黒の試走車 タイガー自動車 |
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作家 | 梶山季之 |
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出版日 | 1962年01月 |
平均点 | 7.33点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 8点 | クリスティ再読 | |
(2022/06/15 20:34登録) 昭和面白小説なら本作はいかが。 ミステリ系書評だとどうしてもエスピオナージュの変種として、「企業スパイ小説」を取り上げることになるのだけども、改めて読んだ感想としては、社会派ミステリ+経済小説、という読み方をした方がいいんじゃないか?とも思う。 というのも、ミステリを語るうえで「読者論」というのも大変重要なものだと思うからだ。松本清張が王者として君臨したのは、ミステリの読者としてサラリーマン層を獲得したからなんだろう。だったら、サラリーマンの仕事をミステリの主題としてフィーチャーした作品、ということとなると、本作のような経済小説と合体した作品も新しい読者にウケるわけだ。 国家がバックの「スパイ小説」だったら、すでに組織もガジェットも揃った状態で、スパイが活躍するわけだが、本作はライバル会社の攻撃に自衛するために急遽編成された「産業スパイ課」といった組織「タイガー自動車企画PR課」の話。その立ち上げから描くために「手作り」感があって、これが面白い。同期のライバルの死の真相、自社の新作の高級車の「事故」を巡る陰謀と対処、情報漏れをしている個所の点検と対策、裏切り者探しといった「防衛」に関する話題から、積極的な攻勢に出て、ライバル社の戦略や新作のいち早い情報入手....合法から非合法スレスレまで手段を択ばない「スパイ活動」が描かれる。 なので実に盛だくさんな内容。ネタだけで十分におなか一杯。ドラマは面白いというほどでもないし、キャラは類型的。でもデテールの説得力がこの小説のキモであり、最大の存在価値。 評者が読んだ本書は、岩波現代文庫というのも、実にイレギュラーだけども、佐野洋の解説を読むと、昭和高度経済成長期のドキュメント、といった意味合いがあるようだ。 だったらさあ、「総会屋錦城」とか本サイトでやってもいいのかしら? |
No.2 | 8点 | 人並由真 | |
(2021/09/07 14:55登録) (ネタバレなし) 昭和30年代半ばの国産自動車業界は「タイガー」「ナゴヤ」「不二」の三大メーカーが熾烈な競争を続けていた。そんな1960年の10月上旬「タイガー自動車」の最新型モデルでユーザーの支持を得ていた「パイオニア・デラックス」が東海道本線の掛川駅周辺の無人踏切で停止し、列車事故を起こす。死者は出なかったが、パイオニアの運転手・芳野貫一はタイガー自動車が欠陥車を売ったと主張し、賠償金と鉄道会社からの請求の支払い代行を求めてきた。タイガーの企画一課長で、タイガー創業から生え抜きの35歳の柴山美雄はこの「掛川事故」を調べるが、その最中で不慮の事故死? を遂げた。それと前後して、柴山の大学時代からの親友で同期入社だった朝比奈豊は、タイガー内に新設された「企画PR課」のトップを拝命する。だが同課の実態は他社を相手にした産業スパイとしての間諜・防諜が主任務だった。朝比奈は上司の小野田部長の認可のもと、親友、柴山が何を追いかけていたのか、そして掛川事故の真相にも肉薄するが、やがて予想外の事実が次々と浮かび上がってくる。 カッパ・ノベルス(1959年12月からスタート)黎明期の1962年に書き下ろしで刊行。元版は題名の「試走車」の部分に「テストカー」とのルビがふられていた。 評者は今回、角川文庫版の重版(1980年の第10版)で読了。 作者の商業作品としての処女長編小説で出世作だそうであり、こういうジャンルや時代色に特に抵抗がないのなら、たぶん最高級に面白い。 評者も若い頃なら絶対に読む気にはならなかったとは思うが、これはこれで、この分野(昭和の企業経済ものミステリ)における名作なのであろうという構えでいたら、わははははは、一晩でいっき読み。たしかにメチャクチャにオモシロかった。 主人公は全編を通して朝比奈だが、序盤のフックとなる「掛川事故」の真相は割と早めに明かされ、一方で、親友の柴山の死への疑念はその後も潜在し続ける。 しかしこの作品、Wikipediaなどでは「経済小説」などとカテゴライズされているように、中盤からは、その柴山の案件はとりあえず保留。タイガーとライバル企業二社との次期新車計画を見据えた間諜&防諜戦の方が主題になる。この方面での物量感、あの手この手のせめぎ合いが、実に面白い。 もちろんペーパレスの概念はおろか、シュレッダーの技術もまだ無かった(コピーは大企業には普及していたらしい)時代だが、その辺の昭和文化や風俗を探求できるというちょっと変わった余禄も楽しめる。 産業スパイ戦争において、朝比奈が、企画PR課が、そしてタイガーそのものが最終的に勝利を納めるかどうかはもちろんここでは書かないが、その決め手となる逆転の方法もなかなか鮮烈(もちろん昭和30年代の作品という視座ではあるが、それでも作劇と演出がうまいので普通に乗せられてしまう)。 その辺もふくめてこの作品は「誰が最後に笑うか」パターンの優秀作でもあり、ラストまで気が許せない。 あー、面白かった。 もろもろの昭和文化に関心があり、ミステリを楽しむストライクゾーンにある程度の余裕がある人なら、いつか読んでおいてソンはない名作だとは思う。 |
No.1 | 6点 | 江守森江 | |
(2009/05/25 14:05登録) もう古典扱いでもしょうがないかも知れないが、当時、松本清張とは違う切り口でベストセラーを連発した。 初めて産業スパイをテーマにした記念碑的作品。 今読んでみても色褪せていない。 田宮二郎主演の映画もある。 |