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[ SF/ファンタジー ]
イヴリン嬢は七回殺される
スチュアート・タートン 出版月: 2019年08月 平均: 6.50点 書評数: 4件

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文藝春秋
2019年08月

文藝春秋
2019年08月

No.4 7点 小原庄助 2021/02/03 10:11
人は、自分の想像力や性格の限界を無意識に決め付けて日々同じ決断を下し、同じ過ちを繰り返す。だとしたら、全く同じ一日を最初から何度も繰り返すことが出来たら、限界を超えて正解に辿り着けるのか。こんな夢想をテーマに、本格推理にSFの要素を入れ込んでいる。
舞台はイングランドの森の中に建つ「ブラックヒース館」。所有者の娘イヴリン嬢の帰還を祝って仮面舞踏会が開かれる。そんな朝、「アナ!」という叫び声をあげた自分に驚いて「私」が覚醒する。だがアナが何者なのか分からない。翌朝目覚めると、同じ日の朝で、「私」は執事コリンズに、その翌日は遊び人ドナルドになっていた。
必死に状況を把握しようともがく「私」の前に、中世の「黒死病医師」の仮装男が姿を現し、その日の夜に実行される。イヴリン嬢殺害の真犯人を特定した者一人だけが、このタイムループと人格転移の世界から解放されるという情報をもたらす。
不穏な空気漂う館を泳ぎ回り、同じ一日を8回、別人として繰り返しながら、「私」は必死で謎を追う。初めは、理不尽な状況に混乱するばかりだった「私」が何度も巻き込まれるうち、反撃に転じていくのだ。
繰り返すということは、前の失敗を回避するための対策が出来るということ。メモや方位磁石などを効果的に配置しておき次回の転移に備える周到さを見せ始める。面白いことに、終盤乗り移った宿主の想像力や性格が「私」のそれと混じり合い、自分の限界以上の多視点の獲得した新たな「私」が誕生する。張り巡らされた罠の裏をかき、仲間との連帯で危機を乗り越えていく。英国伝統の本格推理とSFの合体劇にワクワクし、予想外のオチに驚愕する。

No.3 5点 ボナンザ 2021/01/04 21:38
人格転移+タイムリープ+本格ミステリ、ではあるがやはり前二者にリソースが大きく割かれている感は否めない。
タイトルと読了感はちょっと乖離しているかも。

No.2 7点 びーじぇー 2020/11/09 20:55
主人公の人格転移とタイムスリープという奇想と、黄金期を思わせる館ものミステリというクラシックな舞台を融合させた意欲作。
医師セバスチャンとして目覚めた記憶喪失の男が持つ最後の記憶は、森の中で何者かからアナという女性を守れなかったという苦いものだった。男はブラックヒース館の仮面舞踏会に招待され、館の主人の娘イヴリン嬢と親交を深めるが、何者かの仕業で意識を失う。そして目覚めた瞬間、男の意識はセバスチャンではなく、館の執事の体に乗り移っていた。
気絶から殺害されるたびに他の人間として物語の「一日目」からくり返しブラックヒース館の数日、館を経験するようになった主人公は謎の男からイヴリン嬢の死の謎を解くことが館のタイムリープから脱出する鍵だと告げられる。
緻密な設定と積極的な小道具の使い方によって、複数の登場人物の視点からブラックヒース館の数日間の様々な意味での「すべて」を描き出す腕はお見事。

No.1 7点 HORNET 2019/12/28 13:22
 ある時突然、森の中にいる自分。自分が誰なのかもはじめは分からず、何が起こっているのかもわからない。すると怪しい風貌の人物が現れて告げる。「ここで夕刻に起こる殺人事件の真犯人を解明せよ。それができるまで、お前は違う人物に入れ替わって何度も同じ日をループすることになる」―

 主人公がさまざまな人物になり、同じ日を何度も繰り返すうちに少しずつ事件の裏にある過去や人間関係が分かっていくのだが、なにせややこしくて複雑。多くいる登場人物を頭に入れるのにも苦労して、少し前を見返すことを何度も繰り返して読み進めた。
 ようやく物語の設定に慣れてきたころはもう終盤だったが、複雑な構造で仕組まれたストーリーが収束するさまは素晴らしかった。中盤、敵・味方がくるくる入れ替わっていくのだが、最後に用意された結末には驚かされた。


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スチュアート・タートン
2022年02月
名探偵と海の悪魔
平均:6.00 / 書評数:3
2019年08月
イヴリン嬢は七回殺される
平均:6.50 / 書評数:4