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[ ハードボイルド ]
死への旅券
エド・レイシイ 出版月: 1957年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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早川書房
1957年01月

No.1 7点 人並由真 2019/10/23 12:10
(ネタバレなし)
 1591~52年のある夜、ニューヨークの路上で20歳の青年フランクリン(フランク)・アンダーサンと、刑事エドワード・ターナーが射殺された。フランクは新商品の販促キャッチワードを考えるキャンペーンに応募し、賞金の1000ドルを獲得したばかり。だがそのフランクとターナーの間に特に接点は見出せず、ターナーの若妻ベッツィは「私」こと37歳の私立探偵バーニー・ハリスに調査を依頼する。ハリスは当初、刑事の殺人事件ならNY市警も本気で動いてるだろうと思い、そこに介入する事に乗り気でなかった。が、今回のベッツィの依頼が、ハリスの亡き愛妻ヴァイの弟でもあるアル・スワン刑事からの紹介ということで、応じる事にする。しかしそんな頃、ハリスとは別個のところで、ある二人組が何か怪しい計画を進めていた……。

 1955年のアメリカ作品。作者レイシイの長編第六作で、日本で初めて紹介された作品。巻末の都筑道夫の解説によると、刊行当時、アンソニー・バウチャーから激賞されたというが、確かに面白い。事件の背景を点描するプロローグ部分を経て、本文は主人公ハリスの一人称パートと、何やら犯罪がらみの元GIコンビ、マーティン・ピアースンとサム・ランドの三人称パートを交互に叙述。おおむねそんな感じ。双方の物語がどのようにリンクするのかで読者の興味を引っ張る辺りは、ちょっとB・S・バリンジャーっぽい。物語の後半で明かされる犯罪の実態にも、それなりの独創性がある(まあ21世紀の現在の社会では、ちょっと成立し得ないタイプの悪事ではあるが)。
 
 愛妻を失い、妻の生前に迎えた6歳の養女ルーシーを慈しみながら、探偵家業に努める元自動車整備技術者の主人公ハリスをはじめ、ヒロイン格となるベッツィ、もう一方の主人公コンビといえる元GI側、さらにはフランクが通っていた酒場の常連である盲目の元ボクサー、ダニー・マッツィとか、ハリスから彼の仕事中に子守を頼まれるあれやこれやの周囲の人物達まで、登場人物はそろって存在感豊かに書き込まれている。

 なお本作はいわゆる「あまりタフガイ主人公でない、(狭義のハードボイルドとはいえない)私立探偵小説」であり、逆にその辺の持ち味がとても良い感じに魅力になっている。終盤の展開のネタバレになるかもしれないのであまり詳しくは書けないが、主人公私立探偵と警察側そのほかとの距離感も、当時としてはかなりユニークなものだったのではないか。
 ラストは余韻があるクロージングでとても良い。主人公ハリスはなかなか魅力のあるキャラクターなので、続編があればぜひ読みたいと思う一方、彼の「妻と死別して、現在は養女をひとえに大切に養育する、良識のある私立探偵」という文芸は、この一作で燃焼しきったからこそ良かったんだろうな、とも思う。実際、レイシイにシリーズ探偵がいるなんて話、聞かないし。
 
 ちなみにやはり前述のポケミス巻末の都筑の解説によると、作者レイシイは本書の翻訳前から、日本のポケミスの噂を知り、ぜひ自分の本も紹介してほしいと向こうから手紙を書いてきたそうである。実際にこういう売り込みが他によくある事例かどうかは、寡聞にしてあまり知らないが、レイシイほどの実力のある作家なら、黙って日本に紹介されるのを待ってても良かったのでは? とムセキニンな事を考えもしたが、その辺のバイタリティというか積極的なエネルギッシュさもまた、面白い作品を生み出したプロ作家の面目躍如といえるかもしれない。
 
 最後に、全体的にはとても好きなタイプの作品だが、謎解きミステリとしてみると、一点だけ、あるポイントの真相において、ちょっと弱いところがある(もちろんここでは詳しく書けないが)。その辺りの良くも悪くも読者のうっちゃり方も、作者の狙いだった可能性もあるけれど。そんな所を勘案して、実質7.5点くらいのニュアンスでこの評点。

【2019年11月10日追記】上にレイシイ作品にレギュラー探偵はいない? かもしれないように書いたが、そのあとでパシフィカの「名探偵読本」シリーズの6巻「ハードボイルドの探偵たち」を読みかえしてみたら、『ゆがめられた昨日』の主人公の黒人探偵トゥセント・モーアも『褐色の肌』の黒人刑事リー・ヘイズもそれぞれ未訳作品で再登場しているらしい。まずはそのうち未読の『ゆがめられた昨日』も読んでみよう。


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