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[ サスペンス ]
夜のエレベーター
フレデリック・ダール 出版月: 2022年07月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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扶桑社
2022年07月

No.1 6点 人並由真 2022/09/14 15:46
(ネタバレなし)
「ぼく」ことアルベール・エルバン青年は、6年ぶりにパリに戻った。ときはクリスマスの時節。今は亡き母とかつて暮らしていた懐かしいアパートを訪れたアルベールは、やがて街中でひとりの美しい女性とその娘の幼女に出会う。その美貌の女性の容姿は、アルベールが以前によく知っていた別の女性を想起させた。

 1961年のフランス作品。
 故・長島良三が原書を読んで惹かれて、特に日本国内で出版の話もないままに私的に翻訳していた作品だそうである。その訳文の原稿が長島家の周辺から発見され、関係者の了解と企画推進のもとに今回の邦訳刊行になったそうで、こういうケースは、さすがになかなか珍しい。

 作品は文庫本で200ページ前後の短い長編ながら、繰り返されるヒネリのある、相応に中身の濃い内容。
 ただし一方で、すでにダールを数冊読んでいるなら、良くも悪くもいつもの職人芸的なトリッキィさという感じも強く、そういう意味ではソンな面もある一冊。悪く言えば、想定内の振り幅から大きく外れない、というか。
 逆に言えば初めてフレデリック(フレドリック)・ダールの作品を読む人になら、これはかなり適した長編かもしれない。

 インターネットの感想で先に言っている人もいたし、解説でも触れられていたが、どことなくアイリッシュを思わせる、ユールタイド(クリスマス・シーズン)らしいパリの抒情性が印象的。そんななかで生じる主人公アルベール周辺の寂寞感が、他のダールの諸作とはちょっと違った触感で味わい深い。佳作。
 
 ちなみに、今度刊行されるH・H・ホームズの『密室の魔術師』(「別冊宝石」の高橋泰邦の旧訳を引っ張り出してきたようだ?)などと合わせて、今年の扶桑社文庫は良い意味で(?)新規翻訳の外注経費をかけないで(?)、広義の海外クラシック発掘を積極的にやっているようで、これはこれでなかなかヨロシイ。
 特に「別冊宝石」の旧訳で書籍化されてない作品は、今後もどんどんこのように文庫に入れてほしい(最低限、21世紀の視点で原書との付き合わせの上での完訳の確認、さらに編集者による適宜かつ的確な推敲などもしてもらうとして)。


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フレデリック・ダール
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