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ミステリの祭典

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天使と罪の街
ハリー・ボッシュシリーズ

作家 マイクル・コナリー
出版日2006年08月
平均点7.25点
書評数4人

No.4 6点 E-BANKER
(2020/12/21 21:11登録)
ハリー・ボッシュシリーズの記念すべき10作目となった本作。
今回は作者初のノンシリーズ「ザ・ポエット」の続編と言うべき作品でもある。
2004年の発表。原題は“The Narrows”

~元ロス市警刑事の私立探偵ハリー・ボッシュは、仕事仲間だった友の不審死の真相究明のため単独調査を開始する。その頃、ネヴァダ州の砂漠では多数の埋められた他殺体が見つかり、左遷中のFBI捜査官レイチェル・ウオリングが現地に召致された。これは連続猟奇殺人犯、「詩人(ポエット)」の仕業なのか? そしてボッシュが行き着いた先には・・・~

今回の事件も主な舞台はLAでありラスヴェガスであった。
ボッシュ自身が長年ハリウッド署の刑事として勤務していたのだから、当然LAはいつもの舞台。邦題になっている「天使と罪の街」というのもLAに相応しい形容詞だろう。
そしてラスヴェガス。言わずと知れたギャンブルとショーの街。不夜城そして男たちの欲望で造られた街。
ボッシュの妻エレノアは、この街で名うてのギャンブラーとして生計を立てている。何より前作でその存在が明らかになったボッシュとエレノアの娘マデリンが暮らす街。ボッシュにとっては特別な街なのだ。
「詩人」による連続猟奇殺人事件を追う間も、ボッシュは娘の寝顔を見るため、この街にやって来る。ただひたすらに愛おしい娘の存在・・・それが“渇いた”二都市で起こる事件で奮闘する彼に潤いと勇気を与える。

今回、大きな謎はない。
真犯人は最初から明確。「詩人」その人なのだから。そこにサプライズは仕掛けられていない。
読者としては、ボッシュ&レイチェルコンビVS「詩人」の対決を、手に汗握りながら見守るだけだ。
原題となっている“The Narrows”とは、ロスアンゼルス川のことを意味している。終盤、「詩人」を追うふたりの前に立ち塞がるのが災害級の大雨。雨中の川を舞台とした対決は、思わぬ結末を迎えることになる。
さすがに「詩人」は強敵なんだけど、最後やや淡白な終わり方となったのは気になった。折角の大物なんだから、もうちょっと盛り上げ方があったような気が・・・

いつものような複雑なプロットではなく、「詩人」シリーズの決着を付けることを第一に。さらにはテリー・マッケイレブに纏わる物語も本作で結論が得られることとなった。
そういう意味ではシリーズのひとつの転換点となる作品(なのだろう)。ただ、コナリーとしては今一つという見方もできる。

No.3 9点 Tetchy
(2018/07/29 23:32登録)
ボッシュシリーズ記念すべき10作目はこれまでコナリーが発表してきたノンシリーズが本流であるボッシュシリーズと交わる、いわばボッシュ・サーガの要をなす作品となった。恐らく作者も10作目という節目を迎え、意図的にこのようなオールスターキャスト勢揃いの作品を用意したのだろう。
ノンシリーズで登場した連続殺人鬼“詩人(ポエット)”が復活し、その捜査を担当したFBI捜査官レイチェル・ウォリングが再登場し、また『わが心臓の痛み』で登場して以来、『夜より暗き闇』で共演した元FBI心理分析官テリー・マッケイレブが交わる。しかしなんとそのテリー・マッケイレブは既に亡く、ボッシュが彼の死の真相を探る。

とにかく全てが極上である。味のある登場人物たち、物語の面白さ、謎解きの妙味。ミステリとしての謎解きの味わいを備えながら、シリーズ、いやコナリー作品全般を読んできた読者のみ分かち合えるそれぞれの登場人物の人生の片鱗、そして先の読めない、ページを繰る手を止められない物語自体の面白さ、それらが三位一体となって溶け合い、この『天使と罪の街』という物語を形成しているのだ。

まず触れておきたいのは自作の映画化についてのことだ。
テリー・マッケイレブと云えばクリント・イーストウッド監督・主演で映画化された『わが心臓の痛み』(映画題名『ブラッド・ワーク』)が想起され、今までコナリー自身が作中登場人物にその映画について再三触れているシーンがあったが、本書では更にそれが加速し、随所に、なんとそれぞれ映画で配役された登場人物がこの映画について触れている。
私は幸いにして『わが心臓の痛み』読了後、BSで放送のあったこの映画を観ていたのでこれらのエピソードを実に楽しく読めた。ボッシュ(=コナリー)が云うように、私自身大きな賛辞を贈った原作が映画になると何とも淡白な印象になるものだなと残念に思っていたからだ。

詩人に敗れ、命を落としたマッケイレブの遺品と遺したメモを手掛かりにボッシュは犯人の足取りを辿るのだが、それらは断片的に遺された、ほとんど暗号に近い内容だ。それをじっくりと読み解いていくプロセスはまさにミステリにおける謎解きの醍醐味に満ちている。物語の中盤、上巻から下巻にかけて詩人がどのように被害者たちを狩っていたのか、その足取りを辿る件は久しぶりに胸躍る思いがした。

なおコナリーは2003年から2004年に掛けてMWA、即ちアメリカ探偵作家クラブの会長を務めていた。本書は前作『暗く聖なる夜』と本書がまさに会長職にあった頃の作品だが、ウィキペディアによれば前作がMWAが主催するエドガー賞にノミネートされたものの、会長職にあるとのことで辞退している。
また本書ではイアン・ランキン、クーンツのサイン会が書店で開かれたことや、初期のジョージ・P・ペレケーノスの作品は手に入れにくい、などとミステリに関するネタが盛り込まれている。これはやはり当時会長としてアメリカ・ミステリ普及のために、細やかな宣伝行為を兼ねていたのではないだろうか。そういえば前作ではロバート・クレイス作品の探偵エルヴィス・コールが―その名が出ていないにしても―カメオ出演していた。こういったことまで行うコナリーは、自分の与えられた仕事や役割を、個性的なアイデアで遂行する、几帳面な性格のように見える。

今回もコナリーは期待を裏切らなかった。
ただ惜しむらくは本書はあまりに『ザ・ポエット』の続編の色を濃く出しているため、作者が明らさまに『ザ・ポエット』の内容と真相、真犯人を語っている。従って『ザ・ポエット』の内容を知りたくないならば本書を読む前に是非とも読んでおきたい。

No.2 7点 あびびび
(2016/02/23 11:42登録)
マイクル・コナリーに外れなし…。確かこれで5作目だけど、それは強く実感している。ただ、相手がモンスター級の殺人者というのも共通項(今までの作品がたまたまそうだったのかも?)で、これが少し残念な気もする。



No.1 7点 kanamori
(2010/10/11 22:16登録)
ハリー・ボッシュシリーズの10作目は、まず発端から驚かす。
「わが心臓の痛み」の元FBI心理分析官マッケレイブの死、「ザ・ポエット」の連続殺人鬼”詩人”の再登場という、過去のノンシリーズ2編の登場人物を全てボッシュの世界に合流させる荒業をやっています。
本筋は「ザ・ポエット」の続編という感じで、サスペンス重視のため、本格パズラーの側面がやや弱いかなと思いますが、それでも読者の予想を裏切る終盤の展開は健在で、やはりコナリーに凡作なし。

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