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[ SF/ファンタジー ] 今宵、銀河を杯にして |
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神林長平 | 出版月: 1987年05月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
徳間書店 1987年05月 |
早川書房 1995年07月 |
No.1 | 6点 | 雪 | 2019/10/30 11:20 |
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地球人とネコ型異星体バシアンとが終わりなき戦闘を繰り返す惑星ドーピア。そこにあるあまたの戦闘車輛の中で最も長いパーソナルネームを持つ戦車の名は、マヘル-シャラル-ハシ-バズと言った。いわくMahershalalhashbas。その意味は"戦利品のところへ急げ"。
トラブル発生とサボタージュを目的に名付けられたそのパーソナルネームは、既に一度連隊本部コンピュータの頭を発狂させていた。操縦士のアムジ・アイラ一等兵と火器管制士のクアッシュ・ミンゴ二等兵も問題児扱いで、二人と一台はドーピア赤道方面軍団-第48装甲騎兵中隊隊長・バルサム大佐の頭痛の種だった。彼らは大佐に(おまえらなど砂漠の砂になってしまえ)と思われていた。 そんな折、マヘルの下敷きになって死亡した戦車長ミルトン少佐の代わりにはるばる地球からやってきた青年、カレブ・シャーマン少尉が五代目車長として任命される。自称天才の彼は自らの理論を実証するため、また戦争を終わらせるために、惑星ドーピアでの実地フィールドワークに志願したのだ。 だがはちゃめちゃなドーピアの現実と二人と一台の行動は、彼の予想を遥かに超えていたのだった・・・ 雑誌「SFアドベンチャー」誌上に1985年5月号から1987年3月号まで不定期掲載された連作長編。神林ファンいわく「陽気な雪風」。「意思を持つ兵器とその搭乗員の物語」という設定は共通していますが、こちらはギャグテイスト。コンピュータが野生化して繁殖衝動を持ち、自己プログラムを強制的に他のコンピュータプログラムに組み込んで「子供」を生み出す世界。人類が平和維持軍として支援する現地アンドロイド「オーソロイド」もイドの導きのままに、ひたすらセックスに勤しんでいます。 維持軍もバシアンも今更引くに引けず、ダラダラと惰性で戦っている状態。第721連隊長・ペサリ准将にはホモ疑惑があり、主人公のろくでもない部下二人は"自分たちがいかにして安全に後方でサボるか"に腐心しています。ただ彼らの関係は悪くなく「何とか面倒見てやらないと」と、お互いにフォローし合っています。 人類+オーソロイドVSバシアンに、オーソロイドが造った昆虫人型のドールロイド及び反逆したドールロイドゲリラ、精神攻撃をする謎の原住生物アコマディアンも加わって最早グチャグチャ。カレブはドーピアを支配する原理を見極めるべく、部下たちと一緒に地球移民オーソリアンが残した古代遺跡グランパートを目指すのですが、そこで彼らの滅亡の原因が明かされます。 生きるって素晴らしい、セックスって素晴らしい、お酒はもっと素晴らしいというお話。タイトルはアムジとミンゴが乾杯するときのセリフですが、戦闘描写はあるものの基本的には能天気。 全8話のうち最初の3話が各単独で、中盤から終盤にかけての5話がグランパート行き。中ではカレブ少尉がホームシックにかかる第三話「想い募りて」(ややミステリ風味)と、本書を象徴する第7話「時を超えて、乾杯」がベストでしょうか。ファンも多い作品ですが個人的には雪風の方が好きです。 |