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暴力教室
エヴァン・ハンター 出版月: 1955年01月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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雄鶏社
1955年01月

早川書房
1962年01月

早川書房
1972年01月

早川書房
1978年07月

早川書房
2002年07月

No.2 6点 クリスティ再読 2024/05/03 17:13
不良少年モノのハシリみたいな作品。こういうの読むと、海外作品で「社会派」がないのが残念になる。実業学校に赴任した新任教師の主人公を「指す」匿名の密告が誰か、という小さい謎はあるけども、事実上はヒューマンドラマ。
教室では主人公の授業の妨害の先頭に立つが、クリスマスのショーや個人的なつきあいのレベルでは主人公をある意味「慕う」、複雑な二面性を見せる黒人生徒のミラーが出色のキャラ。こういうキャラ好きだ。悪ふざけでもリーダーだし、実は知能指数も高くて人種差別を重々承知して、どう人生を拓いていくかをなにげに考えているあたり、ナイス造型。
スウィング・ジャズのマニアで、そのレコードを授業に使って生徒の心を掴もうとするが、暴れる生徒たちに面白半分にコレクションを破壊されて絶望する同僚もいいなあ。心がイタいぜ。

でこの作品映画になってて、実は音楽映画としては「ロック・アラウンド・ザ・クロック」を大ヒットさせて、ロックンロール映画の先駆となったことでも有名。だから、白人のインテリの先生が好きな古臭いスウィング・ジャズと、不良少年たちが熱中するロックンロールの対比というのが、原作にない映画のミソだったりする。けど映画では反抗する生徒と熱血教師の交流みたいな「金八先生」風のお約束で話をまとめているのは時代柄仕方ない。黒人生徒も「良い黒人俳優」の代名詞のシドニー・ポワチエだからねえ。原作はそんなに「甘い」ことはないのが、いいあたりかな。ちなみに白人の不良生徒で最後にナイフで主人公と対決するのが後年「コンバット」でブレークしたヴィック・モロー。

マクベインらしい達者なキャラ造形で、長いけどツルツル読める小説。ミステリとは言い難いが、ポケミスにも世界ミステリ全集にも収録されているのに、当時の早川書房のスタンスが窺われる。

No.1 6点 人並由真 2018/09/02 20:18
(ネタバレなし)
 1950年代のニューヨーク。元海兵隊で身重の妻アンと二人暮らしの青年リチャード(リック)・ダディエは、北地区実業高等学校の英語教師の職を得る。同校は学級崩壊寸前の不良生徒の巣窟だったが、折しも新任校長のウィリアム・スモールは蛮行ともいえる強引さで校内の浄化を考えていた。一方で生徒たちの心を掴もうと懸命になるリックだが、彼を悩ましたのは、受け持ちクラス内のややこしい力関係、そして大半の生徒たちの絶望的なほどの学力の低さだった。それと前後して、彼はクラスのリーダー格の黒人少年グレゴリー・ミラーのひときわ高いIQとさばけた言動に注目。彼をクラス委員に任命して教室の統率を図る。だが校内で同僚の女性教師ロイ・ハモンドへの暴行未遂事件が発生。不良生徒をやむなく腕力で制したリックには、校内のあちこちから敵意の目が向けられる。やがて事態は謎の投書主による、スモール校長や妻アンへの怪文書が届くに至り……。
 
 1954年のアメリカ作品。今回はハヤカワNV文庫の決定版(晩年の作者の、当時を回顧した序文がついてる)で読了(初読)。
 本作は新旧のNV文庫のほかにポケミスにも世界ミステリ全集にも収録されている、50年代当時に隆盛した非行少年もの(その意味で広義のミステリ)の代表格的な声もあり、いつか読みたいと思ってた。しかし実際に目を通して見ると予想以上に普通小説というか、非ミステリのフツーの学園ドラマぽかった。
 それでもリックを襲う暴力沙汰のサスペンスはあるし、謎の怪文書の送り主が誰かという終盤までのフーダニット的な興味はあるし、ぎりぎり現代ミステリのジャンル枠にカテゴライズしてもいい作品かとは思うが。
 
 内容の方は、さすがにハンター(マクベイン)が後年になっても思い入れをこめて語っている自信作だけあって、現実と時には折り合うことも心得ながら教育の理想を求める正義漢リックの内面とか、本作の最大のジョーカーである(物語のなかでどう化けるのかが大きな興味となる)黒人少年ミラーの内省とか、その辺は時代を越えた普遍的な力強さで描き込まれている。教育現場に足がついてるとはいいがたいスモール校長と、リックをふくむ<闘いの前線>に立つ複数の教師たちとの対比も良い。
 一方で、20世紀末~21世紀現代の、ずっと陰湿化したイジメやスクールカースト問題を抱えた学園ドラマとかに比べれば、牧歌的な部分もなくはないが、それでも最後「それから北地区実業高等学校は(中略)になりましたとさ、めでたしめでたし」で幕を引かなかった決着の付け方など、作者ハンターが当人なりに作中の現実に真剣に向き合った矜持を示した感じで、そういう意味の充足感はある。50年代作品、現代の新クラシックという目線抜きには語っちゃいけない作品ではあろうが、十二分に心の満ちたりは感じる。
 まあそれでもリックの理想と奮闘、そして彼と生徒たちとの絆をもってしても救えなかった者は、手の平からこぼれる砂のように出てしまうんだけど。それもまた、本作の言いたかったことであろう。きっと。


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エヴァン・ハンター
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