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ミステリの祭典

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YMYさんの登録情報
平均点:5.91点 書評数:386件

プロフィール| 書評

No.226 6点 死んだレモン
フィン・ベル
(2022/11/07 22:32登録)
冒頭、主人公が危機に陥るところから始まるというサスペンスフルな展開で魅せる謎解きミステリ。
謎解きの後、主人公が犯人たちと対決する現在のパートと、その対決までに至る、下半身不随で車椅子生活となった主人公が、心機一転の引っ越し先である一軒家で過去に起きたという誘拐殺人事件の真相を探る、というパートが交互に語られる。
そんなサスペンス中心の物語の合間に読者に全く予想がつかない方向での伏線を紛れ込ませているところも面白い。


No.225 5点 汚れた雪
アントニオ・マンジーニ
(2022/11/07 22:27登録)
ある事件による懲罰人事でローマからアルプス山麓の町に飛ばされた副警察長ロッコがスキー場で重機に轢かれバラバラになった死体の謎を追う。
ミステリとしてトリックが優れているというタイプの作品ではないが、ロッコと彼を取り巻くキャラクターがとても魅力的。一匹狼で口が悪い、酒とマリファナを愛し、容疑者に高圧的な態度をとることも厭わず、金のためには犯罪に手をつけることもあるというロッコだが、刑事としての腕はピカイチの上、倫理観は一本筋が通っておりどこか憎めない。


No.224 5点 パシフィック・ビート
T・ジェファーソン・パーカー
(2022/10/23 22:40登録)
主人公ジム・ウィアーは、警察官として十年間務めたあと、メキシコ沖に沈んだ海賊船の宝を引き上げるため旅に出た。六カ月間の探索は実を結ばず、挙句の果てに麻薬に関連したという疑いでメキシコ警察に逮捕されてしまった。
環境保護と有毒廃棄物投棄、警察内部の個々の人物から被害者を巡るさまざまなキャラクターが、謎を秘めて登場し趣向は盛りだくさんだが、奥行きがやや浅い。


No.223 6点 ジェイコブを守るため
ウィリアム・ランデイ
(2022/10/23 22:35登録)
ひとり息子が殺人事件の容疑者とされ、苦悩する検事補の姿が描かれる。自身も父親との関係に悩む二重の家族の絆の物語でもあり、愛弟子だった後輩検事補の仕事ぶりを被告側から見つめる異色のリーガルスリラーにもなっている。
息子の無実を信じつつも、忍び寄る疑惑と闘う葛藤のドラマは迫力満点。


No.222 5点 バビロンの青き門
ポール・ピカリング
(2022/10/07 22:48登録)
若い外交官のトビーが西ベルリンに赴任し、運命に翻弄された三十年間、幼少時代に焼死した美貌の母との思い出、辛い学生時代、古代ペルシャ時代の王たちとの幻想上の対話、現実の自分などが時代を飛び越えて交差し、幻想、耽美、デカダンを織り交ぜた不思議な作品で現代のアラビア千夜一夜を思わせる作品である。


No.221 5点 パーフェクト・キル
A・J・クィネル
(2022/10/07 22:42登録)
クリーシィの爆破犯探索は、ローリングズの策謀もあって、ジブルの知るところとなり、まず上院議員が狙われる。それを防ごうとするクリーシィ一家の活躍。
復讐に燃えるクリーシィの果断な行動力、後継者を育てる厳しさと愛情、緻密な暗殺計画をめぐる敵味方の好守など、情のある冒険小説として独特の味を持っている。


No.220 5点 ボヘミアン・ハート
ジェイムズ・ダレッサンドロ
(2022/09/22 22:47登録)
古き良き時代のサンフランシスコに対する愛と郷愁を散りばめながら、アクション、恋愛、法廷劇と作者は盛り上げるため、あらゆる趣向で攻めまくってくる。そして、最後のどんでん返し。
B級アクション映画でも観るようなノリで読めば楽しめるでしょう。


No.219 5点 バッド・ラック
アンソニー・ブルーノ
(2022/09/22 22:42登録)
FBI捜査官トッツィとギボンズ・シリーズの第三作。今回トッツィは悪徳不動産業界の大物ナッシュのボディーガードを装ってマフィアの犯罪を追跡する。ユーモアとアクションと、口汚い罵り合いが散りばめられた悪漢小説である。
悪徳サルの憎めない存在感、正義心のひとかけらもないFBI捜査官とのシーソーゲームは秀逸。このジャンルの大御所エルモア・レナードの作風を十分意識した作品だ。テーマも語り口も先人たちの焼き直しの作品のようで、やや新鮮味に欠ける。


