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ミステリの祭典

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渡された場面

作家 松本清張
出版日1976年01月
平均点6.60点
書評数5人

No.5 6点 人並由真
(2024/05/03 06:07登録)
(ネタバレなし)
 その年の2月。佐賀県の漁村にある「千鳥旅館」にひとりの男性客が泊った。十日ほど滞在した客は、39歳の著述家・小寺康司と記帳した。小寺の部屋を担当する女中で24歳の真野信子は小寺の著作は読んだことはなかったが、林芙美子の作品が好きだった。信子が小説好きらしいと認めた小寺は、やさしい言葉を残して旅館を去った。それからしばらくして、某県の県警の捜査一課長で、文学に興味がある香春(かわら)銀作は、趣味で読んでいた文芸同人内のある事実に気づく。

 新潮文庫版で読了。
 半年前後前にブックオフの100円棚で、フリで手に取って、面白そうだと購入した一冊である。300頁ちょっとと清張にしては薄目で、実際にスラスラ読めた。以前から、割と長らく耳に残っていたタイトルだったので、なんとなく60年代の作品かと思っていたが、実際には70年代半ばの長編であった。

 ジャンルミックス型の作品で、ALFAさんがおっしゃるような「若干「木に竹を継いだ」感が」というのは同感。
 それでもこのアクロバティックな構成は見事だろう。
(そしてそれをホメた上で、たしかに荒っぽいというか、悪い意味で話がスイスイ行き過ぎる感は否めないが。)

 それでなお小説の細部には、円熟した巨匠作家ならではの旨味があり(たとえば捜査陣の思わぬ助っ人となる、無名の婦警のシーンなんかイイねえ)、トータルとしては十分に楽しめた。

 清張の作品のなかでは佳作、という意味合いでこの評点だけど、リアルタイムの新刊で読んでいたら、その年のSRのベスト投票では7~8点つけていたろう。
 
 ネタバレにまったくならずに、この作品から海外作家の誰を連想するか? といわれたら、もちろんヴィカーズ。

No.4 5点 ALFA
(2022/02/14 10:41登録)
完全犯罪だったはずが、別の事件と小さなつながりを持ってしまったために破綻するという構成。
倒叙なので清張の心理描写が冴える。地方文壇の人間模様や風景描写も楽しい。それでも若干「木に竹を継いだ」感が残るのは・・・
以下ネタバレします



二つの事件のをつなぐためにあまりにも多くの偶然や無理を重ねているから。

その1.作家が第二の事件現場を小説の原稿に残すという偶然。
その2.その原稿を全く別の旅先で廃棄するという不自然さ。
その3.素人作家が盗用したわずか6ページの部分が中央の文芸誌で注目され、掲載されるというという不自然さ。
その4.第二の事件の捜査担当者がその文芸誌を目にするという偶然。

並みの作家なら破綻しかねない偶然や無理を、筆の力技で「楽しめるサスペンス」レベルにまで高めているのはさすが。

No.3 7点 take5
(2019/10/21 13:12登録)
300ページ
盗作、文壇の価値観、二股、色々な要素をぶっこんでこの量で書ききるのはさすが清張。
真の犯人とどう繋げるか、スピード感がよく、二時間で読めました。

No.2 7点 蟷螂の斧
(2019/10/01 20:22登録)
~同人誌評に引用された小説の一場面が、強盗殺人事件の被害者宅付近の様子と酷似しすぎていた。~
倒叙ものなので、犯人を追ってゆく警察の地道な捜査が中心です。文学青年の盗作が、まったく関係ない二つの殺人事件を結び付けてゆくというもの。プロットが楽しめる作品です。

No.1 8点 斎藤警部
(2015/07/07 06:57登録)
旅荘にて、中堅の小説家が残した捨て原稿。小説家はその後死亡し、原稿の中身は作家志望の青年にちゃっかり盗用される。 青年の小説は同人誌に載り、盗まれた部分の内容が、ある疑惑を呼び、ある手掛かりを紡ぎだし、物語は大いに躍動する。。
文壇の生態をちらりと絡め、旅情たっぷりに展開する魅惑的サスペンス。 過去犯罪と現在の犯罪の立体交差ぶり、そのインターチェンジぶりが見事。 短い小説だが充実の噛み応え。

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