海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ 警察小説 ]
猫たちの夜
ファン・デル・ファルク警部
ニコラス・フリーリング 出版月: 1966年01月 平均: 5.00点 書評数: 1件

書評を見る | 採点するジャンル投票


早川書房
1966年01月

No.1 5点 人並由真 2019/02/01 17:17
(ネタバレなし)
 1960年代前半のオランダ。海に近い街ブレメンダール・アーン・ゼーは、比較的富裕層の市民で賑わう界隈だった。そこにある夜、6人組の黒マスクの少年強盗団が出現。善良な中年夫婦の家に押し入り、金品を奪った上、奥方を輪姦して退去した。アムステルダム警察「青少年補導局」の局長ベルスマ警視はこの事件を重視し、年下の親友でもある練達の捜査官ファン・デル・ファルク主任警部を現地に派遣する。ファン・デル・ファルクは早々に被疑者の少年グループを見定めるが、彼はその背後にさらにまた別の存在を気取った。そんな中で、犯行当夜に犯人らしき少年の一人が漏らした一言「あのねこたちに気をつけろ」が留意され、そこから謎の集団「ねこ組」の影が浮かび上がるが…。

 1963年の英国作品。MWA長編賞を受賞した『雨の国の王者』(1966年)を含めて日本では4冊が翻訳されたフリーリング(&ファン・デル・ファルク主任警部シリーズ)だが、評者が読むのは今回が初めて(例によって本は購入してあるハズだが~汗~)。
 
 あらすじの通り本書は少年犯罪を主題にした警察小説だが、少年強盗団の黒幕的な人物は早々と出てくるし、「ねこ組」の素性も特にミステリ的な謎の興味に向かっていくものでもない。被疑者の少年たちの家族間を何回も行き来し、聞き込みを繰り返すファン・デル・ファルクの描写はいささか退屈を覚えないでもない。
 ただまあそんな少年の親たちや、ファン・デル・ファルクが接触して情報をもらう三十代の気の良い娼婦フェオドラなどのサブキャラは相応の存在感がある。さらにそれ以上に、意外に偽悪家? 的な内面を語るファン・デル・ファルクのキャラクターはちょっと面白かった。たとえば、太平洋戦争中、ドイツ軍人を攻撃することにマンハント的な快感を覚えたという本音の述懐とか、被疑者の息子に便宜をはかるよう求めて体を投げ出しかけてくる人妻に「こんな女は酔っぱらった船員三人に輪姦されてしまえばいい」と悪態を内心でつくところとか(笑)。アントニー・ギルバートのクルック弁護士に通じる、ヒネた人間味を実感させる。(一方で司法官としてはマジメで、家庭ではよき夫で父親だよ、この主人公。なかなか味があるね。)
 ちなみに以前に「ミステリマガジン」か「EQ」かどっかに訳載された海外ミステリ研究家のエッセイの中で「このファン・デル・ファルクは殉職シーンまでが書かれた数少ない名探偵である」という主旨の記述を読んだ記憶があるけど、実際のところどーなんだろう。当然、該当作品は未訳なんだろうけれど、機会があればちょっとその作品の翻訳を読んでみたい。
 
 それで肝心のストーリーは面白いようなつまらないような感じで読み進めたが、後半で「あるイベント」が起きてからは緊張感が増してそれなりに加速が掛かった。終盤まで読むと、犯罪そのものは本当になんということはないと実感するのだけれど、逆に言うとこの主題でよく最後はそこそこ盛り上げた、とちょっと感心した。とにもかくにも心に引っかかる、印象的なシーンや叙述は少なくないけど。

 ところでオランダって未成年にビールを飲ませるのはまだわかる(え!?)が、喫煙まで普通にオッケーなんですな。ファン・デル・ファルクが取調室で十代半ばの非行少年に当たり前にタバコを勧める図にはびっくりしたわ。21世紀の現代でもこんな感じなんだろうか。


キーワードから探す
ニコラス・フリーリング
1969年12月
雨の国の王者
平均:7.00 / 書評数:3
1966年07月
バターより銃
平均:6.00 / 書評数:1
1966年01月
猫たちの夜
平均:5.00 / 書評数:1
1964年10月
アムステルダムの恋
平均:6.00 / 書評数:1