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ミステリの祭典

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赤い鎧戸のかげで
HM卿シリーズ

作家 カーター・ディクスン
出版日1960年01月
平均点5.50点
書評数6人

No.6 6点 レッドキング
(2021/07/01 20:55登録)
鉄の箱を抱えて衆視の中で姿を消す怪盗。属性「a」に規定される人物「A」、その「a」が消失する時「A」もまた消え去る・・・あっと驚く人間消失トリック(ロジック)・・・そこと拳闘シーン位しか見るべきところがないが、そこだけでこの点を献上しちゃう。

No.5 6点
(2020/06/28 09:35登録)
 ニューヨークでマニング事件(『墓場貸します』)を解決したのち、ポルトガルのリスボンから内密に飛行機で、モロッコ最北端の国際管理都市タンジール(タンジェ)に向かったH・Mことヘンリー・メリヴェール卿。だが空港に降り立つや、各国言語の垂れ幕やブラスバンドによる英国国家演奏、赤絨毯の大々的な歓迎が彼を出迎える。H・Mの到着は大使館からの情報で、既に筒抜けになっていた。
 タンジール警察のコマンダント(警部)、ホアン・アルヴァレスの出迎えを受け、機内で知り合ったアメリカ娘モーリーン・ホームズを秘書に仕立てて警視総監ジョルジュ・デュロック大佐に面会するメリヴェール。空港での大仰な式典の全ては、マエストロの助力を得るための大佐の企みだった。ヨーロッパ各地で宝石強盗を繰り返す神出鬼没の怪盗、アイアン・チェスト(鉄箪笥)がタンジールに潜入したとの情報を掴んだ彼には、各国警察の鼻をあかすためメリヴェールの頭脳が必要だったのだ。
 彼らはスタテュ通りのベルンステン宝石店に水も漏らさぬ警備を敷くが、出現したアイアン・チェストはタックルしてきたイギリス領事館員ビル・ベントリーに向けて発砲すると、いっさんにウォーラー通りへ向けて駆けおりていき、そのまま行方を眩ましてしまう。だがプライドの高い怪盗がこのまま引き下がるはずがない。必ずや名誉にかけてもう一度、ベルンステンを襲ってくるだろう。
 ジブラルタル海峡に面した陽光あふれる港湾都市で繰り広げられる怪盗対名探偵の対決。果たしてその結末は――?
 『魔女が笑う夜』に続く、最後から二番目のHM卿シリーズ長編。1952年発表。前々作への言及など記述に若干の異同がありますが、草稿段階で前後していたのかもしれません。本編とマニング事件の間に挟まる〈メトロポリタン美術館での人殺し〉については〈語られざる事件〉かどうかは不明。
 舞台となるタンジールは第二次大戦を挟んで約50年間に、 ドイツ侵攻→国際管理地域(フランス保護領→英西仏管理→ソ連を含む八カ国管理)→スペイン侵攻→再び八カ国管理→モロッコ領 と、目まぐるしく統治権が入れ替わった地域。カーには珍しくエキゾシズム溢れる各種描写が目を引きます。
 ラジオドラマ『鉄の箪笥を持つ男』の基本トリックを、シリーズ前作同様アルヴァレス警部&モーリーン、ベントリー夫妻のダブルカップルロマンスで支える構成。着膨れ気味とはいえスリラー風の展開やアクションに加え、いくつかの仕掛けもありそこまで退屈はしません。トリック自体は少年探偵ですけども。
 それよりも気になるのは問題描写の数々。クリスチアナ・ブランドによるディテクション・クラブの回想(雑誌「EQ」NO.34 1983年07月号)によるとカーは「すさまじい空想家」であり「自分が頭でこしらえた事柄を丸ごと信じこんでいた」そうですが、本作では例の有名なシーンを含めソ連嫌いや男の友情、度を越した騎士道趣味など、作者のナマの部分が出過ぎています。ビル・ベントリーと元ボクサー、G・W・コリアーのボクシング対決はかなり読ませますけれども。そこに目を瞑れば、エンタメ性その他は『魔女が笑う夜』より上がっていて面白いのですが、そのため本書を敬遠する読者も多い。
 『ビロードの悪魔』で中世イギリス世界にどっぷり浸かったのと、持病の瘻孔による体調悪化の影響ががもろに出た作品。ダグラス・G・グリーンによれば『騎士の盃』含め「書かれない方がよかった」そうですが、まあそこまでとは思いません。ある意味貴重なものなので、リーズナブルに入手できるなら手元に置いた方が良いでしょう。

 追記:ブランドの総合評価によればカーは「賢くて、親切で、思いやりがあって、物惜しみしない愛すべき男」「様々な奇行を繰り返したとはいえ、素顔の彼は正真正銘の紳士」だったそうです。誤解の無いよう一言申し添えておきます。

No.4 5点 nukkam
(2016/08/26 08:21登録)
(ネタバレなしです) 1952年発表のH・M卿シリーズ第21作の本書では何とモロッコのタンジールを舞台にしています。珍しくも殺人事件ではなく神出鬼没の怪盗をテーマにしていますが本格派推理小説の謎解きとしては手抜きなし、豊富な手掛かりに基づく推理が楽しめます。但し非常に残念なことが2つあって、第4章の最後で紹介された不可能犯罪がその後は詳細に検討されることもなく風呂敷を広げただけで終わってしまったような印象を残していることと、第15章でのH・M卿の行動があまりにも彼のキャラクターにそぐわず、大幅なイメージダウンになってしまっていることです。

No.3 4点 了然和尚
(2016/05/19 19:30登録)
HM卿事件簿もあと2作です。次も読んでますので、まとめて言いますと本格ではあるが、事件が軽い(殺人でもオカルトでもない)ので、読後がっかりです。本作は怪盗は誰かという笑劇冒険譚でした。あまり集中して読めなかったのですが、本格ものとして手がかりが振られ、最後に回収されています。スポーツネタは過去2作と続いて野球→テニス→ボクシングときましたか。

No.2 5点 kanamori
(2010/06/27 21:57登録)
前作の「魔女が笑う夜」と本書でバカミス作家の地位を不動のものにしてしまいました。
H・M卿もモロッコまで来てこんなバカ騒動を起こす必要もないと思うんだが・・・。
怪盗アイアン・チェストの鉄の箱の真相も脱力ものです。

No.1 7点 Tetchy
(2008/09/10 13:59登録)
なんとカーによる怪盗対名探偵物。
登場する怪盗はアイアン・チェストなる盗みの現場に鉄の箱を携えた盗賊という、いささか風変わりな怪盗。
この理由がなんともカーらしい。
恐らくこのトリックを思いついて、どうにか使いたいので、こういう怪盗を設定したというような作品なのだ。

でも終始作中で展開されるドタバタ喜劇といい、この陳腐なトリックといい、ある意味、実にカーらしさに溢れた1作である。

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