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[ 本格 ]
突然に死が
スカット・ジョーダン弁護士
ハロルド・Q・マスル 出版月: 1962年01月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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早川書房
1962年01月

No.2 7点 人並由真 2020/09/29 20:17
(ネタバレなし)
「おれ」こと弁護士スカット・ジョーダンは、若手弁護士の相棒ミッチェル(ミッチ)・プライヤーとともに日々の職務に励んでいた。そんなある夜、拳銃で撃たれて重傷を負った見知らぬ男がジョーダンの事務所を訪ね、彼に片言で何かを警告したのちその場で死亡した。死んだのはニューオリンズの私立探偵ヴィクター・グローヴとわかるが、ジョーダンには得心がいかない。とりあえず警察に通報したジョーダンだが、その後、病身で老人の大富豪レノックス・エインズリィから呼び出しがある。彼の依頼内容は行方不明の姪ルイズ・パスの捜索とのちのちの資産の継承の世話で、実はグローヴもその関係で動いていたことがわかる。かくして本格的に事態に介入するジョーダンだが、そんな彼の周囲でまた別の騒動が生じて……。

 1949年のアメリカ作品。スカット(スコット)・ジョーダンシリーズの第二作め。
 田中小実昌の翻訳が快調なこともあるかもしれないが、ストーリーは、けっこうリーダビリティの高かった前作『わたしを深く埋めて』をさらに上回る流れの良さ。
 物語(複数の事件や案件)はそれなりに錯綜するのだが、全体的にキャラクター配置に無駄がなくかつ的確で、筋立てが非常に理解しやすい。

 足を使って関係者の間を歩き回るジョーダンの機動力は、まさに軽ハードボイルド私立探偵小説の食感に近い。それにくわえて、フーダニットの要素を備えた事件が物語の終盤、かなりギリギリになってからも起きる展開にもワクワクした(ただし、その流れの上では、パズラーとしてはちと、ムニャムニャ)。

 しかし、最後の最後のミステリ的な趣向には、はあああ! と驚かされた。ここではあまり詳しく書かない(書けない)けど、二作めで早くもこういうミステリの作り方を作者マスルが心得ていたのなら、こりゃシリーズが成功するわけである。いや、これはこのあとの作品も楽しみ。

 100万部以上を売ったという第一作から2年。版元的にはもっと早めに人気がホットなうちに続編を書いてもらいたかったろうが、一年以上の期間をかけただけの出来ではある。
 戦後アメリカの風俗描写のボリューム感は前作の方がこってりしていた(その辺も良い味わいであった)けれど、今回はその辺りがいくぶんスリムになった反面、お話はより洗練され、ミステリとしての完成度はぐんと増した。

 なお前作から引き続き登場するレギュラーキャラは
<ジョーダンの仲間・友人枠>ジョン・ノーラ(殺人課の警部)
<同、ライバル・敵役枠>フロイド・ディロン(金に汚い弁護士)
            フィリップ・ローマン(地方検事)
            エド・マゴワン(地方検事補)
            エルモ・ボイス(警視)
……などなど。今作からまた、さらにレギュラーは増えるかもしれない? 次作を読まないとわからないが。

 ちなみに第一作でジョーダンが地味に頼りにしていた、太って有能なアラフォーの秘書キャシディは、どっかにいなくなってしまった。
 こーゆーヒロイン枠にならない秘書は、要らないということだったのかね? まあ、あからさまにデラ・ストリートや途中からのエルシー・ブランドとの差別化みたいで、あざといとか思われたのかもしれんが。妙に存在感のあるおばさんキャラだったので、ちょっと残念。

No.1 6点 nukkam 2019/10/07 22:57
(ネタバレなしです) デビュー長編のスカット・ジョーダンシリーズ第1作「わたしを深く埋めて」(1947年)がミリオンセラーとなる大ヒットとなった作者のシリーズ第2作が1949年発表の本書です。ジョーダンのアパートを突然訪れた見知らぬ男がその場で倒れて死んでしまいます。男は何の用事でジョーダンを訪れたのか、一体誰が何のために殺したのかという謎解きですがプロット展開は前作以上にハードボイルド風で、ジョーダンは自分は弁護士で私立探偵ではないと言いますがほとんど弁護士らしくありません。はったりと脅迫で容疑者たちと対峙する場面が多いです。同時代のE・S・ガードナーのペリー・メイスンシリーズとの違いを出そうとした結果なのかもしれませんが。本格派好きの私には肌が合わないなと思いながら読み進めましたが終盤に至るとジョーダンは本格派の名探偵と化し、謎解き伏線を次々に回収しながらの推理で犯人を追い詰めます。ここの本格度は「わたしを深く埋めて」を上回ると思います。とはいえ事件の決着は典型的なハードボイルド流の締めくくりになってますが。


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ハロルド・Q・マスル
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