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[ SF/ファンタジー ]
敵は海賊・短篇版
敵は海賊シリーズ
神林長平 出版月: 2009年08月 平均: 5.00点 書評数: 1件

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早川書房
2009年08月

No.1 5点 2019/10/31 03:16
 書き下ろし作品を含む長めの4短篇を収録した「敵は海賊」シリーズ初の短編集。番外編ながら本編ともいうべき最初期のパイロット版「敵は海賊(海賊・匋冥ではなくラテルが主人公)」は、処女短編集「狐と踊れ」に引き続いての収録。
 SFミステリと言うか未来世界ミステリとしてそこそこな出来の、その「敵は海賊」がやはり一番。世界のシステムを侵す海賊と、それに対抗して部分的な生殺与奪権を含む圧倒的な権限を付与された、海賊よりも海賊らしい〈宇宙海賊課〉とのせめぎあいを描いた作品。宇宙中のたいていのコンピュータといつでも接触し割り込んで、最優先で権限を押し通すインターセプター〈横取り装置〉に代表される、海賊課の存在そのものをトリックに使用したものです。
 火星連邦の一都市アモルマトレイから海賊課に、失踪した叔父を探してくれとの依頼が届く。ケイマ・ヒミコという名の若い女は宇宙キャラバンの一族で、二年前海賊に襲われ彼女と叔父のほかは皆殺しにされたのだという。二人は追跡を逃れるため偽名でアモルマトレイに住み着いたのだが、宇宙船内で育った彼女は地上生活になじめず、一か月ほど家出したあと帰ってみると叔父は消えていたのだった。そしてアパートのアンドロイド管理人夫婦を含む都市の全データからは、叔父の情報は全て抹消されていた。
 ここは特殊な街で、連邦のデータ端末からは独立して中枢コンピューターによる中央集権的管理体制をとっている。全体主義的な旧都市体制だが、逆にもしこの都市を乗っ取りたければ中枢コンピュータを奪えばよく、それは決して不可能な事ではない。あるいは市当局そのものがこの事件に関わっているのか? ラテルチームはヒミコと共にアモルマトレイに乗り込み、事件の解明に挑むが――
 「敵は海賊」シリーズは何冊か読みましたが、やはりこういうカッチリしたのが好きですね。もしくはメタな構成優先の長編「敵は海賊・海賊版」みたいなの。あとがきで作者が「実験小説的な構造を試みたりしている」と述べていますが、そういうのはどうも合いません。〈妖麗姫(宇宙の船幽霊みたいな超存在)〉や「神」とかのデウスエクスマキナをいきなり出されても、どうとでもなるから困る。短編集「プリズム」みたいに世界の構造が読者に提示されてれば問題無いですが。
 そういう訳で「わが名はジュティ、文句あるか」と「匋冥の神」は除外。次点は雪風シリーズとの共演作「被書空間」ですかね。ただどうにも「敵は海賊」シリーズのギャグは合わない。やはり神林作品はシリアスなのが好みです。


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