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ミステリの祭典

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メグレと深夜の十字路
メグレ警視 別題「深夜の十字路」

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1953年10月
平均点6.60点
書評数5人

No.5 6点 人並由真
(2023/05/30 16:03登録)
(ネタバレなし)
 少年時代に当時稀覯本のポケミスも古書で購入。しかし結局は今回初めて、長島版で読了。

 評判が良いので期待したが、いささか複雑な印象。
 
 初期編のメグレは、成熟期のメグレとはまた少し違う心構えや歩幅で楽しむものだ、ということはアタマでは十二分の理解していたつもりだが、本作の場合、それでもその初期編らしいミステリとしての練り込みぶりや意外なトリッキィさの部分が、若干、邪魔に思えた。
 特に途中で起こる、さらなる事件の新展開など、違和感すら覚える。
 いや本当はここで改めて、おお、メグレの初期編はこのくらいに幅の広がりがあったのだな、と感銘すべきところなのだろうが。
(いや『怪盗レトン』も『死んだギャレ氏』も大好きだよ。大昔に読んだきりだけど。)

 結局、一番心に残ったのは、キーパーソンふたりの屈折した、しかしどこか(中略)な内面の実相であった。
 ……しかしこれはたぶん誰が読んでも、同じような感慨を覚えるであろうことで、例えるなら24時間TVの手塚アニメ『バンダーブック』を観て、「一番心に残ったのは「過去は変えられないが、未来は今からだって変えられる」という一言でした」というようなアホな感想を語るようなものであろう(大昔、アニメージュの読者欄でそーゆー、誰に聞いてもまず出て来るであろう決まり切った述懐を平然と語る輩の無神経さに、めちゃくちゃ腹が立った覚えがある)。

 閑話休題。
 結局、本作は、メグレシリーズの大系を俯瞰するうえでは相応の意味がある作品ということになろうが、自分にとってはいささか摩擦感のある一冊であった(汗・涙)。
 ただしエピローグはいい。シムノンらしい人間喜劇(といっていいのか)の刹那の一幕で、地味に心に染みる。

No.4 8点
(2019/02/23 16:55登録)
 パリ郊外の十字路に建つ「三寡婦の家」と呼ばれる屋敷――かつて三人の老嬢が変死したそこに、謎めいた片目の外国人とその妹が引っ越してくる。既存の住人たち、ガソリンスタンドと保険屋の夫婦との間に、徐々に緊張が高まってゆく中で事件は起こった。保険屋の自動車が盗まれ、三寡婦の家のガレージに駐められていたのだ。
 そして、その車内にはアントワープのダイヤモンド商人の射殺死体が!
 更に夫の死体を引き取りに来たその妻も矢継ぎ早に射殺され、事件はますます紛糾していく。部下のリュカ刑事は現場である十字路に異様な雰囲気を感じ取り、メグレ警視に忠告するが・・・。
 メグレシリーズ第7作。かなり初期の作品で、「男の首」「黄色い犬」「サン・フォリアン寺院の首吊人」とほぼ同時期のもの。エンタメ寄りのシリーズ秀作。序盤の異様なムードに加え、ここでこれを使うかという意外な真相アリのお奨め作品。
 謎の外国人兄妹(特に妹の方)、陽気なガソリンスタンドの店主、チンケな保険屋等、登場人物も魅力的。江戸川乱歩はあまり評価しなかったようですが(なんとなくわかる気がする・・・)、古手のシムノン翻訳者松村喜雄氏など、フォロワーも多い。河出のメグレシリーズ追加分で本書の翻訳を担当した長島良三氏も、おそらくその一人でしょう。
 個人としても独断と偏見でメグレものベスト3には入れたい作品。なおあとの二作はとりあえずヒミツ。そのうち発表します。

 追記:長島さんということで河出書房の新書版で読了しましたが、HPB版「深夜の十字路」の訳者、秘田余四郎氏は戦前に名人と謳われた字幕翻訳家で、戦後の清水俊二さんのような存在。そのうちHPB版も精読して、両者を比較してみたいところです。