No.218 7点 終りなき夜に生れつく
アガサ・クリスティー
(2022/09/05 22:13登録)
本書の世評は、さほど高くないものの、著者の自選ベストテンに含まれている。
前半のロマンティックなラブ・ストーリーが悲劇によって暗転し、結末に至って恐るべき犯罪計画が浮上する構想も見事だが、事件が合理的に説明されるにもかかわらず、結局すべてはジプシーが丘にかけられた呪いのせいだったのかも知れないという含みもあり、犯人像の秀逸さと相俟って、宿命論的な物哀しさがいつまでも心に残る。
サブ・プロットの説明不足が惜しまれるものの、クリスティーの筆力の素晴らしさを示す作品といえる。


No.217 6点 マーチ博士の四人の息子
ブリジット・オベール
(2022/09/05 22:05登録)
どんでん返しのあるミステリだが、ラストの仕掛けをはずせば、全編は異様なサスペンスで成り立っている。正体不明の殺人者の日記とそれを盗み見てしまった女性のつづる手記を交互に配する構成が、効果的にサスペンスをあおっている。
奇抜なシチュエーション設定や構成の妙など、極めて技巧的に緊張感を醸造していくあたりは、従来のフランスミステリと一線を画している。


No.216 7点 囮弁護士
スコット・トゥロー
(2022/08/20 22:52登録)
ロビー・フェイヴァーは、キンドル郡に法律事務所を構える弁護士。ある日、連邦検察官の訪問を受けた彼は、囮捜査を持ち掛けられる。
そこまでやるか、と思わせるFBIの囮捜査の策略に、まず舌を巻く。事件のでっち上げから、盗聴、盗撮まで作戦の用意周到ぶりには、リーガル・サスペンスの面白さがたっぷりと詰まっている。また登場人物の内面をあぶり出し、事件をめぐり揺れ動く人間ドラマとしても優れている。


No.215 7点 暗闇の囚人
フィリップ・マーゴリン
(2022/08/20 22:48登録)
無実の罪を晴らすべく、必死に事実関係を追求する女性と、怪しく立ち回る狂気の凶悪犯、それに辣案弁護士が織り成すサスペンスとロマンスは、小気味良いテンポで進行しつつ、読者を謎解きの世界に運んでいく。そしてラストにあっと驚くサプライズをを用意するテクニックは、ムードの高まりもあって巧み。


No.214 5点 25時
デイヴィッド・ベニオフ
(2022/08/07 22:33登録)
主人公は麻薬の売買の罪で挙げられ、連邦刑務所へ収監される日が明白に迫っている。物語は、明日にデッドリミットを控えた主人公の一日を淡々と追いかけていく。
そもそも小悪党なのだが、人生の窮地に立たされても、世間に背中を向けたり、めそめそしたりしない潔さのある主人公の造形がいい。しかし、それに輪を掛けていいのが、彼を取り巻く脇役たち。人物像が、くっきり浮かび上がる懐の深さがある。


No.213 5点 ざわめく傷跡
カリン・スローター
(2022/08/07 22:28登録)
冒頭から子供たちをめぐるショッキングな場面が展開していく。銃をかまえて少年を殺そうとする少女ジェニーを現場にいた警官ジェフリーがやむなく射殺する。しかも現場付近のトイレから未熟児の遺体が発見された。
女性刑事レナは、前作の事件で受けた傷を負ったまま捜査を続けていた。壮絶な体験をし、肉体も精神も修復不可能なまでに傷ついてしまった者たちが対峙することで、物語はますます重く深く熱くなっていく。何人もの子供たちを巻き込み、殺人にまで発展した事件の真相はおぞましいものだが、さまざまな意味で現代アメリカの病根に通じているのかもしれない。


No.212 6点 沈黙の森
C・J・ボックス
(2022/07/22 22:22登録)
野生動物を保護、管理する猟区管理官ジョー・ピケットが殺人事件の背後の陰謀挑む話で、基本的にはウエスタン。
ジョーは薄給にあえぎ、窮地に立たされながらも、家族と己が誇りのために断固たる行動をとり、七歳の娘シェリダンは幼いながらも勇気と正義感を精一杯示して父親を助ける。
苦悩するヒーローとそれを助ける家族の物語を、心揺さぶる感動作に仕立てている。


