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ミステリの祭典

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死者との誓い
マット・スカダー

作家 ローレンス・ブロック
出版日1995年01月
平均点6.60点
書評数5人

No.5 6点 E-BANKER
(2019/05/07 20:19登録)
“免許を持たない私立探偵”マット・スカダーシリーズの第十一作目。
原題“The Devil knows you are dead”-意味深だね・・・
1993年の発表。

~弁護士のグレン・ホルツマンがマンハッタンの路上で殺害された。その直後にはホームレスの男が逮捕され、事件は公式には解決する。だが、容疑者の弟がスカダーのもとを訪れ、本当に兄が殺人を犯したのか捜査を依頼してきた。ホルツマン殺害の真相を追うスカダーの前に、被害者の意外な素顔が浮かび上がってくる・・・。シリーズ中、最高峰とされるPWA賞最優秀賞受賞作~

本作はいわゆる「倒錯三部作」のすぐ後に発表された作品。
都会に潜む暴力的な巨悪と対峙した三部作を経て、再び静謐で内省的なスカダーが還ってきた雰囲気。
いい意味でシリーズは本流へ戻ったのだろう。

恋人エレインと満たされた生活をおくっているスカダーの前で物語は突然に始まる。
ひとつは紹介文のとおり、NYのど真ん中で起こった銃による殺人事件。そしてもうひとつは、元カノ・ジャニスが不治の病に犯された事実・・・
殺人事件の捜査を請負い、調査を進めるスカダーの心中にジャニスの死が暗い影を落としていく。
巻末解説の霜月氏は「(本作は)理不尽な死を『敵』として排斥しようとするのではなく、静かにそれと折り合いをつけようとする物語・・・」と書かれているが、自身も齢を重ねていくにつれ、「死」というものを現実感の伴ったものとして意識し始めたということなのだろう。

そして、やはりNYの街。
先日、M.コナリー(「シテイ・オブ・ボーンズ」)の書評でLAを“骨の街”と評していたが、NYもまた“骨の街”に他ならない。
本作では、被害者となるホルツマンがのし上がった先として、マンハッタンの高層マンションが描かれている。この街の住人は誰しも高層から人々を見下ろしたいと願い、大多数はその夢が叶わぬまま骨となっていく・・・
そんなことを考えてしまった。
でも、カラッと乾燥した街・LAと比べ、NYにはどこか曇り空が似合う感じがする。
それは、本シリーズそして主人公マット・スカダーの影響が大きい。
(結局、リサとの関係は曖昧なまま?)

No.4 6点 take5
(2018/07/08 17:35登録)
これまでのスカダーシリーズの中では、
事件が激し過ぎずに私は好みです。
その分、スカダーの葛藤がよく描かれています。
最後の所だけ、伴侶と被害者未亡人とどう折り合いをつけるかだけ、やや残念ですが。
展開途中の人間の描かれ方はさすがです。
スカダーの年齢が、やはり時代に伴って進んでいる印象を受け、そこは好ましいです。

No.3 7点 Tetchy
(2015/04/17 22:34登録)
『墓場への切符』から始まったいわゆる“倒錯三部作”を経たマット・スカダーシリーズも第11作目では圧倒的な悪との戦いから解放され、以前のシリーズの趣を取り戻したような様子で幕を開ける。
今回の事件はある弁護士の死の真相を探るという物。しかしその犯人はすぐに逮捕されて証拠もあるのだが、犯人の弟から事件の再調査を依頼される。

さて暗鬱な“倒錯三部作”を経た本書はそれまでのシリーズには見られなかった軽妙さがそこここに感じられる。それは前作でマットが決意したエレインと結婚を意識しているためか、どこか二人の掛け合いにそれまでにない薔薇色めいた華やかさを感じるのだ。
そして今や名バイプレイヤーとなったマットの助手TJの活躍も文体の軽妙さに一役買っていると云っていいだろう。前作『獣たちの墓』で大活躍したTJが本作でも事件の目撃者捜しという大役に大いに貢献する。
アル中探偵で警官時代の過去の事件でトラウマを抱えて1人孤独に社会の底辺で生きる人々の間を渡り歩いていたマットだが、もはや彼は一人ではなく、チームが出来上がっていたのだ。これが物語のトーンを変えているアクセントとなっているのは間違いない。

本書が特徴的なのは物語が約100ページを残して一旦の解決を見ることだ。そしてそこからの100ページは最後のピース、グレン・ホルツマンを殺した犯人が判明するが、決してマットはその犯人解明に尽力するわけではない。ただいつものようにエレインに逢い、ミックたち友人に逢い、AAの集会に出て語らい、そしてリサの許を訪れる。そんな道行きの中で天啓のようにひらめく。それは30分に一人が殺されているという犯罪の国アメリカにおいてたった一つの殺人がグレン殺害の犯行と似ていたことに気付くことで明かされる。この味わいはこのシリーズならではの物だ。

かつては世間では取るに足らない存在に過ぎない人間の尊厳を守るために生前親しんでいた依頼人のために事件を探っていたが、今では死が全てを忘れ去ってくれるかのごとく、依頼人も固執せずに容易に依頼を真相が解らぬままで断ち切る。時代が移ろい、人の心も移ろうのだ。
それはマットとて例外ではない。過去の過ちから一人でいることを決意した男が自分の死と直面し、そして愛する者が瀕死の状態に陥ったことで結婚を決意する事になる。
1人ではなく、護る者が出来たマットが辿る静かな足取りながらも味わい深い物語をこの後も期待する事にしよう。

No.2 7点 あびびび
(2014/11/15 00:16登録)
弁護士のグレン・ホルツマンがマンハッタンの路上で殺害された。その直後にホームレスの男が逮捕され、事件は公式には解決する。だが、容疑者の弟がスカダーのもとを訪れ、ほんとうに兄が殺人を犯したのか捜査を依頼してきた。

マット・スカダーが愛する元高級娼婦のエレインとの会話は本当に洗練されていて楽しい。それと、殺し屋ミック・パルーとの深夜の会話もこのシリーズの肝だ。

No.1 7点 kanamori
(2011/01/03 16:30登録)
私立探偵マット・スカダー、シリーズの11作目。
シリアルキラーものでエンタテイメントを前面に押し出した”倒錯三部作”を経て、本書で再び初期の内省的で文芸寄りのハードボイルド小説に回帰したように思います。その辺が一部で本書の評価が高いのかもしれません。ミステリとしてのプロットが弱い様な気がしますが、職人芸といえる語り口はやはり読ませます。
しかし、アル中と無免許がウリの私立探偵が、酒を断ち免許を取得してどこへ行こうとしているのだろう。

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