皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ その他 ] 人間に向いてない |
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黒澤いづみ | 出版月: 2018年06月 | 平均: 6.50点 | 書評数: 4件 |
講談社 2018年06月 |
No.4 | 6点 | Kingscorss | 2020/08/17 14:33 |
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メフィスト賞受賞作ですが、ミステリーとして読むと少しがっくり来ると思うので、普通にSF小説として読んで欲しい作品。
内容をさらっと書くと、ニートやら引きこもりを中心に一晩で突然姿かたちがグロテスクに豹変する奇病が蔓延しはじめる。異形になってしまうと見た目のグロさとコミュニケーションも取れない不便さで、屠殺や遺棄するものが続出。政府もそれらを容認するなか、何年も引きこもっていた息子が危惧してた異形化する。母はそれでも息子を愛せますか? SF小説としてなかなかいい発想、着眼点、現代社会の問題と絡めて読んでてグッとくる。途中主婦の目線パートが冗長と感じる部分もあるが、興味を持って最後まで読まさせてもらいました。 ミステリー部分は少し叙述っぽい作りにしてありますが、基本的には謎とかそういうのは皆無なので、大どんでん返しとか謎の解明とかを期待していると肩透かしの面も。 テーマが重めで、読んでて辛くなる場面も有り敬遠されがちな作品ですが、なかなかの力作だと思います。 (追記) やはり着想はカフカの『変身』なのではと疑ってしまう…パクリではないと思うが、オリジナリティで言えばカフカの前例があるので残念。 |
No.3 | 8点 | 虫暮部 | 2020/07/02 11:07 |
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これは力作。アイデア一本勝負ではなく、その表現の為の諸々の要素を(ちょっとステレオタイプではあるが)一つ一つ積み上げ、愚直に説得力を生み出している。私は必要以上に警戒してしまったが、書き方自体は直球なので、もっと素直に読んで嫌悪感を楽しめば良かったと反省。
それだけに、三章の長い夢の場面は不要だと強く思う。“物語全体が壮大な妄想オチ”と言う情ない可能性を読者の頭に植え付ける以外の働きはしていないんじゃないか。 |
No.2 | 6点 | HORNET | 2019/06/08 12:57 |
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ある日突然、人間が異形へと変貌する「異形性変異症候群」。昨日まで普通だった人間が、突然見たこともないグロテスクな生き物に変わってしまう。それはなぜか、引きこもりやニートなど、社会参画や社会貢献ができていない若者に次々と発症していた。
美晴の一人息子優一は、高校の時に不登校になり、それ以来引きこもりとなり、今や22歳になった。ある日の昼、いつものように昼食の用意ができたことを部屋に告げに行ったところ、「虫」のような姿に変わった息子の姿を発見する。 以前から息子を出来損ないと断じ、愛情も持たなくなっていた父親・勳夫は無慈悲に「早く捨ててこい」という。しかし美晴は、姿が変わっても息子であると、守り、育てようとするのだが― ミステリではなくSFホラーに近い。異様な姿になってしまった優一を、これ幸いとでもいうように捨てようとする夫と、守り通そうとする美晴とのやり取りを通して、親子の愛情や子育てといったことについて考える、といった内容になっている。 謎はないが、面白く読めたしラストもよかった。 |
No.1 | 6点 | メルカトル | 2018/06/24 22:38 |
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ある日突然発症し、一夜のうちに人間を異形の姿へと変貌させる病「異形性変異症候群」。政府はこの病に罹患した者を法的に死亡したものとして扱い、人権の一切を適用外とすることを決めた。不可解な病が蔓延する日本で、異形の「虫」に変わり果てた引きこもりの息子を持つ一人の母親がいた。あなたの子どもが虫になったら。それでも子どもを愛せますか?
「BOOK」データベースより。 第57回メフィスト賞受賞作。正直、単行本で刊行されるほどの作品ではない気がします。しかも、ジャンル的にミステリとは言い難い、寓意小説のような作品であり、メフィスト賞らしい先鋭的な作風には感じられません。また、ストーリー的にパニック小説になりそうなところですが、そこまでのスケールの大きさはありません。 物語はあくまでマクロではなくミクロの視点から描かれており、例えば政府側の「異形性変異症候群」に関する対策などはマス・メディアでしか知ることができません。その分虫に変異した息子に対する、主人公である母親の美晴の心情は細部にいたるまで非常によく描き切られています。 反面、その他に限ってはどれも中途半端としか言いようがありません。病を発症した子供を持つ親の集まる「みずたまの会」にしても、そこで知り合った津森や会長の山崎、夫の勲夫など主要登場人物の人間性にも今一歩踏み込むことができていないのを感じます。その辺りがまだまだ新人と思わざるを得ないところですね。ラストは予想通りでしたが、更にオチが用意されていて、なかなかやるなと内心ニヤリとさせられます。 作者はこの先どのようなジャンルに挑戦するのか不透明ですが、いずれにしても本格ミステリを書くようなことはないと思います。文芸の道に進むんでしょうかねえ。ただ、未知数ではありますが可能性を感じさせる人には違いありません。 |