No.3 6点 クリスティ再読
(2018/12/23 22:07登録)
初期のポケミス「深夜の十字路」で読了。No.119で本作がポケミスのシムノンでは最初のものである。著者名が「シメノン」のくせに乱歩の解説は「シムノン小論」である(苦笑)。途中でシメノンよりシムノンの方がより正確な発音だとなって、変えたんだよね。この「シムノン小論」が日本のシムノン受容をフォローしていて一読の価値がある。戦前の映画「モンパルナスの夜」が特に日本ではがっちり人気を掴んで、春秋社「シメノン選集」まで出たことが思い出話になっている。「シムノンを理解し、これに心酔したことでは、日本の方が英米よりも早かったと思う」
tider-tiger さんがうまくポイントを纏めているので繰り返さないが、シムノンらしいキャラ造形の上手さが味わえる作品だ。登場人物は3家各2人の男女計6人がメインでそれぞれが個性的。落魄した上流階級出身のデンマーク人、自動車修理工場を経営するボクサー上がりの男、保険代理店を営む吝嗇なプチブル、とそれぞれ出自が異なる人々の只中に、車に乗った死体が登場して彼らの隠された関係が?となる。とくにデンマーク人の兄妹の関係が不思議で、これが一番初期シムノンぽくて印象に残るだろう。
事件自体はかなり荒っぽいものなので、メグレ本人が銃撃されるなど、なかなか派手な展開を見せる。そこらへんあまり初期っぽくない。名作とかそういう感じはまったくないのだが、それでもたまに本作のキャラのことが頭に浮かんだりしそうな作品である。こういうあたり、日本人好みなのかな。

No.2 7点 tider-tiger
(2015/11/30 21:25登録)
メグレが容疑者を尋問しているシーンから物語は始まります。
保険屋のミショネは車を買い換えたばかりでウキウキ。――ウキウキは勝手な想像です――。ところが、その日車庫を覗くと、新車は消えており、代わりに近所に住むデンマーク人カール・アナセンのおんぼろ自動車がそっと置かれていたのです。
――ミショネは激怒した。――
その頃、おんぼろ自動車の持ち主であるカール・アナセンは逃亡を図っていました。アナセンの車庫には死体入りの新車が置かれています。
そんなわけで、アナセンはすぐに取り押さえられ、冒頭の尋問シーンとなったのです。
ところが、このアナセンが只者ではない。海千山千のアナセンというわけでもなさそうなのに、厳しい尋問にもへこたれず、上品な態度を決して崩さないのです。
メグレはいったんアナセンを釈放することに。
アナ「ありがとう、警視さん」
メグ「いや、どういたしまして」
アナ「私は無実であることを誓います」
メグ「何も誓ってもらわなくてもいいさ!」

謎があり、アクションがあり、意外性もあり、エンタメとしてなかなかの秀作。そのうえ人物造型も非常に良く、シムノンらしさをしっかり保持している。好きな作品です。有名作であり、比較的入手し易いこともあってかシムノン(メグレシリーズ)入門に『男の首』を選ぶ方が多いようですが、個人的にはあれは入門向きではないと思います。じゃあなにが一番いいのかと問われると困りますが、『メグレと深夜の十字路』から入るのも悪くないのでは。

「シムノンは三十を過ぎたら読むといい」なんて言われているようですが、私に関しては当たっていました。
学生時代に読んだ時は「つまらん」と思いました。
三十ちょい前に再挑戦しました。「別に面白くないけど、ちょっといいかも」
さらに数冊読みました。「やっぱりそれほど面白いとは思えないけど、なんか癖になるな」
ついに古本屋で二十冊まとめ買い(絶版だったので古本なのに一冊千円くらいしました)。「これは一粒千円の宝石だ!」と確信、今に至ります。何度読んでも面白い。このサイトで高評価をつけづらい面白さなのが悩ましいのです。

No.1 6点
(2010/01/14 21:04登録)
初期メグレものといえば、雰囲気重視の落着いた人情話という印象が強いと思います。しかし、本作の事件はコメリオ予審判事が解決できるかどうか心配するほど奇妙なもので、さらにその後の展開もシムノンにしては驚くほど派手なのです。メグレが拳銃を撃ちまくったり容疑者を何度も殴りつけるなんて、中期以降のより警察小説っぽくなった作品を含めても、めったにないことです。アクション、ハードボイルド系が好きな人に受けそうなぐらいのテンポの良さで、快適に読ませてくれます。
まあ、本作の真相はそういった荒っぽいものであったわけですが、、そのような事件でもやはり印象的な人物たちが登場し、ラスト2ページほどで描かれる事件解決約3ヵ月後の後日談にはしみじみさせるところがあるのは、あいかわらずです。

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