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ミステリの祭典

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下り”はつかり”―鮎川哲也短編傑作集〈2〉
北村薫編 鮎川哲也短編傑作選

作家 鮎川哲也
出版日1999年03月
平均点8.60点
書評数5人

No.5 6点 ALFA
(2024/07/14 09:25登録)
本格ありファンタジーあり、バラエティに富んだ11編。
トリックも緻密なもの、大胆なもの、ちょっと笑えるものなど多彩で作者のミステリー愛を感じる。
ただ残念なことに構成は単調で、事件の記録とトリックの解説をそのままノベライズしたかのよう。地の文もセリフもひたすら「説明」に忙しい。結果として人物も記号的になる。文体も洗練にはほど遠く、一編の小説として味わうには至らない。

なかでは「赤い密室」の緻密なトリックや「達也が嗤う」の大胆な叙述が面白い。
「碑文谷事件」は「点と線」の向こうを張った列車トリックだが、こちらにも大きな欠陥がある。そもそもこの証人自体が犯人にとって致命的ではないか。それとも、そんなことはさておいて二つの地名の妙を楽しめと言うことか。
同じ鉄道ものなら「下り"はつかり"」の笑えるトリックが楽しい。
「死が二人を別つまで」の悪魔的なネタは現代の作家で読み直してみたいものだ。

No.4 9点 ボナンザ
(2019/12/02 20:58登録)
五つの時計に比べて本格からは外れた作品も多いが、鮎川の芸風の広さに驚かされる一冊だと思う。
達也が嗤うと赤い密室は我が国の本格好きなら必読と言っても過言ではないでしょう。
地虫は鮎川の作風からミステリ要素を除くとこうなるという異色作。
絵のない絵本とか他殺にしてくれはユーモラスで楽しい。
碑文谷事件と誰の屍体かは通好みながらおそろしく緻密に作られた名作だと思います。
こっちも必読!

No.3 8点 測量ボ-イ
(2016/04/04 21:39登録)
傑作集<2>に準ずる、珠玉の短編集。
個人的ベスト3を挙げます。
 ①赤い密室
 ②達也が嗤う
 ③誰の死体か
①はもしかして世界最高の密室小説かも。
②は遊び心満点の秀作。朗読用に書かれたらしいですが、文章で読んだ
僕も普通に(?)騙されてしまいました。
③あとの一つが迷いますが、「誰の死体か」をセレクト。巻末の座談会
で絶賛されていますよね。玄人受けするのかな。

前作に準ずる出来ですが、本格ものとは言えない作品(これはこれでい
いのですけど)もあって、採点は8点で。

No.2 10点 青い車
(2016/02/15 22:04登録)
数ある鮎川哲也による鉄道トリックもののひとつの頂点と言っても過言ではない『碑文谷事件』を始め、これまた傑作ぞろい。同じ鉄道ものでは『下り”はつかり”』も素晴らしいです。直球な本格ミステリー『誰の屍体か』、作者の稚気がふんだんに盛り込まれた『達也が嗤う』、非ミステリーで奇妙な味の『地虫』『絵のない絵本』とヴァラエティーに富んだ充実ぶりです。
そんな中でも一際輝いているのが『赤い密室』です。周到なトリックによるミスディレクションが利いた紛れもない傑作であり、今まで読んだあらゆる密室ものの中でトップクラスの完成度を誇っています。おそらく、これからも僕の中で本作を超える密室ミステリーは現れないでしょう。

No.1 10点 斎藤警部
(2015/08/20 16:44登録)
地虫/赤い密室/碑文谷事件/達也が嗤う/絵のない絵本/誰の屍体か/他殺にしてくれ/金魚の寝言/暗い河/下り”はつかり”/死が二人を別つまで。。 題名を羅列しただけで溜め息が出る珠玉のアンソロジー。第二弾も全く緩み無し。(創元推理文庫)

同じく創元の鮎川初期短編精髄集でも、「宝石」に掲載された本格推理のみで構成された第一巻「五つの時計」に較べると多少のバラエティ感有り。 しかし全体通しての感触は、どちらも質実剛健ながら遊び心充分、トボケた味適量という、程近いもの。

そういや鬼貫も星影も出て来ないノンシリーズ物が多いんだな、第二弾のこっちは。 代表中の代表作「達也」「赤密」(星影)も爆発してますが最後の「死が..」の、意外で異様な真相には唸(うな)らされます、魘(うな)されます。 「碑文谷」の佇まいも素晴らしいね。 他にも哀しきファンタジー、怖い童話、ハードボイルドもどき(?)、言うまでも無くアリバイ粉砕劇数々と、体幹のしっかりした名作群が押し合い圧(へ)し合いしながらミステリ・ファン達の来訪を待っています。

巻末には再び有栖川有栖氏/北村薫氏/山口雅也氏の鼎談。相変わらず熱い!

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