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[ 警察小説 ]
ギデオン警視の危ない橋
ギデオン警視シリーズ
J・J・マリック 出版月: 1963年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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東京創元新社
1963年01月

No.1 7点 人並由真 2021/04/16 15:09
(ネタバレなし)
 スコットランド・ヤードの犯罪捜査部長、ジョージ・ギデオン警視は、出版社や新聞社の社主であるジョン・ボーグマンを以前からマークしていた。ボーグマンは資産家の妻リアを自動車事故に見せかけて、遺産目当てに殺害した嫌疑があったのだ。だが実業界の大物ボーグマンへの本格的な捜査は、辣腕の悪徳弁護士パーシー・リッチモンドの陣営にはばまれて難航。下手をすればギデオンたち捜査陣の立場を悪くしかねない面もあった。一方でそのころのロンドンでは、自動車泥棒集団の暗躍や幼女連続殺人ほか、多数の事件が並行して続出する。

 1960年の英国作品。ギデオン警視シリーズの第6弾。
 大昔にどっかの古本屋で買ったのを読む(巻末の目録ページの上に、鉛筆書きで80円とある)。

 大傑作だったシリーズ前作『ギデオン警視と部下たち』の次の長編。同作の後日譚的な趣もあり「老人」こと警視総監スコット・マール大佐とギデオンとの会話のなかに、一年前の内務省との軋轢の話題も出てくる。

 ボーグマン事件、自動車窃盗団事件の二つを大きな柱にしたモジュラー派警察小説としての作りはスタンダード、もしくはそこにちょっとプラスアルファという手応え。
 殉職する刑事や殺される情報屋の叙述など、そういう惨事が往往に起きるというのも作中のリアルであろうが、前作での鮮烈な描写のすぐあとだけに、なんとなく同じことをまたやっているという印象もなくもない(作中で命を失う、当該のキャラクターには申し訳ないが)。

 一方で本作の得点というか特色として、ギデオンの同僚の警視フレッド・リーが、かつて悪徳弁護士リッチモンドに別の事件で苦渋をなめさせられており、それが遠因で負け犬になりかかっているのだが、そこから今回の事件を契機に再起する図が、地味にしかしさりげなくドラマチックに語られる。こういうのはいい。
 あとはボーグマン逮捕の決め手となる、ちょっとトリッキィともいえるミステリ的なギミック、趣向もポイント。

 自動車泥棒事件の方では、犯罪者一味の悪事の目撃者の少女ラシュル・ガリーと若手巡査シリル・モスの距離感の推移や、なぜか巻頭の人名表にめだつように名前が出ているトラック運転手の青年レッジー・コールの役回りなど、それぞれ小説のデティルとしてなかなか面白い。
 ちなみに小規模の事件の方のいくつかは、いかにもストリーの厚みを増すためにトッピング的につけくわえた、という感じのものもあって(不倫男の殺人や、競馬界の陰謀など)、この辺はちょっとお手軽な気もしないでもない。
 まあ、悪事や事件というものは、絶えず不如意に生じるものだ、という真理において、妙なリアリティを感じさせる面もあるが。

 シリーズの中では中の上、という感じかな。まだ3冊しか読んでないから、大きなことは言えないのだが。
 評点はちょっとオマケして。


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J・J・マリック
1963年01月
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