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ミステリの祭典

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びーじぇーさんの登録情報
平均点:6.18点 書評数:103件

プロフィール| 書評

No.3 7点 叫びと祈り
梓崎優
(2019/08/06 16:52登録)
本書は雑誌記者の斉木が世界の各国で遭遇した奇怪な事件の数々を描いた連作短編集。
塩を求めて旅するキャラバンに同行していた斉木。無事、塩を手に入れた一行だが、帰路でキャラバンの長が不慮の死を遂げてしまった。そしてその死がきっかけとなり、ひとり、またひとりと殺されていく。見渡す限り一面の砂漠の中での連続殺人に何の意味があるのか。その連続殺人の真相を鮮やかに描き、謎解きを物語として見事に昇華させた「砂漠を走る船の道」は、選考委員の絶賛を受け、第5回ミステリーズ!新人賞を受賞。本書はその短篇に劣らぬミステリとしての瑞々しい知性を溢れさせた数々の作品が収められている。「白い巨人」の推理合戦の妙と微笑ましい結末、「凍れるルーシー」の合理精神と幻想的な終幕、「叫び」での異文化から導かれた終末的世界観の論理。
短編ごとに語りや雰囲気を変え、二度三度と読者を翻弄するその構成力は驚嘆に値する。そして昇華された物語たちをひとつに繋ぐ「祈り」は、ミステリとしての物語が持つ豊饒さをあらためて読者に問うている。


No.2 8点 悪の教典
貴志祐介
(2019/08/06 16:32登録)
教師となり高校で教鞭を執るサイコパスの日常を綴った小説。作者は、サイコパスが天才的な頭脳を持ち世渡り上手だったら現代社会においてどんな生活を送っているか。そして、その生活が破綻しそうになった時、周囲の人間相手にどんな行動に出るかという問いを設定し、徹底したシミュレートの末、なんともありえそうな物語を描きあげている。サイコパスを主人公にした小説は少なくないが、これほど奥行きを感じさせる作品はなかなかない。まさしく剛腕の産物。
上巻と下巻の強烈な転調も本書の大きな魅力。上巻の日常から一転、保身に走るサイコパスの行動がおぞましさに満ちた光景を生み出す。上下2巻のボリュームとそれに見合う熱量を備えた、国産ホラーの金字塔と呼ぶにふさわしい大作であり、先の展開の予想がことごとく覆されるサスペンスとしても一級品といえる。


No.1 8点 Another
綾辻行人
(2019/08/06 16:17登録)
怪奇幻想味の強い本格ミステリや、ミステリ的趣向を盛り込んだホラー・ショッカーをものしてきた著者が3年がかり、1000枚を要して完成させた本書は、都市伝説を巡る正攻法の学園ホラーに、ミステリ的な仕掛けを幾重にも構造として取り込んだ力作となった。
「What?」「Why?」「How?」「Who?」という、一般的な本格ミステリの発展史とは逆順に配置された四部構成の謎。とりわけその後半は、物語が進むにつれて推理の条件を増やしつつも、しかし、その依って立つ基盤自体もまた曖昧で頼りないがゆえにかえって混迷を深め、推理という行為の恣意性を炙り出す。ホラーであればこその効用といえるだろう。
学校内でだけ密かに語り伝えられ、逃げ場も根本的な解決手段もないまま、経験則から導き出された効果も曖昧な対症療法を重ねるしかない恐怖。そこには、世界への漠然とした不安を抱く少年少女たちの自意識が凝集した、学校という閉塞的な空間の特殊性が浮き彫りになる。子供にとって、学校とは世界から疎外された一方で、世界からの危険に晒される恐怖に満ちたサバイバルの場。そこで人外として暮らす異形の心理を、ある種開放的なものとして描き出し得たのもまた、ホラーであるがゆえ。器と手法が幸福に合致した、著者らしさの横溢するジャンル作。

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