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ミステリの祭典

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平和マンさんの登録情報
平均点:6.67点 書評数:6件

プロフィール| 書評

No.6 5点 一つ屋根の下の探偵たち
森川智喜
(2015/08/11 17:50登録)
 特殊な設定の探偵たちや、推理過程の掘り下げ、探偵役たちの推理合戦など、森川らしい要素は楽しむことができたが、いまいち話が地味だった。森川作品の面白さには、やはり荒唐無稽なハチャメチャさが一役買っているのではないかと考える。


No.5 8点 スノーホワイト 名探偵三途川理と少女の鏡は千の目を持つ
森川智喜
(2015/08/11 17:40登録)
 本作の面白味は「なんでも教えてくれる鏡」の機能でいかに遊ぶかというところにある。作者がラストシーンまでとことんこのガジェットの機能を拡張させていき、自らその課程を楽しんでいることはテキストからよく伝わってくるだろう。そしてこのガジェットを楽しんでいるのは本作の名探偵・三途川理も同様なのだ。その喜びを共有できる人間にこそ、本作は楽しむことができる。本作に関して「おれなら鏡をもっとうまく使用できる。おれは三途川はより頭が良い」などとうそぶく人たちに私はいいたいが、君は「三途川が自分で事件の解決法を思いつくことに快感を覚える人間」だということを理解できていない時点で、小学生レベルの読書能力しかないのである。


No.4 7点 ダリの繭
有栖川有栖
(2015/03/01 04:20登録)
(※物語の真相に触れるため注意)

 あまり評価が芳しくないようだが、私はこの作品を楽しめた。
 フロートカプセルという一風変わったギミックを交えながら、犯人が次々とあげられては否定される話運びや、事件の様相が逆転する真相などは、翻訳古典ミステリの名作を思い起こさせ、有栖川先生の御三家に対する情熱と尊敬の念がうかがえる。真相がわかりやすい、という声もあるが、むしろ結末の前に真相が見えてしまうほど公平な作りをした作品のあり方に私は好感を持てた。むろん、他の有栖川有栖の長編と比べてもその真相がやや地味であることは否定できないので、本格ミステリとしてさして高い評価をするわけではない。
 では、私がどうして本作を気に入ったのかといえば、それは被害者・堂条社長の人生にある種の哀れみを覚えてしまうからだろう。彼は一人の女性を手にすることに執念を燃やし、犯罪に手を染め、結果として哀れな最期をとげた。情念を燃やした当の相手はもちろんのこと、事件に関係した多くの人間の目に彼は好意的にうつらないだろう。彼が情熱を燃やした秘書ははっきり言って、大した女と思わない。彼女が選んだ男・長池も同様だ。周りの人間に傲慢さを振りまき、激情で人を殺した罪を関係のない吉住になすりつけようとするようななんとも嫌な人間である。この秘書ときたら多くの男の心を振り回したあげく、飛行場のラストシーンにおいて、それまで大して互いを想う描写もなかったのにも関わらず、くだらんメロドラマを繰り広げて「私はこの人を放さない」なのだから興ざめである。そもそもこの事件の発端はこの女の曖昧な態度も一因しているのだが……。とはいえ、この事件に関して彼女に原因があっても責任がないのも確か。火村の言うように責任は堂条社長にある。情念を燃やした相手の心は、憎んだ男のものとなっていた。だからこそあまりに哀れなのである。冒頭の母を想う有り様が、彼の報われない気持ちを際立たせ、実に心をうつ。
 本作においては唯一語り手のアリスだけが彼に同情を覚えているように見受けられる(事件最終部における弔いの言葉から)。これは彼の高校時代に受けた苦い思いが、この堂条社長に重ねわせられているかだろう。しかし、アリスにとっての本格推理小説という存在が彼には欠けていた。 ダリにとってのガラのように殺意を留めてくれる存在はなかったのだ。 ひょっとすると、それは亡くなった彼の母親だったのかもしれないが、その愛情を求めたゆえに悲劇に繋がるとは哀れな話ではないか。だからこそ、私はこの哀れな男を愛さずにはいられないのだ。
 ちなみにアリスの過去の恋に関しては『スイス時計の謎』において進展がある。短編ミステリ傑作でもあるので、『ダリの繭』を読み終えたかたはぜひ一読を。


No.3 5点 六とん2
蘇部健一
(2015/01/22 01:35登録)
 前作『六枚のとんかつ』がゴミすぎたので、あれから蘇部氏がどれぐらい成長したのかを見るために手にとった。酷いというレベルではない。前作はゴミだったが、本作はゴミ未満の何かである。
 語り手と古藤の掛け合いにちょっとだけ期待していていたのに、物語開始1ページで古藤が消滅。あとは訳わからん刑事が活躍したり、宇宙人が降りてきたり、セカチュウがピカチュウの弟だったり、理解不能の意味不明だった。
 しかも、友人に貸していたところ、弁当の汁がぶっかかった状態で返ってきたため、新品をもう一冊本屋さんで頼まなくてはならないはめになった。ただ買うだけでも金の無駄なのに、買った後でも金を払わなくてはいけない。最低の域を越えた、不幸を呼ぶ本である。


