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ミステリの祭典

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発起人さんの登録情報
平均点:6.60点 書評数:5件

プロフィール| 書評

No.5 5点 理由
宮部みゆき
(2003/07/04 23:46登録)
 宮部みゆきの遅すぎた直木賞受賞作。バブル崩壊とそれに伴う不良債権問題をこの作家がどう捉えているのか。経済ニュースとして報道されているだけではわからない実相を、バブルのピーク時に作家デビューした宮部みゆきはこの現在進行の貧困問題を見据えてこの作品を書いた。

 超高層マンションで起きた一家4人殺人事件の謎が解き明かされていく過程が日本の家族や共同体の崩壊・変質、拝金主義の横行などの病理を浮き彫りにしていく。 「同心円」のようにこの事件に交錯する人々の決して楽観的ではないがすべてが悲劇ではないそれぞれの生き方は感動的でもある。まだまだ捨てたものじゃないじゃないか、日本の庶民、特に若者はね(ちなみに宮部みゆきはティーンエイジャーを描かせるとうまいよね)と思わせるところも多い。悲劇的な事件を描いても希望を持たせる−これがこの作家の人気の秘密だと思う。しかしすでに5年前のこの作品、現実はもっと悪化しているようだからそれでもまだ希望を持ち続けることができるのか、この作家の最新の作品も読んでみたいと思う。(本の山の中には『模倣犯』も積まれているのだが・・・)

ミステリーとしてはどうなのか?うーん、やっぱり「本格派」なのかもしれないと最近思い始めた私としては、最後の大どんでん返しというやつをずーっと期待しながら読んでしまうんですね。もちろんこの小説にも謎はあるのですが・・・・。

最初に読んだ「おとなの本」がたしか小学校4年生のときのクリスティ『アクロイド殺人事件』だったという不幸な読書暦を持つ私の悪いくせだとは思うのですが・・・。ということで評点は8点!


No.4 6点 慟哭
貫井徳郎
(2003/07/04 23:43登録)
貫井徳郎のデビュー作・・・といっても、私はこの作家の作品を読むのは初めて。すでに10年前の作品です。

 読みやすさという点ではなかなかのもの。スイスイ読めます、いい意味で。カルト宗教(ちなみにこの年には中島らも『ガダラの豚』が出ていますが、一連のオウム事件発覚は1995年ですよね。)や警察内部のキャリア・ノンキャリアの矛盾・対立など背後を彩る題材もこなれてます。さらに幼女誘拐事件というメインの謎も実際にそういう事件があったという点で(多分)タイムリー。

 うーん、だからどこと言って難がなさそうなわけですが、このタイトルのように読んで慟哭するような感動は私には感じられませんでした。作者は'68年生まれですから25歳になるかならないかの時に発表したということは考慮しても深み(=リアリティ?)が感じられないのです。

 トリックについては当然触れませんが、これって、・・・・・・・・・と同じじゃん?!と思ったことは事実です。同じでもいいのですが、その扱い方がやっぱりこなれてないかなと感じてしまいました。

 機会があればこの作者の別の作品も読んでみるつもりです。


No.3 8点 死にぞこないの青
乙一
(2003/07/04 23:41登録)
  うー、何と作者は1978年生まれだからこの本が出版されたときはまだ23歳で、今でも25歳か!たぶん、おそらく、私が今まで読んだ本の作者の中でいちばん若い!さて、それでこの乙一(おついち)、乙が苗字で一が名前なのか?それとも乙一でひとつの名前なのか?謎だ。

 この作品、小学校5年生のマサオの視点から描かれている。マサオは「とにかく怖がりで、いろいろなことにいつもびくびくしていた。」(p7)そして、「親しくない人とうまく話ができないたち」(p8)で、「少し太っていて、体育は苦手」(p15)。でもマサオも5年生になって大学を卒業したばかりの新しい先生、羽田先生が担任になるまでは、それなりに楽しくやってきたのだ。

 羽田先生は、「若い男の人」(p14)で、「細身で背が高い。」(p14)「趣味は運動をすることと、キャンプへ行くこと」(p15)で「大学で、サッカーをして」(p15)いた。当然生徒や親たちにも評判がいいし、マサオも「羽田先生と仲良くなれたらいい」(p20)と思っていたが、引っ込み思案な性格でなかなかうまく打ち解けることができない。ところが、ある出来事から羽田先生がマサオをクラスをまとめるためのスケープゴートにしていじめ始める。同級生たちも当然マサオより、羽田先生の側につく。マサオにとって八方塞の苦痛の日々が続くが、そんなある日、マサオには、真っ青な男の子(「アオ」)の姿が見え始める。

 子供にとっていちばん怖いものはほんとうは幽霊や怪物じゃないんだよね。大人なんだよ。大人に無視されること、理解してもらえないこと・・・そしてそれだけではなくてその大人が怪物だったら?

