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ミステリの祭典

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八日目の蝉

作家 角田光代
出版日2007年03月
平均点5.25点
書評数8人

No.8 7点 斎藤警部
(2024/07/12 13:07登録)
“その子は朝ごはんをまだ食べていないの。”

赤ん坊のリアルなプレゼンスがすごい。 逆に、赤ん坊がいるはずなのにそう感じられない所は、主人公がそれほどまで他の事象へ気を取られるサスペンスの描写に自然となっている。 不安感と謎と、同時に膨らませながらの展開は実にスリリング。 こっそり言っちゃうと、途中ちょっとだけ「メグストン計画」を思わすシーンというか要素もあった(別にネタバレではない)。 女が或る人物の娘(赤ん坊)をさらい、育てながら逃亡生活を続けるストーリー、が根幹にあるが決してそれだけではない。 まあ読んでみてください。

タイトルの意味する所は何なのか? それは到底耐えられないような爆発を果たすのか? やさしさチンチロリンなのか? .. ほう「蝉」はそこで初登場するのか。 ◯◯の象徴の一つと言うことか? ・・ちょっと違うのか・・・ とタイトルワードが投射しようとするイメージに少しずつ補正を加えながら読書を進行する(特に後半?)。 話のスタートは1985年。 主人公にとっては阪神タイガースの優勝どころではない。

「あんたがここにおってくれて喜んどった。会いたいって言よったで」

ふと登場する「両親」なる言葉は、刺さったなあ 。。。  。。。。これはちょっと、流石に辛いよなあ。。
より巨大な謎と、爆発するカタストロフィ、あるいはそれさえ封じ込める更に恐るべき存在への予感。 第1章終わりの、空恐ろしさの圧力。 第1章(ストーリー前半)と第2章(ストーリー後半)の間に在る、強固過ぎる断絶の痛み、これがまた、結末へ向けての予感の加速に油を注ぐのだ。 『裁判』の核心がずっと後から明かされる構成も、ぐっと来る。

「じゃあ、あんたが知っている『あの事件』ってのは、何」

ストーリー後半、時系列やら何やらのカットバックというより最早ぐるぐる回転パッチワークのような展開を見せる。 回想の中の、熱くもあたたかいフラッシュバックなどもある。 何気に時代の社会問題らしきネタをドーンと打ち出して来たのは、ストーリー上の何かから目を逸らさせるためなのか、と思わせる所もあった。

“それくらい私は恐れていた。道が続いていて、それが過去とつながっていると確認することを。”

あの「タクシー運転手さん」の言葉、小説でもさることながら、映画だったら影のハイライトシーンになるよなあ。 何故なら、演じる俳優の・・・・ 実際の映画は観てないので知らんけど。

後半、ミステリの一種としてのサスペンスとは違う着地になりそうな雰囲気も発し始めますが、読ませる興味とエキサイトメントは一向に失いません。

「手放すことは難しいねえ」

『帰り道』のシーン、泣けるのとも微笑みを誘うのとも少し違う、すぅーっと透明な気持ちになるような ・・・ このエンディング、いいと思います。

No.7 5点 麝香福郎
(2022/07/21 21:30登録)
「親であること」「家族であること」のつまづきを徹底的に描きながら、しかしこの小説が向かうのはそこではない。希和子は人の子を奪い、自分の子を持ったことで、それを奪われる恐怖と苦しみを知り、その時「母」になった。子供をさまざまな形で失う作中の人々を「親になる資格がなかった」という自業自得論で片づけることは容易いが、この作品は何かを糾弾することはしない。誘拐犯も、ダメ母、ダメ父も、意気地のない子供たちも、狂信的集団も。
小説が人間の内面に寄り添う瞬間というのはこういうものを言うのだろうか。本書はそんな瞬間を次々と出現させて、生身の人の理不尽さを堂々と描き切っている。

No.6 3点 スパイラルライフ
(2012/03/03 21:49登録)
親子の心理描写が上手く、読ませる作品。
ただし他の方のコメントの通り、ミステリじゃないですね。

No.5 4点 蟷螂の斧
(2012/03/03 08:29登録)
日本アカデミー賞『八日目の蝉』が最多10部門で最優秀賞!のニュース。ミステリーとは思っていなっかたので、このサイトにはないと思っていましたが、登録されていたので評価しました。サスペンス度もあまり感じませんでしたし、一章の誘拐犯の女性および二章の誘拐された女の子(成長後)の心理は男である私にはよく理解できませんでした。余談ですが、近所のおばちゃんから「この本はよかったね?」と同意を求められ困ったことがありました。(笑)

No.4 4点 3880403
(2011/05/05 22:21登録)
期待し過ぎてしまった。
仕方ないかもしれないが、全くハラハラドキドキはしない。
ラストもベタな気がする。

No.3 8点 kenvsraou7
(2011/05/04 23:11登録)
確かにミステリではない。
しかし、そんなことを払拭するくらいの心揺さぶられる作品である。
物語は1章と2章しかなく文章もすごくわかりやすい。
1章は誘拐犯の逃亡から逮捕されるまで。
2章は誘拐された女の子が成長してからの話。
至ってシンプルなのだが作者の人物描写が巧みに表現されて
おり、読み手の感情を揺さぶってくる。
ここがこの作者のうまいところである。

人生をボロボロにされた犯人を憎む主人公が
いつしか顔をも覚えていない誘拐犯を理解していき
人間とは愚かな生き物なのだと、
そして本当の幸せは決して望むことではなく
常に目の前にあることに気づくことができるかどうかだと
読者に訴えかけてきているようだった。

もしチャンスがあるなら映画も見てみたい気がした。
そんな作品である。

No.2 7点 touko
(2011/04/02 23:58登録)
誘拐ものとはいえ、本格的なミステリやサスペンスを期待して読むような作品ではないんですが、直木賞受賞作よりさらにうまくなっているし、リーダービリティも高い。

意外とシビアなところもあるこの作家にしては、甘くはないけどヒューマニズムを感じさせる結末の落としどころが絶妙で、これは売れるわけだと納得。

No.1 4点 江守森江
(2010/04/07 15:34登録)
最近「外事警察」「行列48時間」などNHKのドラマ化作品はレベルが高い。
その為に原作を読む機会が多くなる。
直木賞作家の初の長編サスペンスで、ドラマ化情報を知ると同時に図書館予約した(現在予約殺到中)
子供をさらうのと、その先の展開は一応サスペンスと言えなくもない(かなり微妙)
しかし本質は、不倫・罪・愛情・人生観などから人間を描き、読者の魂を揺さぶる事にある。
感情移入(男性は特に)しにくい主人公で作品を引っ張り、ラストに仕留めるのは作者の真骨頂だとは思う。
また、ストーリーの先を考えさせるタイトルは秀逸。
それでも、もっとサスペンスフルな作品を期待していた私には肌が合わなかった。
※余談
本格ミステリの合間の息抜きを期待したら失敗してダメージを負った気分。

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