No.211 6点 神は銃弾
ボストン・テラン
(2022/07/22 22:18登録)
「右手の小径」というカルト教団が、ある一家を急襲する。両親は、残忍極まる手口で殺害され、娘は誘拐されてしまう。
この一家の妻には別れた元夫がいて、連れ去られた娘とは彼との間の子だった。離婚してからというもの、彼は意気消沈して、すっかりダメ男になってしまっている。しかし、最愛の娘が誘拐されたことで、ブチ切れる。警官の仕事を放り出した男は、ヤク中で、元カルト教徒の女をパートナーに砂漠地帯を、そして荒涼たる原野を、娘の行方を求めて駆け巡る。
一言で言うなら、クレイジーなローノベル。きな臭いパルプ・フィクションの臭いと、ドラッグカルチャーのサイケで怪しい雰囲気も立ち込めている。一見つかみどころのない印象もあるが、骨太の緊張感と禁断の領域に踏み込むスリルは満点。


No.210 6点 サナトリウム
サラ・ピアース
(2022/07/07 23:24登録)
アルプスのリゾート地に立つ豪華ホテル。古いサナトリウムを改装した建物だ。エリンは弟の婚約祝いのため、恋人とともにホテルを訪れた。だが、弟の婚約者が失踪。さらに大雪で外部との交通が遮断される中、ゴムマスクをかぶせられた女性の遺体が発見された。
主人公のエリンは休職中の警察官。仕事でのつまづきに加えて、母の死、弟とのぎくしゃくした関係など、心に多くの不安を抱えている。雪による外部との遮断も、閉ざされた空間によるサスペンスの醸成によりも、エリンの閉塞した心理と呼応するところが大きい。
ホテルとして改装される前のサナトリウムにも、いわくつきの過去がある。こちらもエリンの心理と響きあい、事件の真相にもつながっていく。
ぎこちないところもあるけれど、不安を軸に展開する緊密なサスペンスを堪能できる。


No.209 5点 身の上話
佐藤正午
(2022/07/07 23:17登録)
夫と思しき人が語る、妻「ミチル」の来歴は、次第に不穏な様相を見始める。とはいえ、彼女は何の悪だくみも下心もなく、「なんとなく」行動している。恋人ではない既婚の営業マンと何となく東京に生き、なんとなく帰れなくなる。
ミチルには一時間でも二時間でもじっと動かず放心できる癖があると語り手は告げる。それ自体は、さほど変わったことには思えないのだが、彼女の空白が運命を思いもよらない方向へと転がしてしまう。
何か物事が起きた時、停止して空白に陥る。そこには罪も作為も悪意すらない。それなのに事態はどんどん悪い方向へ転がっていく。誰もがミチルになりうると思えるところが怖い。


No.208 7点 死刑判決
スコット・トゥロー
(2022/06/24 23:15登録)
十年前の三人惨殺事件で死刑が確定し、執行目前の男が、獄中から「無罪」を訴える。証拠上は絶望的だが、意外な人物が犯人だと名乗り出て、過去と現在が交錯しつつ物語が展開する。何よりも人物造形が巧み。公選弁護人として関わる、誠実だが風采のあがらぬ弁護士と、男の死刑判決を書き、その後麻薬で人生を棒に振った美貌の元女性判事との不器用な愛。かつて男を逮捕し、自白させたやり手の刑事と長く愛人関係を続けた野心家の女性検事。
二組四人が織りなす陰影のある人間ドラマはずしりと読みごたえがある。


No.207 6点 獣たちの葬列
スチュアート・マクブライド
(2022/06/24 23:08登録)
スコットランド東部で犯行を重ねた猟奇殺人鬼が再び動き出した。かつて殺人鬼を逮捕目前まで追い詰めた獄中の元刑事アッシュは、仮釈放と引き換えに外部有識者チームに加わる。だが、アッシュには隠れた目的があった。彼にぬれぎぬを着せて刑務所に放り込んだ人物への復讐だ。捜査と復習に挑むアッシュを、数々の苦難が襲う。
主人公を筆頭に、癖の強い登場人物たちがそろっている。その個性の強さはユーモアを漂わせることもあれば、読者を打ちのめすこともある。
主人公の境遇からもうかがえるとおり、作者は思い切った展開で揺さぶってくる。アッシュ自身も、彼を取り巻く環境も凶暴。
波乱に富んだ展開と、登場人物の個性、そして殺伐さとユーモアの同居する独特の雰囲気で一気に読ませる。

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