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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 恐怖へのはしけ |
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エリオット・リード | 出版月: 1959年01月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1959年01月 |
No.1 | 6点 | クリスティ再読 | 2018/04/26 13:29 |
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「スカイティップ」「危険の契約」とイマイチな作品に当たって少し心が折れかけたが、本作はまあまあ面白い。以前「あるスパイへの墓碑銘」について、クリスティ「NかMか」と大まかなプロットが同じことを指摘したけど、意外かもしれないがアンブラーとクリスティってテイストが似ているところがあるんだよね。ぽっかりと予定の空いてしまった主人公が田舎に戻って奇怪な事件に遭遇するとか、地方色の丁寧な描写とか、ボーイミーツガール的なロマンス要素とか...そう特殊なものではないが、悠揚迫らざるのんびりした語り口と合わせて、共通点が意外なほど多い気がする。訳者だってクリスティの訳が多い加島祥造である。さらにそういう印象が強まる。
本作は飛行機で乗り合わせた美女とおせっかいな男から、主人公の医師がトラブルに巻き込まれる話である。おせっかい男は主人公と無理やり同宿した夜に、謎の失踪を遂げる。主人公はおせっかい男が封筒を隠したのを目撃していたので、その封筒を回収するのだが、失踪した男はフランスで死体となって発見された。主人公は尾行されているようだ... うん、本当に標準的なスリラーで、特色とか感じない平凡なプロットである。しかしね、舞台となるロンドン近郊の沼沢地帯の描写とか、主人公たちが立てこもる風車小屋の情景とか、そして何よりヒロインのツンデレさがいい。 日本だとどうも「アンブラー=墓碑銘orディミトリオス」という捉え方をされがちなんだが、実際のところ戦後のアンブラーは作家として進化を遂げてしまって、戦後の作品の方が戦前のそれと比較にならないくらいに、いい。だから「戦前みたいなスリラーを」と書肆から要望されたときに「アンブラー名義じゃあ...」となって「エリオット・リード」が誕生したのでは、という推測を巻末解説の都筑道夫が書いているが、まあそれも当たってるだろうね。 |