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ミステリの祭典

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落下する緑
永見緋太郎シリーズ

作家 田中啓文
出版日2005年11月
平均点6.40点
書評数5人

No.5 6点
(2020/10/13 17:17登録)
 『本格推理』入選時に故鮎川哲也氏より絶賛された、幻のデビュー作にはじまる本格ミステリ。大人の雰囲気に彩られた《日常の謎》的連作短編集ついに登場。師から弟子へ連綿と受け継がれたクラリネットの秘密、消えた天才トランペット奏者の行方、国民的時代小説家の新作を巡る謎、三〇〇〇万円もするウッドベースを壊した真犯人は何者か、など七編を収録。冴え渡る永見緋太郎の名推理。著者おすすめジャズレコード、CD情報付。
 1993年から2009年まで光文社から「文庫の雑誌」形式で出版されていた、公募アンソロジー『本格推理』第2巻に所収の表題作をシリーズ化し、2003年9月から2005年6月号まで雑誌「ミステリーズ!」に掲載した五編を付け足したもの。本書のための書き下ろし「虚言するピンク」を含め、全てタイトルに色を冠した短編で構成されている。この作者には珍しくグロもゲロも出てこない、極めて真っ当なミステリ作品である。
 主人公・永見緋太郎は語り手のバンド〈唐島英治クインテット〉に所属する二十六歳のテナーサックス奏者。音楽のこと以外考えない天才肌でやや浮世離れしている反面、楽器や奏法・和楽洋楽上下関係その他に一切の執着を持たず、自由な発想を駆使して事件の真相に迫っていく。やや常識外れではあるが、あらゆる意味でこだわりの無い永見のキャラクターは、この連作集の大きな魅力である。
 著者自身彼と同じくバンドメンバーとしてテナーサックスを吹いているだけに、作中の擬音感覚は独特。「ぶぎゃっ、ききききぃーっ、くぶわっ、ぼけけもけけ・・・・・・」だの「ぎゃおおおおおおっ」だの、門外漢のド素人には「ホンマにそう聞こえるんか?」としか思えないが、スタージョンの「ぶわん・ばっ!」とかにもそういう表現があるので、実際にスウィングしてるとまた違うのだろう。
 出来が良いのは不可能状況での盗難や破損を扱った「落下する緑」「揺れる黄色」そしてトリの「砕けちる褐色」。次点は伝説のブルースシンガーのコンサートに悪役ジャズ評論家を絡めた「挑発する赤」か。好きなジャンルを思いきり書いているだけに楽しく読めたが、僅か数作のうちにトリックが被るのは少し気になる。
 とはいえ逆さになった抽象画の謎から意外な事実が判明する表題作のラストシーンは見事。正直これ一発でシリーズに引き込まれた。鮮烈なイメージを喚起する絵画は、実はミステリとかなり相性が良い。泡坂妻夫の「椛山訪雪図」や「藁の猫」、横溝正史のジュブナイル「悪魔の画像」等と共に、アンソロジー〈絵画ミステリー傑作選〉も、やろうと思えば編めるかもしれない。

No.4 6点 メルカトル
(2011/05/22 21:39登録)
真面目に書いてるなあ、というのが第一印象。
駄洒落が遊び心程度に放り込まれているくらいで、勿論グロの要素も皆無だし、脱力系でもない。
いたって普通の連作短編集。
田中氏もやれば出来るじゃないか、と再認識させられる一冊でもある。
内容的には日常の謎を扱ったものだが、さして魅力的な謎が提示される訳でもないのに、結構没頭できる不思議な作品と言えるかもしれない。

No.3 6点 touko
(2011/04/01 22:10登録)
この作者にしてはお上品かつ端整にまとまった優等生的作品ばかりで、個人的にはちょっと拍子抜け。

No.2 7点 あい
(2009/12/28 13:47登録)
「これが初めて~を見た者の意見なのか」という場面には失笑したが、内容はなかなか面白かった。

No.1 7点 江守森江
(2009/05/24 03:12登録)
ジャズ絡みの連作短編集。
各タイトルに色が付く
作者のレコード紹介まである。
演歌が一番の私が楽しめるのだからミステリーとして素晴らしい。

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