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[ クライム/倒叙 ]
ザ・シシリアン
マリオ・プーヅォ 出版月: 1985年09月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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早川書房
1985年09月

早川書房
1988年05月

No.1 7点 tider-tiger 2020/05/24 16:12
~シチリアの義賊サルヴァトーレ・グイリアーノ(トゥーリ)が苦境に立たされている。ドン・コルレオーネはシチリアに潜伏している息子マイケルにトゥーリがアメリカに逃亡するのを助けるよう命じた。マイケルはトゥーリに関する報告を読み、彼自身もこの義賊を助けてやりたいと思うようになった。~

1984年アメリカ。映画は未見。『ゴッドファーザー』の姉妹編とされているが、ゴッドファーザーからマイケル、クレメンツァなど一部の人物が少し登場するだけのまったくの別作品である。
舞台がシチリア島であるから当然といえば当然だが、「シチリア的なもの」が強調されており、このへんを書きたかったのかなとも感じる。ちなみに主人公トゥーリは実在した義賊サルヴァトーレ・ジュリアーノをモデルとしている。
あらすじではマイケルが主体となった救出もののように見えてしまうかもしれないが、本書の大部分はトゥーリが義賊となり、やがて敵に追い詰められていく七年間を描くことに費やされている。いわゆる英雄譚であるが、そこにシチリア的な陰謀、裏切りといった要素が加味される。
~グイリアーノを裏切る者は皆かくの如く死ぬ~
すっきりとまとまっているが、個人的な好みとしてはもう少し贅肉があってもよかったように思う。また、主人公の造型が浅いというか、単純すぎはしないかとも思う。偶像に人間的な深みはあまり持たせない方がいいのかもしれないが。
脇役についてはまあまあよく描けているように思う。
ただ、ルカ・ブラージの如き強烈さを期待した人物がいたのだが、彼はまったくの名前負け、期待はずれに終わっている。そいつの渾名は『悪魔の修道士』
「おい! アンドリアーニ、貴様だよ!」
『ゴッドファーザー』と比べてしまうと深みというかスケール感では劣るものの、この手の話のお約束を踏まえつつの展開はわかりやすく面白い。作家として進歩した部分もあり、抜いた部分もあるような気がする。
トゥーリが成りあがる過程にやや絵空事じみたところもあるが、陳腐ではない。シチリア的なものを前面に押し出すことにより、奇妙な個性が生まれている。貴族を誘拐するエピソードなどは通常なら有り得ない展開を見せるが、これがシチリアなのかと思わず笑ってしまう。
大筋はシンプルだが、裏で起きていること、敵味方が判然としない複雑さはゴッドファーザーを良い意味で踏襲(不要なエロを入れるところも踏襲)。ゴッドファーザーの陰で冷や飯を食っている作品だが、なかなかの佳作だと思う。
『ゴッドファーザー』以上にシチリア人の生活や価値観が前面に押し出されている点を特筆したい。奇妙な会話、狡猾なんだか単細胞なんだかよくわからない矛盾に満ちたシチリア人の造型などもだんだんと納得させられてしまう。
「シチリア的パラノイア」なる言葉が作中に出てくるが、このへんの機微が理解できると本書は俄然面白くなる。 
大きな難点は、結末が予見できてしまうところだろうか。もう少し書き方を曖昧にした方が意外性を演出できたと思う。
また、マイケルの登場にさほど意味が見いだせないような気もするが、マイケルという外枠があるがために英雄譚へのアンチテーゼにもなっている。
ゴッドファーザーとの相対評価だと6点だが、絶対評価ではギリ7点をつけたい作品ということで、採点は7点。

※本書のシチリア的というかイタリア的な部分。
~もう一つ大佐が捜し求めたのは、グイリアーノ(トゥーリ)に女がいるかどうかという情報だったが~中略~グイリアーノはこの六年間セックス抜きの生活をしてきたようだった。ルーカ大佐は、イタリア人だけに、そんなことが可能だとは思えなかった。~

※クレメンツァは通常クレメンザと表記されることが多いようですが個人的な好みでクレメンツァとしています。今さらですが、自分は人物造型という言葉を多用しますが、これも「造形」の字面がなぜか好きでありませんので。
※amazonで文庫の下巻だけ価格がとんでもないこと(三万円近く)になっているのはなんなんだろう? 

2020/5/26 追記


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マリオ・プーヅォ
1985年09月
ザ・シシリアン
平均:7.00 / 書評数:1
1972年09月
ゴッドファーザー
平均:7.67 / 書評数:3