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ミステリの祭典

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クラヴァートンの謎
プリーストリー博士シリーズ

作家 ジョン・ロード
出版日2019年03月
平均点5.80点
書評数5人

No.5 5点 E-BANKER
(2024/01/28 14:01登録)
つい先だって、やっとの初読みを終えたJ.ロードなのだが、息つく暇もなく二つ目の作品を手に取ってしまった。
特に意味はないんだけど、もう少し面白い作品があるのでは?という淡い期待があったのも事実。
1933年の発表。

~久しぶりに老財産家の旧友を訪ねたプリーストリー博士だったが、孤高の隠遁生活をおくっていると思っていた彼の家には、あやしげな血縁者が同居しており、しかも主治医から、死は回避したものの彼に砒素が盛られた可能性があると告げられる・・・~

「退屈派」・・・
ロードに名付けられた全くありがたくない形容詞。前作+本作の二作を読んで、「そこまで退屈ではない」という感想ではある。
ただし、「なにか足りない」。しかも重要な「何か」が足りない・・・ような感覚。

本作のテーマは「毒殺」と「不穏な遺言」だろうか。それと交霊会や怪しげなスピリチュアリズムなどという副菜も盛られている。
まず「不穏な遺言」なのだが、この種のテーマは古今東西であふれている。
「犬神家の一族」なんかがまずは頭に浮かぶのだが、その種の名作に比べて、活用方法?の中途半端さが気になってしまう。
遺言により血縁でない謎の人物が登場するのだが、その人物は直接というかまったく犯罪には関わってこない。
プリーストリー博士が2回ほど会って話すにとどまっている。中途半端。

「毒殺」についてもなあー。たまたま最近読了したバークリー作品も砒素による毒殺テーマ(偶然!)だったけれど、盛り上げ方でかなり劣後している。本作では一旦、優秀な検察医により毒殺が否定され、読者としては??が増してきていただけに、この解法はいただけない。これでは読者は蚊帳の外ではないか。
ついでにいうと、スピリチュアリズムも雰囲気作りには一役買っているものの、カーなどとは比べるべきもないというレベル。

ということで散々けなしてきてますが、書いてるほど悪いわけではない(どっちやねん?)。
最後まで読者の興味は引いてるし、この時期の本格としては及第点ではないかと思う。
ただ、続けて読みますか?と問われれば、「うーん。しばらくいいかな・・・」と答えるだろう。
察してください・・・

No.4 5点 人並由真
(2020/02/18 23:59登録)
(ネタバレなし)
 評者は、マイルズ・バートン名義を含めてロードはこれで4冊目。
 望外の大技を使った『代診医の死』と愉快なトリックを重視した『素性を明かさぬ死』は面白かったが、これと『見えない凶器』はイマイチ。
 
 いや確かに本書はそれなりにストーリーのテンポは良く、一部を除いてそれぞれの登場人物のキャラも立っている。だからロード作品に付き合い馴れた常連の読者の方からすれば、これはいつもより健闘してる、という評価になるのもわかるような気もする。

 とはいえ、公開された遺言状の中にいきなり名前が出てくる人物の素性とか、肝心の殺人事件の犯人とか、いくら90年前の作品だからってあまりに曲がない作りでは。
 殺害トリックも読者の専門知識があるのなしのを言うよりも、そもそもこの謎の提示だけで、当初からほぼ犯人が見えてしまうのでないか? 少なくともかなりの読者がある人物を一回は疑い、それを否定する要素も無いまま真相にたどり着くのではないかと思う。1933年といえばもう英米ミステリ界の黄金時代なんだから、クラシックミステリとして甘めに見ましょうとかの話じゃないね。
 作劇上の降霊術の使い方も、シリーズ探偵もののなかで扱うのなら、もう少しネタの広げようもあった気が。この辺は単純にややもったいない。
 日本のシリーズものの量産作家だったら、凡作~水準作というところでは。
 評点は5.5点くらいだけど、下馬評の良さに鼻白んでこの点数に。

