチもの版『黒衣の花嫁』。
(というより、主人公の復讐の動機や事情が最初からわかってるのだから、むしろジェンダー違いのナチスもの版『喪服のランデヴー』か)。

 読み始めてすぐ、ソノことに気が付いて、ぶっとんだ発想というか、この趣向自体に大笑いした(ストーリーそのものは、まったくシリアスなのに)。
 いや、作者がどこまで本気でウールリッチを意識していたかは、ぜんぜん知らないが。

 アンナ(1953年生まれ)の父は、大戦時の戦傷で心がひずんでしまった人間であり、それゆえ娘に冷淡。そんななかで親から愛情を期待できないと幼心に察したアンナは心の逃げ場として一心に勉強だけはよくしており、かなりの秀才。しかし親の無軌道で大学を辞めさせられてしまった苦い過去がある。その辺の設定が、欧米のあちこちに散在する仇どもを追いかける際に、語学も堪能というキャラクター描写で活きて来る。さらにアンナがポールの死後に、改めて夫や義父たちユダヤ人の戦時中の悲劇を再認識し、そのショックと怒り、悲しみがドイツ国を狂わせた旧ナチス、今のオデッサ許すまじ、の義憤に変わっていく。
 いささか大味な気もしたが、まあ明快でよくもわるくもわかりやすいプロットではあろう。

 でもってアンナの復讐行のなかで出会った元CIAで戦闘教官のハンクが実質的なオトコ主人公になり、彼との関係性も後半の物語に深く関わっていく。
 
 そもそも復讐ものなんてのは、主人公がそれを遂行する叙述で読者にカタルシスを与える一方、その復讐成就の対価として支払わさせられる<なんらかのひずみ>を描くのが作劇セオリーだが、本作も後半のテーマは正にソレ。
 もちろんここでは具体的には(ハッピーエンドに終わるか否かもふくめて)書かないが、この作品はしっかりとそういった<復讐の対価>という主題に向き合い、なかなか余韻のあるクロージングまでを提示している。
(なんかちょっと、日本の民話というか、アノ昔ばなしを思い出すような締めであったけど。)

 先にも書いたように、全体に大味な感触もある一方、ところどころに小中のサプライズや、印象的な見せ場などを用意してあり、なかなか面白かった。
 ストーリーの流れが滑らかすぎてウソっぽい部分もなきにしもあらず、だが、エンターテインメントとしてはそれなりに楽しめる。

 佳作~秀作(……の一歩手前くらいかな)。
 でも評点は、これくらいあげたいんだよな。なぜか(笑)。


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