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オニオン・フィールド―ある警官殺害事件
別題『オニオン・フィールドの殺人』
ジョゼフ・ウォンボー 出版月: 1975年01月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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早川書房
1975年01月

早川書房
1983年02月

No.1 8点 人並由真 2019/07/14 12:49
(ネタバレなし)
 1963年3月9日の夜。ハリウッド周辺の市街で、ロスアンジェルス市警の青年パトロール警官二人が、拳銃を持ったまだ若い二人組の強盗に誘拐された。警官の一人は郊外のタマネギ畑で射殺される。武装した強行犯による警官の拉致は決して珍しい事件ではなかった。だが……。

 1973年のアメリカ作品。処女作『センチュリアン』でロス市警の現職警官作家としてデビューしたウォンボーの第三長編で、本書は作者が初めて現実の事件に材を取ったドキュメントフィクションノベル。
 当時の現実の若手警官が殉職した事実はもちろん不条理な悲劇だが、事件そのものにはほとんどまったくといって良いほどドラマチックな意味での物語性はない。だがウォンボーの並々ならぬ筆力はそれぞれ二人組の強盗と警官コンビ(特に後者の生き残った方)に対し、彼らの事件のビフォーアフターの迫力あるドラマを絶大なボリュームで描き出していく。その筆勢は、材料となる木柱の中から精緻な芸術品を現実の世界に彫り出す天才のある彫刻家のごとぎだ。
 主要人物4人のみならず作中に登場する人物名は細かい者も含めれば200人に及ぶ総数だろうし(いつも登場人物の一覧リストをかなりマジメに作る筆者も本書では特例的に一部、これは一過性のモブキャラだろうと当りをつけたものはスルーしたほど)、そんな彼らの行状の要所も手を抜かず押さえ込んでいくドキュメント小説の精緻さは、言い様もない迫力で読み手を揺さぶる。
 小説(あえてそう呼ぶが)本文とは別に、冒頭から意味ありげに挿入されていた奇妙な? 叙述パートが作品の中盤でするりと本筋の方に流れ込んでくる構成上の技巧もさながら、事件後に逮捕され、収監された犯人たち、そして生き残った警官の去就を機軸にこの事件に関する壮大な叙事録を紡いでいく作者の執拗なまでの情念に圧倒される。特に小説後半の、繰り返され、長引いて、そしてひとりの若手警官の死という悲劇を形骸化、空洞化させていく裁判審理の停滞ぶり、現地の死刑制度のゆらぎなどは、読み手の焦燥と緊張をこの上なく高める。
 ハードカバー二段組み、小さめの級数で430頁という大部の作品を二日で一気に読み終えたが、ページを開いてから読了までに個人的には『月長石』『バーナビー・ラッジ』に匹敵するレベルのエネルギーを使った。まちがいなく優秀作~傑作。MWA特別賞受賞も納得の内容である。

 ちなみに本作はミステリファンサークル<SRの会>の会員が読後の評価による採点の平均点で選出した、1975年度の翻訳ミステリ部門ベスト1作品である。その年の2位以下が、②『オスターマンの週末』(ラドラム)、③『戦争の犬たち』(フォーサイス)、④『マラソン・マン』(ゴールドマン)、⑤『ロゼアンナ』(シューヴァル&ヴァール)、⑥『強盗プロフェッショナル』(ウェストレイク)、⑦『カーテン』(クリスティー)、⑦『転倒』(フランシス)⑨『シャーロック・ホームズの素敵な冒険』(メイヤー)⑩『ジョーズ』(ベンチリー)……と当時の話題作揃い(今では時代に埋もれた作品もいくつかあるかも)。
 私的に、大昔の割と早いうちに2~10位までは読んだが、本作『オニオン・フィールド』だけは、読めば絶対に手応えのあるスゴイ作品なんだろうな、と思いつつも、ドキュメントフィクションノベルという通常のミステリでない形質、さらに何よりその重量感から腰が重かったが、ようやく今回、積年の思いを果たした。

 ただ個人的にはウォンボーっていったら『デルタ・スター刑事』『ハリー・ブライトの秘密』みたいな、「警察小説というジャンルで、こんなアクロバティックなミステリをやるのか!?」という、あのぶっとんだ資質の異能の作家なんだよね。またそのうち、あっちの路線の作品も読んでみたくなった。


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ジョゼフ・ウォンボー
2009年07月
ハリウッド警察特務隊
平均:6.00 / 書評数:1
2007年08月
ハリウッド警察25時
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1985年06月
デルタ・スター刑事
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1975年01月
オニオン・フィールド―ある警官殺害事件
平均:8.00 / 書評数:1
1972年01月
センチュリアン
平均:8.00 / 書評数:1