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[ 本格/新本格 ]
猫河原家の人びと 一家全員、名探偵
猫河原家
青柳碧人 出版月: 2018年06月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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新潮社
2018年06月

No.1 6点 人並由真 2019/09/11 02:30
(ネタバレなし)
「あたし」こと猫河原家の次女・友紀は、進学したばかりの女子大生。自宅暮らしの友紀は、早く家を出て一人暮らしがしたかった。なぜなら現職刑事の父、通いの家政婦として他人の家庭の秘密を窺う母、アマチュア民俗学者にして探偵小説の新人賞を狙い続ける万年作家志望の長兄、そして紅茶専門店で働きながら「日常の謎」を追う姉、と、家族が揃いも揃って変人クラスの「探偵」たちばかりだからだ。まともなのは理系に強い勤め人の次兄くらい。今日も我が家では、銘々が持ち寄った事件の謎をもとに「捜査会議」が開催され、名探偵らしい推理を披露しないとご飯ももらえない。こんな日々がイヤでイヤでたまらない友紀だが、事件と家族の絆は向こうの方から追い掛けてきて。

 シリーズ作品を複数抱える作者が開始した、新路線の連作パズラー集の第一弾(初出は雑誌「yom yom」に連載)。本は文庫オリジナルで発売。
 一冊目の連作短編集には全5本のエピソードが収録されていて、最後の二本はひとつの事件を分割して綴る前後編なので、猫河原家の向き合う4つのミステリということになる(さらに各話のメインストーリーの合間合間に、作中で一家が接した事件の話題が、何回か断片的に語られる)。

 なお「探偵家族」の設定では他にもM・Z・リューインなどにも該当のものがあるようだが、すみませんが評者はそっちはまだ未読。
 まあ本作を読む限り、家族の各自が事件にそれぞれの探偵スタイルで別の角度からアプローチして軽妙な多重推理を連ねていくという、そんなシチュエーションの狙い所も明確で、たぶんこの作品独自のオリジナリティは獲得してるんじゃないかと思う?
 その上で、いちばん推理の実働に積極的でない主人公の友紀が最終的に名探偵になってしまうというのも『黒後家蜘蛛の会(『ブラックウィドワーズクラブ』)』のヘンリーみたいなお約束シフト(それっぽくない真打ちポジション)ながら、安定した面白さに繋がっている。

 ミステリとしての本書は、第1話の奇妙な殺人現場の状況の謎、第2話の準密室的な殺人の謎がそれぞれ良い感じでウォームアップしてくれて、第3話のかなり練り込まれたプロットとキャラクター配置が特に面白い。
(第4・5話も悪くはないが、これは事件の大筋は、比較的早く見当がつくだろう。)
 
 一冊のキャラクターもののミステリ+連作パズラー短編集としてはなかなかのレベル。「日常の謎」担当の長女かおりのメイン編などがまだ登場してないが、その辺は今後のシリーズの伸びしろとして期待できるだろう。飽きが来ない限りに、良い意味でまったりと続いて欲しい路線になりそうである。


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