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[ SF/ファンタジー ]
プリズム
神林長平 出版月: 1986年08月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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早川書房
1986年08月

No.1 6点 2019/04/28 07:42
 黒と青の王と緑の女王、数々の将魔や使い魔たちが蠢くダークファンタジー風の世界。中華風の氏族社会と思われるのどかな風景が広がる、すべてにしてひとつの本が原動力となる色の世界。そして地上3万メートル上空に浮かぶ、直径137メートルのスーパーコンピューター「浮遊都市制御体」により、社会システム・ライフライン・気候から個人の願望を含むすべてが完璧に制御された、"リンボウ"と呼称される中間界。
 登場人物それぞれの視点を変えて、異なる角度から三つの世界を紡ぎ出す、7つの短編で構成されたオムニバス作品集。1987年度第18回星雲賞受賞作。
 神林ワールドを俯瞰するような短編集。同作者の〈敵は海賊〉シリーズにもたまに異世界観丸出しの黒幕がチラッと登場しますが、本作もまた然り。それぞれ異なる法則によって成り立っている各々の世界で、降り立った異世界人たちが異分子としての力を振います。世界に拒絶されるもの、より強い力を求めて逆に世界を破壊するもの、世界になにものかを残すものなど、様々な在り方で。
 雑誌「SFマガジン」に、1983年9月から1986年6月までランダムに掲載されたもので、冒頭の短編「ペンタグラム」から「ルービィ」まで四編一括り。次の「バーミリオン」から書き下ろし最終作「ヘクサグラム」までが三編一括り。前者が〈色の世界〉の教師・賽還とその恋人・朱夏の冒険に、緑の将魔エスクリトール・青の将魔ヴォズリーフ・中間界の知能回路ユニットTR4989DAが絡むもの。後者は異世界からの来訪者たちに引っ掻き回されて過去を喪失した中間界の刑事が、失った己を取り戻すまでの物語。
 正直剣と魔法系のファンタジーは苦手なのですが、この作品で魔将たちが駆使するのは〈創言能力〉と〈創想能力〉。前者は「言葉によってこの世の全てを成り立たせる」というもので、神林愛読者にはお馴染みの物でしょう。これらを操ると、コンクリートの建造物は跡形もなく破壊され、人間は骨を抜かれたクラゲのようにクタクタに崩れてしまう。この認識は後年の作品にも通ずるもので、かなり初期段階から作者の世界観が定まっていることを窺わせます。なかなか興味深い短編揃いですが、個人的な好みからは外れるので6.5点とします。


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