No.2 7点 六枚のとんかつ
蘇部健一
(2015/01/22 01:08登録)
 何を思ったか定価で買ってしまった。これは酷い。金を返して欲しい。せめてとんかつ一枚と取り替えて欲しい。
 難の脈略もない解決編に、私ごときでも思いついたことがあるレベルのカストリックが詰め込まれたゴミ短編集だ。短編が14作品収められているが、楽しめるレベルに達しているのはせいぜい『桂男爵の舞踏会』、『黄金』、『エースの誇り』、『しおかぜ17号四十九分の壁』、『オナニー連盟』、『丸ノ内線七十秒の壁』、『消えた黒いドレスの女』、『五枚のとんかつ』、『六枚のとんかつ』、『最後のエピローグ』ぐらいのもの。他の作品はとても出版レベルに達していないと感じる。
『音の気がかり』がくだらなすぎて、カップラーメンを作っている間に読むことにしたのだが、読んでいる間にカップラーメンが伸びてしまった。くだらない上に、人の食事までも邪魔をする。紛うことなき最低最悪の作品だった。


No.1 8点 キャットフード 名探偵三途川理と注文の多い館の殺人
森川智喜
(2015/01/22 00:26登録)
 できる……!
 森川智喜。間違いなく、これから評価される作家に違いない。
 しゃべる化け猫、人肉ミンチ工場、悪役に回る探偵……。どの要素もふざけまくりで笑いが止まらないのだが、その中には若年層の読者を惹きつけるエッセンスがふんだんに盛り込まれている。
 例えば、昨今の若者が支持する本は何なのか。定期的に行われている「中高生が読む本」のアンケート結果を見てみれば、『カラフル』や『バトル・ロワイアル』はもちろんのこと、『容疑者Xの献身』『悪の教典』『インシテミル』とミステリ好きにも馴染み深い作品が上位に名を連ねている。文章的な難が指摘されているにも関わらず、山田悠介作品が高い支持を受けてるのも見逃せない。また、本屋大賞では伊坂幸太郎、森見登美彦、有川浩が常連だ。
 これらの作品に共通して見られている要素は何かと言えば、《読みやすさ》《ゲーム的な世界設定》《引き込まれる残酷描写》《先を予想させないスピード感ある展開》《分かりやすく衝撃のあるオチ》と私は考える。そして本作のキャットフードももれなくこれらの要素を踏襲しているではないか。もちろん私も『キャットフード』の世界へ一気に引き込まれてしまった。森川智喜先生の技量には舌を巻くばかりだ。
 本作はライトノベルレーベルで発行されており、文章が読みやすい仕上がりになっている。新本格初期の作品に「人間が書けてない」という批判があったのは有名な話だが、本作ではそれらを揶揄するかのように登場人物に個性がない(後述の名探偵三途川理を除く)。作家の技量不足だという意見もあるだろうが、ゲーム性や読みやすさを追求していけば捨て駒の登場人物たちなど力を入れて書く必要がないではないだろうか。『十角館の殺人』がいまでも多くの支持を得て、ミステリ初心者の入口になっているのも無関係ではないだろう。
 そして本作を盛り上げる大きな要素として本作の探偵役である三途川理の存在を強調しておきたい。物語中盤での突然の登場、自分の利益を追求する悪人、という要素は麻耶雄嵩のシリーズ探偵・メルカトル鮎を思い起こさせるが、『痾』や『鴉』や短編集でのメルカトルが語り手と協力して事件の解決(その形に差はあるが)に立ち向かっているのに対して、三途川理は完全に語り手である化け猫・ウィリーの敵として、読者視点での悪役として描かれている。通常ならば語り手の強い味方であるはずの名探偵が、大きな敵として立ちはだかるのだ。いわば、モリアーティ教授やジョン・クレーがワトスンくんを痛めつけるために思考を巡らせる課程が本作では焦点に当てられているのである。私の考える《面白いミステリーの要素》に、形式化した概念の破壊というものがある。これが面白くないはずがない。彼は本作の続編でもある『スノーホワイト』や『踊る人形』にも登場し、そこでも語り手の立ちはだかる強敵として現れる。森川智喜の作品を彼のものにあらしめているのはまさしくこの名探偵あってこそだ。
 かつて京大トリオや有栖川有栖、北村薫、山口雅也を始めとした作家たちが、旧時代の化石たちを打ち破って新本格というジャンルを打ち立てた。登場時には各方面からの攻撃にあった清涼院流水も、本人や弟作家たちの活躍によってその価値を認められ始めている。森川先生も安直な批判に押されることなく、この作風を続けていって欲しいものである。
 とまあ、個人的にはかなり好きな作品なのだが、謎が解決される部分の見せ方にぎこちなさがあったのが残念。もちろん読み手としての私の力不足もあろうが、最終局面において猫が一匹増えた謎などなかなか作りこまれているにも関わらず、直前まで謎の提示がされていないために驚きが半減したように感じた。ただ『スノーホワイト』でも同様の趣向が用いられているところを見ると、意図的にそういう構造にしてあるらしい。うーん、推理をしない若者に向けて書くことを念頭に置いているのだろうが、これがうまく決まっているかは私には判断しかねるところ。
 採点は8点。森川先生のこれからに期待したいところである。

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