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[ 短編集(分類不能) ]
黒い鶴
鏑木蓮 出版月: 2016年11月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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潮出版社
2016年11月

潮出版社
2016年11月

No.2 7点 斎藤警部 2018/10/15 23:32
帯に謳われる「純文学ミステリー」って事も無いと思いますが、味わい深い良い文章です。どことなく連城三紀彦を連想させる(時がある)作風ではありますけど、そこまでキレキレではなく、むしろゆったり鈍めの魅力があります、この短篇集(十周年記念オムニバス)を読んだ限りでは(長篇はどうなんだろう)。医学系を中心に自然科学の勘所を巧みに操った物理トリックを押し出しながら、小説としては心理に軸足置いた、そんな素敵な作品群が並んでおりますね。

黒い鶴/ライカの証言/大切なひと/雲へ歩む/魚の時間/京都ねこカフェ推理日記/あめっこ/誓い/水の泡/花は心 (潮文庫)


以下、順不同御免(十篇中七篇だけ)

某作(7点) 。。。。内容は面白いんだが語り口が何だかもっさりした話だなあチャンチャカチャンてが? って思ってたら、意表を突く鮮やかな幕切れに討ち取られました。残酷小噺の味わいで締めますね。してみると全体の9割を占めるもっさり部分は全てミスディレクションって事か。。。しかし、あの様な特殊状況の人がそんな、無防備な事しますかねえ、ってちょっと引っ掛からなくはない。いっけん抽象的な何かに思える題名の意味するところ、分かってみると怖い怖い。

某作(7点)。。。。医学ミステリはエエなぁ。山風思い出しまふわ。話の運びはなかなかスリリング、ながら、トリックはともかくアレはもう普通に推理クイズ流儀のナニなんじゃけど、、結果この重みですよ。 んでやっぱ最後の一文がキツくのめり込むんだな。やばいね。

某作(9点)。。。。構成がある意味レイラ(デレク&ザ・ドミノズ) のような、不思議設計の直角折れサスペンス。かと思ったら、おお。。。。。。ん~~~こりゃガツン来るね、変則叙述物理トリック炸裂だ!! 本短篇集で一押し!!!

某作(8点)。。。。最後にもう一捻り半無くて一捻り弱さえ無くて充分。日常めいた謎の提示そのものが何故かたまらなくダークなせいか、こんなホワイトエンディングであっても(?)、いや、そうであるからこそか(?)、凄くいいミステリ。 しかし、題名と内容とのギャップが。。。(笑)

某作(7点)。。。。ほっこりやんわりの展開から、じんわりともやもやが同居のエンディングへ。最終コースまで心温まる物語ながら、心温まるだけの終結でないところが良い。

某作(6点)。。。。期待持たせとくチカラはなかなかだが、映像技術に纏わる綺麗な伏線がラスト直前やっと登場したりして。。。 最後の台詞に微妙な洒落(なのか?)を残す洒落っ気はどうなのか。

某作(8点)。。。。まさかのクリスティ技、極められました。旅情もいいね。


仏教で言う八苦の五苦以降、すなわち
愛別離苦(あいべつりく)… 愛する者と別離すること
怨憎会苦(おんぞうえく)… 怨み憎んでいる者に会うこと
求不得苦(ぐふとくく)… 求める物が得られないこと
五蘊盛苦(ごうんじょうく)… 五蘊(色・受・想・行・識 = 人間の肉体と精神)が思うがままにならないこと
の4パートに各作を割り振るという凝りよう(後付けの筈だがこじつけ感はあまり無い)で、更には全作著者本人のルーブリック(若干おぼこい)が付くというゴージャスな構成美?。。が活きているかは微妙ですが、こういうのも珍らかで面白いしアリでしょう。

作品によっては、京言葉に北東北弁と言った言葉の魅力もリアリティたっぷりに充満します。特に後者、「はだく」じゃなくて「はたく」なんだよ、分かってるねえ、と思わず作者の肩をはたきたぐなりまスた。

No.1 6点 人並由真 2017/01/11 17:27
(ネタバレなし)
 作者のデビュー10周年を記念して編纂された、シリーズもの&ノンシリーズものを混淆した内容の中短編集。

 目次を転写すると
【怨憎会苦(おんぞうえく)】――恨んでいる者に会うこと
『黒い鶴』『ライカの証言』
【愛別離苦(あいべつりく)】――愛する者と別離すること
『大切なひと』『雲へ歩む』『魚の時間』
【求不得苦(ぐふとくく)】――求める物が得られないこと
『京都ねこカフェ推理日記』『あめっこ』
【五蘊盛苦(ごうんじょうく)】――人間の肉体と精神が思うがままにならないこと
『誓い』『水の泡~死を受け入れるまで~』『花はこころ』
…と大きく四つの主題に大別されて、総計10本の中短編が収録されている。
 
 それでそれぞれの中味は「純文学ミステリー」とわざわざ謳うほどのことは無い気もする、良い意味で普通のミステリ短編集。清張や佐野洋、海渡英祐あたりの昭和の短編ミステリの系譜を継いでいる。
 とはいえプリミティブながらトリッキィな味わいの作品がまとまって読める手ごたえは確実にあり、全体の印象は好ましい。個人的なベストは何とも言えない切なさの『雲へ歩む』、清張オマージュでどっか往年の翻訳ミステリ調の『魚の時間』、ああ<あのトリック>のうまい再生だね! と感心した『あめっこ』辺り。

 ちなみに解説の人(名越康文)は本書で初めて鏑木作品を読んだそうで、それはまあいいが(実のところあまり良くないけど)、作者の長編作品について総評めいた物言いをするのはいかがなものか。それとも本書を読んだあと、十数冊の著作をイッキ読みしたのかしら。だったら謝るけど。


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