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[ SF/ファンタジー ]
ゴーレム100
アルフレッド・ベスター 出版月: 2007年06月 平均: 9.00点 書評数: 2件

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国書刊行会
2007年06月

No.2 9点 YMY 2020/09/14 19:35
一九八〇年に発表した幻の奇書。そのとんでもなさは本をパラパラめくるだけで一目瞭然。楽譜、ロールシャッハ・テスト、写真、漫画などなどが縦横無尽に入り乱れ、テキストとビジュアルがキメラ状に融合している。
物語の舞台は二一七五年のメガロポリス。八人の有閑マダムが悪魔召喚ごっこでうっかり本物の怪物を生み出してしまい、やがて凄惨な連続殺人事件が...。いかにもB級ホラーじみたこの筋立てがどんなにすさまじい小説になっているか、ぜひ実物で体験してほしい。

No.1 9点 2019/06/10 01:36
 旧ニューヨーク市を中心としてカナダからボストン、ピッツバーグまでも含むアメリカ合衆国北東部スラム回廊。狂気の暴力がはびこるその土地は汚染され、水不足にあえぐかたわら他方では生気に満ち、特権階級にはあらゆる奢侈と贅沢とが許されていた。
 西暦二一七五年、混沌そのものな〈ガフ(でまかせ)〉と呼ばれるその場所で、超常のものとしか思われぬおぞましい惨事が頻発する。ガフ警察管区のスーバダール(隊長)アディーダ・インドゥニは、ありとあらゆる破滅的な残虐行為を目にしてきたと思っていたが、カツオブシムシに瞬時に食い尽くされる死体や、腸を引き出されながら眼前で泣き叫ぶ被害者を見せられては、吐き気を催すしかなかった。ぎらぎらと輝く不定形の死刑執行人は、白熱した無数の手で凶行をおこない、むかつくような匂いだけを残して消えていった。
 一方、香水製造会社のリーダーとしてガフに君臨するCCC(波型缶会社)は、かれらを業界のトップに押し上げた天才調香師、ブレイズ・シマの異常に悩み、紆余曲折の末に精神工学者(サイテック)、グレッチェン・ナンと契約する。グレッチェンは偽名でブレイズに接触し彼を追跡するが、その行動経路はガフで起きた第一級殺人の進路と完全に繋がっており、しかも彼女はしだいにブレイズに惹かれつつあった。
 グレッチェンは彼の別人格が〈死のフェロモン痕〉をたどり、被害者たちの願望を叶えているのだという仮説を立てる。やがて彼女はブレイズの別人格〈ウィッシュ〉と対峙し、ウィッシュに便乗して犯行を行っていた暴漢たちにも襲われるが、正当防衛で殺害したかれらの死体もまた、気がつけば一片の肉も残さない骸骨と化していた。
 二人はインドゥニ隊長の追及をかわし、悪夢のような事件を繰り返す異質な存在〈ゴーレム100〉を追うことを決意するが、彼らの決断はゴーレムの源泉たる八人の〈蜜蜂レディ〉たちを異なる存在へと押し上げ、さらに彼ら自身もまた、新たな人類進化のステップに関わってゆくこととなる――
 1974年「コンピュータ・コネクション」で復活を遂げた巨匠の、最凶にして最狂作品。1980年発表。ベスターです。200本目です。真っ赤なハードカバーで凶悪な分厚さ、ぱっと見の威圧感も相当ですが、中身はもっとタダゴトではありません。四文字言葉連発(100回くらい○○○○って言ってます)もさることながら第13章、唐突にアレが始まった時には一瞬パニック状態になりました。まあ、ストーリーが破綻してる訳ではないんですぐに慣れますが。
 というか思ったよりちゃんとしてますねこれ。あとがきには「SFの過去から未来まですべて取り込んでる」とありますが、そういうゴチャッとした印象はありません。むしろ非常にコンパクトに纏めてます。エピローグの意味はぼんやりとしか掴めませんけど。
 ただ「虎よ!虎よ!」を越えるかと問われれば厳しい。読者を引っ張って離さない強烈な主人公はおらず、登場人物たちはただ狂奔する濁流に呑み込まれてゆくばかり。筒井康隆的なハチャハチャ描写は楽しめますが、その裏では無慈悲とも言える生物的な本能がおりなす、峻厳な図面が構築されています。
 とにかく採点に困る作品。お下劣ですから10点は無いですが、中途半端な評価はもっと失礼。暫定として9点付けときます。色々とアレですがぶっ壊れてはいないので、我こそはと思わん勇者はぜひ読んでみて下さい。

 追記:巻末の「訳者あとがき」はこれだけでも一読の価値アリ。渡辺佐智江には他にもキャシー・アッカー「血みどろ臓物ハイスクール」などのステキな訳書があります。見たところ超一級ですが、かなり不遜な翻訳家です。


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アルフレッド・ベスター
2007年06月
ゴーレム100
平均:9.00 / 書評数:2
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