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[ ハードボイルド ] 危険なささやき 私立探偵ウージェーヌ・タルポン |
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ジャン=パトリック・マンシェット | 出版月: 1983年10月 | 平均: 5.50点 | 書評数: 2件 |
早川書房 1983年10月 |
No.2 | 5点 | クリスティ再読 | 2018/09/01 22:43 |
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さてマンシェットも残りは本作と「殺戮の天使」となった。本作は「愚者が出てくる....」のポップなタッチで描いた、パロディっぽいネオ・ハードボイルド私立探偵小説である。それでもマンシェットらしくバイオレンスはテンコ盛りで、ラストなんぞ敵の本拠に潜入して大暴れ。ポップなのはいいんだがね。
考えてみると、ネオ・ハードボイルドって自虐的なパロディ臭がそこはかとなく漂うあたりに、アジがあるのかもしれないが、評者的にはノワールの詩人たるマンシェットにそんなことしてほしくはないよ。主人公の私立探偵タルボンは、趣味で名人のチェスの棋譜を並べちゃう。うう、困った。メグレの口癖も真似ちゃうし。人並さんには申し訳ないけど、マンシェット入門には一番向いてない作品だと思います。定評通り「愚者が出てくる」「ナーダ」「眠りなき狙撃者」を読んでいただきたいです.... しかし今のおれは、以下のことしか頭にない。疲れた。 人、喰ってる、でしょ。ネオ・ハードボイルドのさらにパロディなのかしらん。 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2018/07/10 09:38 |
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(ネタバレなし)
「おれ」ことパリの私立探偵ウージェーヌ・タルポンはある日、友人のコッチョリ警部の紹介で、老婦人マルト・ピゴ夫人の依頼を受ける。ピゴ夫人の依頼内容は、36歳の彼女の娘フィリッピンヌが仕事帰りに失踪したので捜索を願うものだった。だがタルポンが改めてピゴ夫人と顔を合わせかけた矢先、彼女はタルポンの前で何者かに射殺された。さらにタルポン自身にも死の危機が何度も迫り、彼は友人の元敏腕新聞記者のエマン、ガールフレンドの美人アクター、シャルロット・マルラキスの協力を得ながら事件を追い続ける。だが今度はそのタルポンの周囲にまで、危険が及んでいく。 原書刊行は1976年。1983年にアラン・ドロン主演の映画が公開されるのにあわせて、この原作の翻訳が文庫オリジナルで発売された。 評者は、マンシェットはこれが最初の一冊。以前からどれから読もうかと思案していたが、ページ数がそこそこで<フランス流私立探偵ハードボイルド>というカテゴライズが明確そうな本作なら敷居が低いだろうと思い、これから手に取った。ちなみに本作の主人公タルポンは、訳者・藤田宣永のあとがき(解説)によると別の作品(未訳?)にも登場するシリーズキャラクター。本書は彼のデビュー編っぽい。 物語の中味は、わずか240ページ弱の本文の中に息つく暇もないほど動的な要素が詰め込まれ、退屈などとはほど遠い仕上がり。途中からは、かのスピレインのマイク・ハマーものの某長編を思わせるような展開にも発展し、評者なんかをニヤリとさせる。やがて後半に明らかになる事件の構造はなかなか練り込まれたものだが、ちょっと事象を絡め合わせすぎた作者の神の意志を感じないでもない。まあこの辺はぎりぎりアリか。 不屈の姿勢で真相に向かって突き進むタルポンのキャラクターは頼もしい主人公感があるが、それだけに後半、事件の現実を知った彼が三人の捜査官の前で見せる怒りの描写はすこぶる印象的。本当は(中略)だった彼の内面のやるせなさが、こちらの胸に重く響く。 脇キャラのエマンやシャルロットも魅力的で、未訳? のシリーズ別作品も今からでも翻訳してもらいたいものである。 なお映画の方は未見だが、webでネタバレにならないように気をつけながら内容や評価をうかがうと、大筋は原作と同様で、評判もよいらしい。いつか機会があったら観てみよう。ちなみに映画はタルポンほか登場人物の名前が違っていたり(日本版だけか?)、ヒロインのシャルロットの設定が主人公の秘書に変っていたりするみたいだが、後者など、それはそれで物語のキャラクターシフト的には有意義そうな(別バージョンの趣向として歓迎できる)潤色という感じである。そんな観点でも興味を惹かれるかも(笑)。 |