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[ クライム/倒叙 ] ゴッドファーザー |
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マリオ・プーヅォ | 出版月: 1972年09月 | 平均: 7.67点 | 書評数: 3件 |
早川書房 1972年09月 |
早川書房 1973年11月 |
早川書房 1973年11月 |
早川書房 2005年11月 |
No.3 | 7点 | クリスティ再読 | 2020/05/07 21:31 |
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映画を見ずに原作小説だけ読む人は...いないよね。まあだけど、原作も面白い。映画での人間関係を補完できるし、映画だと「なぜそうか?」は流して見ちゃうことになるから、「あ、そういう理由?」というのが小説だと丁寧に書いてあるので、別途楽しめる。
とはいえ、映画は原作の昼メロ風のエピソード(シナトラをモデルにしたジョニー・フォンティーンと、ソニーの愛人ルーシー、その恋人の外科医あたりの人間模様・エロ話多し)は採用せず、若き日のドン・コルレオーネの最初の殺人の話はパートⅡに譲り..と、原作をタイトにまとめあげている。結末は若干違って、マイケルと結婚したケイは諦念を感じて、ママ・コルレオーネのようにカトリックに改宗してコルレオーネの女として生きるように決心する。 まあなんやかんや言って、周辺エピソードをしっかり書き込んであるので、そこらへんが読みどころではある。やはり冒頭を飾る葬儀屋の話がいいなあ。娘の復讐のために忠誠を誓った葬儀屋は、のちにソニーとドン自身のエンバーミングに腕を振って恩を返すわけである。 で、なんだけどね、映画「ゴッドファーザー」について言うと、実は本作以外にもう一つの「原作」があるんだよ。コッポラという監督は典型的な「映画から映画を作る」監督でね、映画としての「原作」はエイゼンシュテインの「イワン雷帝第二部」なんだ。独特のライティングもそうだし、コニーの子供の洗礼式とカットバックで皆殺しするのは小説にはなくって、「イワン雷帝」の宴会と貴族の粛清のカットバックに想を得たものだろう。「地獄の黙示録」でも「ストライキ」の牛殺しカットバックを模倣しているコッポラは、ハリウッド随一のモンタージュ主義者だからねえ。というわけで、「イワン雷帝第二部」も「ゴッドファーザー」に負けない大名作だから比較して見るといいと思うよ。歴史劇の専制君主→現代劇のマフィアのドン、とそういう連想もきっと、コッポラにはあったろうね。 |
No.2 | 8点 | メルカトル | 2017/02/16 22:22 |
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文庫本上下巻で約900ページの大作です。
フランシス・フォード・コッポラ監督の名作映画として有名ですが、原作も負けないくらいの名作だと思います。ただ、こちらは性描写や暴力描写が散見されるため、娯楽作品として認知されがちですが、一大叙事詩としても十分な価値を見出すことができます。 映画との一番の相違点は『PARTⅡ』で描かれた、のちにマフィアのドンとなるヴィトー・コルレオーネ(幼少期はアンドリーニ)や相棒のクレメンツァやテッシオの若き日が描かれていることでしょう。 多彩な人物が登場する本作ですが、個人的に気に入っているのはファミリーのコンシリエーリ(顧問弁護士)であるトム・ヘイゲンですかね。彼はドイツ系アイルランド人でイタリア人ではありません。少年時代にヴィトーに拾われて養子になった人物です。己のかかわる家業を十分認識したうえで、冷静な判断と常識的な行いのできる人間で、三男マイケルが家業にいかなる形にせよ参加することに反対したり、長男ソニーの暴走を諫めたりと、家族全員に気を配る優しい性格でもあります。そして、この小説の語り手に最も近いのが彼だと私は思います。 この長い物語をここで要約することはできませんが、映画『ゴッドファーザー』が好きな人は本作を読んでみる価値は十分あると思います。原作を読めば、改めて映画が観たくなるでしょう。 【ネタバレ】 ドン・ヴィトー・コルレオーネの後継者、三男のマイケルは最後に大虐殺を実行しますが、これはヴィトーが生前計画を練ったもので、彼は死ぬまで「操られる人間ではなく、操る側の人間になる」という信条を貫いた、信念の人だったんですね。 |
No.1 | 8点 | tider-tiger | 2016/08/28 11:54 |
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全米で最も強大なマフィアの組織を築き上げた伝説の男、ヴィトー・コルレオーネ。絶大な力を持つこのマフィアのドンを、人々は畏敬の念をこめてゴッドファーザーと呼ぶ。そんな彼の三男マイケルは、家業に背を向け家を出ていた。が、麻薬密売をめぐる抗争でドンが瀕死の重傷を負った時、彼は、父、家族、そして組織のために銃を手に起ち上がった……。~amazonより~
犯罪組織(マフィア)を美化しているきらいはありますが、エンターテイメントとしては最上の部類。陰謀はよく考えられているし、ファミリー内部での人間関係や人物造型もかなり緻密です。取材をしっかりとして彼らのものの考え方などかなり事実に基づいた書き方をしているようです――本当の汚物は消毒してしまっているでしょうけど――。 超有名作品でわざわざレビューするほどのものかとも思いますが、実は本作は映画で親しんだ方がほとんどではないでしょうか。これ映画も原作も傑作という稀有な作品ですから、映画が好きなら原作も読むことを強くお薦めします。 映画だけでは登場人物の思惑が掴み切れなかったり、意味不明なセリフなどもあります。映画と小説とで足りない部分を補完し合うことにより真の傑作が受け手の中に生まれると思われます。 例えば、コルレオーネ一家の過去の清算とマイケルの甥っ子の堅信礼を重ね合わせるという小説では不可能な映画ならではの美しいシーンがありました。ソロッツオ殺害を決意したマイケルを嘲笑するサンティノやクレメンツア、その中で一人哀しげな様子を見せるトム・ハーゲンの思いは原作を読めば非常によく理解できます。家業を嫌っていたマイケルが実は最も家業を継ぐに相応しい資質を持っていたことが小説でははっきりとわかるように書かれています。 ボブ・ディランが「法の外に生きるからには誠実でなくてはならない」なんてことを歌っていましたが、この小説に書かれた組織とはそういう風でした。でも、実際はね……。こんなとんでもない連中が20世紀半ばくらいまで表向きは「存在しない」ことになっていたらしいのですが、日本でいうと山口組なんて存在しないと言い張るのと同じなわけで、ありえん。アメリカやイタリアは怖ろしいところですな。 |