No.3 6点 nukkam
(2019/03/08 13:16登録)
(ネタバレなしです) 1933年発表のプリーストリー博士シリーズ第14作の本格派推理小説です。シリーズ代表作との評価も納得の出来映えです。旧友絡みの事件ということでプリーストリー博士の捜査への積極性が半端ではありません。人物の個性描写もこの作者としては敢闘賞もので、暗く禍々しい雰囲気が漂っています。語り口が単調で「退屈派」というありがたくないレッテルを貼られてる作者ですが、本書に関しては「やればできるじゃないですか」と褒めてあげたいです(笑)。痕跡の見つからない毒殺を扱っているところがトリックメーカーの作者ならではで、現代では通用しないトリックかもしれませんが説明がシンプルでわかりやすいです。

No.2 5点 kanamori
(2013/10/05 14:34登録)
数学者プリーストリー博士が”痕跡のない毒殺”の謎に挑む、シリーズの14作目。(翻訳家・渕上痩平氏のブログに訳載された「クラヴァートン事件」で読みました)。

ジュリアン・シモンズから”退屈派”という有難くないレッテルを貼られたジョン・ロード。物語の展開が平板なうえ後期作品はプロットがパターン化し、人物描写にも魅力がない、というのが大方の評価のようです。
初期作品の本書(シリーズは70作以上書かれているので14作目は初期のうちでしょう)は、冒頭からプリーストリーが事件にアクティヴに関るため、延々と捜査状況を聞かされるといった退屈さはありません。クラヴァートン卿の死因や遺言状変更の謎を巡って、博士の思考内容・推理過程が丁寧過ぎるぐらい繰り返し語られる構成がくどすぎる感じがありましたが。
以降の作品で、土曜の夜の例会のレギュラーとなるオールドランド医師の意外なプライベート事情や、終盤のスリリングな降霊術会の場面など読みどころは多いですが、毒殺トリックは(伏線はあるものの)文系読者の身には見破るのは無理です。

No.1 8点 おっさん
(2011/07/04 15:21登録)
多作でならしたジョン・ロードは、黄金時代の英国の本格ミステリ作家のなかでも、お気に入りの一人で、ひところ原書を集めたりもしていました。
なかなかのプロット・メーカーで、ミステリの定石をさまざまに変奏して、安定感のある作品世界で楽しませてくれます。エドワード・D・ホックの、たとえばサム・ホーソーン医師ものに感じるような親しみを、筆者はプリーストリー博士のシリーズにもっている、と書けば、なんとなくお分かりいただけるでしょうか。
1933年に刊行された本書は、既訳の『ハーレー街の死』などとともに、海外の評者が推す、ロードの代表作のひとつ。

プリーストリーの旧友クラヴァートン卿は、胃潰瘍を患って自宅療養中だが、順調に回復に向かっていた。
しかし、彼の主治医は、自分がロンドンを留守にするあいだ、プリーストリーに、卿の様子を見ていてくれと頼む。
少し以前、一時的に患者の容体が悪化したのを、医師は砒素の投与によるものではなかったか、と疑っていたのだ。
卿の身の回りの世話をしている姪(もと看護婦)、その母親の霊媒師、ちょくちょく見舞いに顔をだす甥(化学者)、いずれも怪しい。
しかし、事態は急激に次のステージへ。
医師がロンドンを離れた翌日、朝食を終えたクラヴァートンは、激しい苦痛を訴え、そのまま死亡する。
死体は、プリーストリーの信頼する病理学者の手で綿密に解剖されるが、案に相違して、砒素はもちろん、いっさいの毒物は検出されなかった。死因は胃の穿孔――つまり、潰瘍の突然の悪化としか考えられないのである。
やがて故人の遺書が公開されるが、その内容は、親族にとって予想外のものだった・・・

とにかくストーリー展開が快調。
核になるトリック自体は、専門知識に立脚したもので必ずしもフェアとはいえませんが、『ハーレー街の死』同様、肉付けしたプロットに工夫があるので、その点に不満はありません。ロードの巧妙さが発揮されています。
弱点は、犯人に“完全殺人”をやらせてしまった反動が、解決の強引さにつながってしまっていることでしょう。証拠が無いので、罠にかけて自白を促す、というのは、妥協の産物ですね。構成の論理に見合った、解明の論理を用意して欲しかった。
とはいえ、二度にわたる降霊会が独特のムードを醸したりしていて、読み物としては上々です。

(付記)本稿は、もともと原書のレヴューでしたが、翻訳出版が実現の運びとなったため、サイトのルール(「はじめに」参照)に従い、タイトルを邦題に修正しました。(2019.2.23)

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