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[ SF/ファンタジー ] 夢幻の書 魔王子シリーズ⑤ |
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ジャック・ヴァンス | 出版月: 1986年06月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1986年06月 |
No.1 | 5点 | 雪 | 2018/12/04 17:53 |
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連合を組んで外星域「圏外」の街マウント・プレザントを襲撃した五人の星間犯罪者〈魔王子(デーモン・プリンス)〉。その生き残りカース・ガーセンのオイクメーニ文明宇宙を股に掛けた壮大なる復讐劇も、いよいよ最後の魔王子ハワード・アラン・トリーソングを残すのみとなった。
星間宇宙誌〈コズモポリス〉に寄せられた情報を精査していたガーセンは、「このうちの一人がH・A・トリーソング」とメモ書きされた写真を発見する。そこには十人の男女が映っていた。 マーラブ第六惑星のニューポート支社を訪れ、情報元を確認するガーセン。パーティーの一幕を映したその写真は、トリーソングの部下が会場にセットした定点カメラで連続撮影されたものだった。彼は裏切り者として殺され、その妻である情報提供者も既に始末されたらしい。 コズモポリス誌のオーナーでもあるガーセンは、姉妹紙〈エクスタント〉の創刊に当たり、大規模コンテスト「この人たちはだれでしょう?」を企画し、全宇宙に無料配布することでトリーソングを炙り出そうとするが・・・。 1981年発表の魔王子最終巻。ガーセン最後の標的は"超人たちの王"を自称するハワード・アラン・トリーソング。復讐の旅路もこれにて大団円。期待して読んだんですが、正直言って微妙な出来。 シリーズ最初の3巻は矢継ぎ早に出版されましたが、何故かそこから12年の間が空いたのち、4巻と5巻が発売。最初は犯人当てやハードボイルド的な要素もありますが、後半二巻は変化球気味のコメディ調だそうです。 本書でガーセンは三度に渡ってトリーソングに罠を仕掛けますが、負傷はさせるもののいずれも取り逃がし、最後の対決では別の復讐者が登場。一種のカーチェイスの後、トリーソングが最終的に復讐者たちを出し抜いたとも、自滅したとも取れる結末で物語は終わります。こんな不完全燃焼な〆でいいのか? ガーセンは幼少時から祖父に殺人術を叩き込まれた大金持ちの復讐鬼。宇宙が舞台の「モンテ・クリスト伯」なんですが、まあことごとく王道を外してますね。相手のトリーソングは厳格な宗教国家に生まれた中二病患者のカントリーボーイ。相応の凶悪さも持ち合わせるものの、ラスト付近では故郷の惑星に帰還。 いじめられっ子だった彼は高校の同窓会に部下を引き連れて乗り込み、いじめた相手を氷の椅子に縛り付けたり刺青を施したり、乗りに乗ってバイオリンを弾きながら踊りだします。やや戯画化されていますが全然憎々しげじゃありません。 タイトルの〈夢幻の書〉とは、トリーソングが変容するきっかけとなったある書物のこと。こんなものが出てくるのも普通じゃない。第1章の引用はその〈夢幻の書〉から。面白いかどうかはともかく、曲者シリーズなのは間違いなし。全巻通し読みしてから、改めて考察したいと思います。 |