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ミステリの祭典

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処刑6日前
ビル・クレイン

作家 ジョナサン・ラティマー
出版日1965年01月
平均点6.00点
書評数5人

No.5 6点 斎藤警部
(2021/07/12 16:09登録)
やけにのんびり、ドタバタ、助兵衛根性でさっぱりハードボイルドじゃねえw ふやけた不可能興味、中途半端な本格趣向(と最初は思った)、根拠の無い容疑者選び。。だけど何故だが、全体的にかなりイイんです。死刑囚仲間のコナーズが主人公に無償の協力を差し出した心は泣ける。探偵さんが酔っ払って可愛くなっちゃうシーンは面白い。◯◯◯◯◯が堂々と掲げられているってのは、、不用意過ぎないか?あからさまな、そしてコミカルなシ◯◯◯の伏線というかヒントも記憶に鮮やか。密室もアリバイも驚くものではないが物語のスリルを焚き付けるのに程良し。逆説的な或る手掛かりの趣向にはちょっと虚を突かれたが、、唸るまでは行かないか。だが、◯◯者の意外性までは気が回らなかったな。隠滅された証拠品サルベージの件はなかなか熱かった。最後、容疑者一同と証人たち、当局関係者まで一堂に会しての真相暴露シーン、短い間だが意外とスリリングな本格流儀。 そして、ラス前会話の優しい嘘。

No.4 6点 shimizu31
(2020/03/15 23:53登録)
ハードボイルド風の本格推理だが今一つ中途半端か

若い頃読んだ時はあまり印象に残らなかったが「モルグの女」や「シカゴの事件記者」の作者がタイムリミット物をどのように描いていたのか等に注意しながら再読したが結果はやはり今一つというものだった。

処刑まであと6日に迫った死刑囚ロバート・ウェストランドを救うために私立探偵ウィリアム・クレーンとドック・ウィリアムズがシカゴを舞台に密室殺人の謎を解きギャングを相手にしながらハードボイルド風に真相を突き止めていく。文章はわかりやすく会話も洒落ていてテンポよく読めたが全体的にドタバタ喜劇調でタイムリミットの緊迫感に欠け安っぽい感じが否めない。クレーンは名探偵として本格推理を展開するが酔いどれで暴力も厭わず決して正義の使者ではない。ヴァン・ダインやシャーロック・ホームズを皮肉るような記述もありあえて偽悪的に描いているようにも思われる。従来の本格物とは一線を画するといった意図があったのかもしれないが結果としては本格推理でもなくハードボイルドでもないといった中途半端な感じがある。

人物描写は現実感はあるがハードボイルド風にするためかわざとらしさも感じられる。事件としてはそれほど複雑ではないので頁数の割には料理や服装、インテリアのような枝葉末節の記述が多くミステリとしては内容的に薄い感じが否めない。ほとんど意味のない拷問シーンや事件に全く無関係な人物の登場等全体的に作りの浅薄さを感じる。見た目の面白さをや映像化されることを意識しているのかもしれない。ウェストランドを含め3人の死刑囚の描写は生々しく迫力があるが事件との関連性が薄いのが惜しまれる。密室トリックも密室物を読み慣れている読者には容易に推測可能なものである。

拳銃に関しては「ちょっとした純帰納的推理」(p301)が展開されるが、これはいかがであろうか。ユニークではあるが推理としてはまぐれあたりという感もある。犯行計画の面でもリスクが高く犯人側としては別の拳銃の方が安全だったわけでこれも解決ありきの仕掛けといった不自然さが否めない。偽装電話のトリックも犯行計画の面ではリスクが高く強引ではなかろうか。ウェストランドを誘い出すためならより安全な別の方法もあったと思われる。結果的にはこの両者が決め手になるわけでやや興ざめであった。

「モルグの女」や「シカゴの事件記者」と同様に登場人物が多い。読んでいて楽しめる面はあるが登場させる必然性があまり感じられず作品としての完成度を考えるやはり冗長でありマイナスであろう。

No.3 5点 nukkam
(2018/10/11 20:46登録)
(ネタバレなしです) 空さんがご講評で紹介されているように、1935年発表のビル・クレインシリーズ第2作のハードボイルド小説である本書は密室殺人事件を扱っていること、迫り来る処刑執行日までに事件解決しなくてはならないタイム・リミットの趣向をウィリアム・アイリッシュの名作サスペンス小説「幻の女」(1942年)より早く導入していることで有名です(なお英語原題は「Headed for a Hearse」です)。前半は処刑囚の友人知人たち(容疑者でもあるのですが)も積極的に捜査に参加していてその分クレインがあまり目立ちませんが、後半になると酒と女性に目がないクレインらしさが発揮されます。創元推理文庫版の翻訳はそれほど古臭くはありませんけど登場人物リストは重要人物が抜けているのがちょっと残念です。謎解きが結構しっかりして本格派推理小説好き読者へのアピールポイントは高いですが、事件解決の重要な鍵を握っていそうな人物(登場人物リストに載ってません)が複数の殺し屋たちにマシンガンで蜂の巣にされてしまうところなどはやはりハードボイルドです。

No.2 7点 クリスティ再読
(2017/01/04 17:27登録)
そもそもアメリカのミステリ・ライターっていうと、どうも日本のマニアが思うほどジャンルに対するこだわりがない感じなんだよね..売れるとなったらSFだろうがウェスタンだろうが、ホラーだろうがミステリだろうが、何でも書いちゃう、というノリをちょっと意識した方がいいように感じる。
だから、本作がハードボイルドでパズラーで「幻の女」っぽいタイムリミット・サスペンスで...というような雑食的クロスオーバーな作品なことも、意図的なジャンル・クロスオーバーというよりも、「アメリカ的な行動派探偵小説」というくらいの目的で書かれたエンタメ小説だ、という見方をした方がいいように思うのだ。(処刑寸前に真犯人を見つけて、というタイムリミット・サスペンスの元祖はたぶん「イントレランス」じゃないかと思う...どうだろうか?)
まあ、だから、証拠を求めて東奔西走するクレーン&ドックのコンビの軽いノリの活躍を楽しんで読めばいい。密室だって、冤罪を被せるための手段として必要だから、脱力するようなネタでさえなけりゃ充分合格なんだし、ちょっとひねった電話のトリックもあるし...で、楽しんで読めて結果的にパズラーとしても上出来なら、十分じゃないかな。
個人的には隣房の死刑囚のギャング・コナーズがシブくてナイス。クレーンのアル中ぶりとか、楽しく読めるよ。まあ、ハードボイルド、って言葉に妙なキャラクター小説色をつけて理解するのが、とっても日本的な気がするんだがなぁ。

No.1 6点
(2010/05/29 12:31登録)
1935年に発表された小説ですが、解説でも触れられているようにアイリッシュの『幻の女』(1942)との共通点がよく指摘される作品です。まあタイトルからしてもそうでしょう。しかし、密室にする理由という点では『ユダの窓』(1938)との類似点も指摘できそうです。そう、通常ハードボイルドに分類されるのに密室殺人という意外な取り合わせでも有名な作品ではあります。
しかしハードボイルドと言っても、ハメット~パーカー等のような気のきいた会話や人物描写のリアリティを期待しても無駄というものです。また派手なアクションの痛快さもありません。証人が目の前で撃ち殺されるシーンなども、文章の切れが悪く、迫力がいまひとつです。
通俗ハードボイルド的なタッチを取り入れてはいますが、途中で糸を使って密室解明の実験を試みたり、探偵役クレーンが最後まで手持ち札を伏せて謎めかしてみせたりと、完全にパズラーの常道です。

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