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ミステリの祭典

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震源
小役人シリーズ

作家 真保裕一
出版日1993年10月
平均点4.57点
書評数7人

No.7 7点 Tetchy
(2018/08/02 23:42登録)
しかし気象庁と地震とは真保氏はまたもや何とも地味な主人公の職業とテーマを選んだものだ。こんな地味な題材を用いながらしかし、真保氏はエンタテインメントを紡ぐことに成功している。
とにかく話が進むうちに新たな謎が次から次へと出てくるため、全く先が読めない。

しかし江坂の行動原理に対して設定の甘さを覚えてしまう。一介の気象庁の人間である彼が森本を執拗に追うのは、彼がかつては気象研究所への席を争った相手であり、愛人問題で仕事のミスが多かったことで当直しないように忠告しながら、それをさせてしまったことが、彼をその椅子から蹴落とすことになったことで責任を感じている思いからである。
しかしそれは森本も云うように彼自身の自己責任の問題であり、江坂には全く非がない。それにも関わらず自身にも責任の一端はあるとしてそれに固執して森本の世話を焼くのは単に自分に酔っているとしか思えない。
江坂は自分が納得したいから行動するというが、それも自分の辞職を掛けてまで行うことかと首肯せざるを得なかった。江坂がここまで執心する性格付けとして火山の観測業務は地味な作業の積み重ねで手間暇かけて調べることに慣れているからだとなされているが、この執念はちょっと異常だ。

更に森本のプライヴェートに介入し過ぎである。元仕事仲間が家庭崩壊の原因となった愛人問題について別れた家族に訊くという不躾さに、更にその愛人の居所をその家族から訊くという厚顔さ。また森本の娘靖子に、頑なな心を少しでも柔らかくするためとは云え、やたらと自分の過去を話すところは、下心も透かして見えるほどである。しかも亡くなった森本の身元確認を行った翌朝にも自分と父親とのことを持ち出して話をするところによほどこの男は靖子に好かれていると自信があるのだなと思ったくらいだ。
また上に書いたように35にもなって独身で父親への反抗心が残っている彼はどこか幼い感じを覚えてしまう。特に上に書いたように辞職を決意してまで、納得したいからと云って人の苦い過去を掘り起こしてまで、プライヴェートに介入するやり方はちょっと度が過ぎる。しかも彼が自身の好奇心を満たせば満たすほど、当事者は傷ついていく。
さらに後半は奄美大島の西の東シナ海沖で海上保安庁と海上自衛隊が合同で行っている秘密の演習の謎を探るために気象庁へ辞表を提出してまでそれを取材している雑誌記者と行動を共にして、かつて趣味でやっていた登山の経験を活かして、怪しいと思われる硫黄鳥島に潜入しようとまでする。もはや一介の気象庁の職員というレベルを超えた行動力と活躍を見せる。正直ここまで人生を賭けてまで調査する江坂の行動は度が過ぎると思った。
しかしそんなことを云っていると本書の物語自体が成り立たないのだが。

また物語の渦中にある森本俊雄が50にもなって愛人を作った理由が明かされなかったのも心残りだ。家庭のある身でありながら、なぜこの歳で若い女性に溺れたのか。実直な仕事ぶりを見せていた彼なりの理由が知りたかった。それが十分語られず、自らの過ちで家族が取り返しのつかないことになり、離婚するまでに至った彼の行動の真意が知りたかった。

読み終えた今、感じるのは実に複雑な構成の物語だったということだ。脇役に至るまで細かな背景を描き、1人の行方知れずの人物を捜すために福岡と鹿児島を往復し、人から人へと訪ね歩いて、細い一本の糸を辿るような私立探偵小説の様相を呈しながら、一転して東シナ海沖で隠密裏に動いている海上保安庁、海上自衛隊の演習の謎を探るためにセスナを使っての調査、そして夜間の硫黄鳥島への潜入行と冒険小説へと転身させ、最後は日本に巣食うスパイの正体を探る諜報小説で終わる。目まぐるしく変わる小説のテイストに戸惑いを隠せない。
そして何よりも一抹の割り切れなさを抱えて終わることが実に勿体ないと感じる。

1人の男の辞職の真意を自分が納得したいからという理由で追い求めた男が始めた行動によって失われた代償はあまりに大きかったと思うのは私だけだろうか。
少なくとも日本の隠されたもう1つの貌を知った江坂の明日は今までのそれとは違うはずだ。それを彼が本当に望んだことなのか、それを考えると彼は知り過ぎてしまったのかもしれない。知ることの恐ろしさと虚しさを感じた作品だった。

No.6 5点 江守森江
(2011/03/21 04:01登録)
多分、東日本大震災が起こらねば一生手にせず読む事もなかっただろう作品。
家族全員肉体的被害が一切無かった反面で、生活基盤である運用資産に甚大なダメージを被る可能性大で、更に書籍コレクションの倒壊で自宅のトランクルームが密室化してしまい(修理せず放置状態)ヤケクソな気分で一週間が過ぎた。
ヤケクソついでに震災関連小説を不謹慎にも読み精神面の自己回復を試みた。
連日ニュース映像で目の当たりにした様な場面が連発し、余りのタイムリーさに驚ける。
地震以上に、そこから派生する津波の怖さや人災(陰謀)が描かれ今回の震災被害にイメージが直結する。
それでも、平時に読んだら凡作なのかもしれない(否!東日本大震災を経験した時点で本作は凡作ではなくなった)
※余談
地震発生時には都内所有ビルの内部被害(ほぼ保険で補修可能)だけで済みそうだったが、まさか福島で運用している土地(先祖伝来の相続財産)が放射能汚染(避難境界線付近で資産価値の大幅ダウン)危機にさらされるとは予測出来なかった(>_<)

No.5 4点 こもと
(2009/11/17 12:34登録)
真保氏、大好きですが、この本の評価は微妙。 最初に大風呂敷を広げ過ぎた感があるので、まとめに入る頃には最初の方との繋がりがピンと来ず。 相変わらず、主人公となる男性はキャラ的に男前で、好みですが。

No.4 4点 VOLKS
(2007/07/29 01:17登録)
読み手のコチラが不勉強の為か・・・作品を楽しむことが出来ないまま読み終えてしまったことが残念。

No.3 2点 くりからもんもん
(2005/05/18 14:03登録)
意味不明。伏線張りすぎて収集つかなくなったんでしょうか?

No.2 7点 由良小三郎
(2002/05/25 09:03登録)
『ホワイトアウト』をぼくは名作だと思っているのですが、その前にかかれて、ホワイトアウトの名作である部分と共通の要素がかなり含まれている小説という位置付けです。ある意味で過去のジャンルになったような気がする非情な国際スパイ小説(謀略小説)の部分がどうかなというところが難です。

No.1 3点 tenkyu
(2001/05/06 01:22登録)
氏の作品の中で一、二を争う駄作。

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