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[ SF/ファンタジー ]
終末期の赤い地球
「終末期の赤い地球」シリーズ
ジャック・ヴァンス 出版月: 1975年08月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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久保書店
1975年08月

No.1 7点 2018/11/06 19:40
 時に私は「終末期の赤い地球」と題するぼろぼろのペーパーバックの上に掌をかざすのだった。すると表紙の厚紙から、ミール城のトゥーリャン、無宿者ライアーン、怒れる女ツサイス、情無用のチャンといった魔法が漏れ出してくるのだった。私の知り合いにはこの本のことを少しでも知っている者は誰もいなかったが、私にはこれこそが世界で最高の本だとわかっていた。

 上記のジーン・ウルフの文章を始め、ダン・シモンズなど数多のSF作家にインスピレーションを与え、D&D(ダンジョン&ドラゴンズ)の元ネタともなった、SFの新たな古典と目される作品。6つの中短編を、共通する幾人かのキャラクターで数珠繋ぎにしたオムニバス形式です。
 実質的なヴァンスの処女作で、船乗り時代に書き殴った原初的なパワーを持つ短編群。太陽が赤色巨星化し、星のエネルギーが尽きつつある遥か遠未来の地球が舞台。
 全体はクラーク・アシュトン・スミス風の冒険譚で、SFやらファンタジーやらで括るより単に物語と言った方が相応しい。ヴァンスは色彩感覚に優れた作家ですが、本書に細密な設定や伏線を加えた上でミステリ的な趣向を軸にし、より渋い色調でシリーズ化したものがウルフの「新しい太陽の書」だと言っていいでしょう。ウルフ作品が好きならば、オリジナルに直接触れるという意味で本書は外せません。
 この魔法と冒険の物語、ベスト3を選ぶなら「怒れる女ツサイス」「無宿者ライアーン」少し落ちて「魔術師マジリアン」ですかね。特に「ライアーン」は完成度が高く、寓話のような出来映えです。後半の二本、「夢の冒険者ウラン・ドール」「スフェールの求道者ガイアル」はよりダイレクトな「太陽の書」の元ネタですが、こちらは後発だけあってウルフの方が良いかな。
 表紙は武部本一郎。解説は福島正美。なんか訳の分からない出版社から出てたんで、今度は国書刊行会の「ジャック・ヴァンス・コレクション」に入るかと期待してたんですが、残念ながらダメでした。復刊熱烈希望。


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