 もうずいぶん昔に子供をやっていた私もマサオに感情移入して読んでしまいました。「ホラー界の俊英」という触れ込みだが、「ホラー」嫌いの人にも読める水準の作品だ。(あっ、別にホラーの水準が低いと言いたいわけじゃありませんよ、ね、念の為!)


No.2 7点 バイバイ、エンジェル
笠井潔
(2003/07/04 23:39登録)
 作家で文芸評論家でもある笠井潔のデビュー作であり、「哲学探偵」?矢吹駆シリーズの第一弾!

 このように思弁的な小説がエンターテインメントである本格推理として書かれ、出版されたことは驚きであり、私の読書の範囲では、笠井潔は比較する対象が無い、唯一無比の存在であると言える。私が読んだこの創元推理文庫版の裏表紙には「ヴァン・ダインを彷彿とさせる」とあるが、ヴァン・ダインどころでは無い。なにしろ矢吹駆の推理法は現象学の「本質直感」に基づくものである。

 舞台は1970年代のパリ。司法警察の警部であるルネ・モガールの一人娘、大学生のナディア・モガールが記録するという形式を取っている。ナディアの友人、アントワーヌ・レタール(男)の叔母たちが住むアパルトマンで発見された首なしの女性死体!ナディアと矢吹駆の推理合戦と更なる死体!随所で繰り広げられる哲学論議。真相は?そして犯人との対決?

 うーん、でもはっきり言ってゲンショウガクと言う音で「減少額」を思い浮かべるような私のような手合いには、♪あんな時代もあ〜ったねと〜という古い歌を思い出させてしまう。この著者の評論、『テロルの現象学』(1984)を読んだほうがこの著者の思想はわかりやすかった。

 哲学と娯楽の両立は、おそらく勉強と遊びの両立より難しい課題なのだろう。


No.1 7点 水車館の殺人
綾辻行人
(2003/07/04 23:36登録)
  そもそも「新本格」と名づけられた最初の作家がこの綾辻行人・・・・らしい、なんて無責任な事を言うと怒られそうな雰囲気漂うのがこの本格の世界、にもかかわらずまた読んでしまいました。この作家のデビュー作、『十角館の殺人』(1987)に続く第2弾がこの作品、だそうです・・・なんて言うとまた怒鳴られそうな雰囲気が漂っているようで素人の私なんかが軽々に議論できないような気持ちにさせるのが本格の世界なんて言うとまた・・・といつまでもやってろっ!という感じですね。

 私、こういう雰囲気の作品は嫌いでは無いのですが、やはり推理小説に使われるあらゆる仕掛け(密室、ダイイング・メッセージ、嵐の山荘等々)をきらびやかに取り入れようとしたせいか、「館」シリーズとしての整合性を保とうという意図からか、「ごちゃごちゃ」した感じは拭えませんでした。それに根本的なトリック(言えません)や、叙述形式も、うーん、まさかほぼ私ごときが思った通りになってしまうとは・・・という生意気な感想を持ってしまいました。

 この「館」シリーズの全体を貫く謎は、もしあるとすれば、全作を読まないとわからなのだと思いますが、本作は次に繋ぐブリッジのような役目を果たしているのか、そもそも卓抜なアイデア自体ひとりの作家からそうそう生まれないものなのか(ヴァン・ダインなんか全部で12作しか書いてないもんね)・・・時間があれば、いや是非、次の「迷路館」以降も読んでいこうと思います。

 へー、ところで綾辻行人って小野不由美(『屍鬼』しか読んだことないけど)の夫だったんだね。昨日読んだ貫井徳郎は加納朋子(読んだことないけど)と結婚してるらしいし・・・などと書くと「おまえはワイドショウでも見てろっ!」とまたまた怒られそうな本格の世界・・・(とこの項永遠に続く)。

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