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ミステリの祭典

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死の相続

作家 セオドア・ロスコー
出版日2006年10月
平均点6.50点
書評数6人

No.6 6点
(2020/06/10 10:43登録)
 一九三五年、ニューヨーク。弁護士(メトル)ピエール・トゥーセリーネと名乗るその小柄な黒人は、遺産相続に参加せよとの知らせを携えて、四十三番通りに面した画家E・E・カーターズホール(カート)のアトリエを訪れた。彼のモデルを務める恋人パトリシア・デイル(ピート)のかつての代父、イーライ・プラフトウッドが、ハイチ共和国カパイシアンの自邸で殺害されたのだという。
 アンクル・イーライはハイチ有数のサトウキビ農園をはじめ、砂糖やラム酒の精製・醸造所、漁業権、貯蓄や金貨債権など、地元に莫大な資産を有していたが、彼の風変わりな遺書に従い明日のうちにハイチへ旅立ち、葬儀に列席し遺言を聞かなければ、ピートの相続権は失われてしまうのだ。
 展覧会出品の肖像画製作に行き詰まったカートは、遺産相続を渋るピートを焚き付け、マイアミから水上飛行機で一路、カパイシアンのモルン・ノワールへと旅立つが・・・
 第二次世界大戦前に活躍したアメリカのパルプ作家、セオドア・ロスコーの長編パニックミステリ。1935年発表。現地に到着するや否や、用意された紫檀の棺桶を担いで丘の上まで大行進。ヴードゥーの司祭は枯れ枝にヤギの死骸を吊るし、蠟燭を振りながらグラバ、グラバと踊り出す。ゾンビの復活を阻止する為にハンマーで鉄杭が打ち込まれ、ロバに引っ張られた六トンの天使像が墓の上に置かれて葬儀は終了。
 楽しい葬式が終わると相続人がモルン・ノワールに集合。ほぼ全員が重犯罪者か殺人経験者の使用人たちという、これまた濃いメンツ揃いで、おまけに遺言状の内容は第一~第八相続人を指定し、第一が死ねば第二に、第二が死ねば次の相続人にと、全ての権利が順繰りに移譲されてゆくというもの。ちなみにピートの相続権は最後の最後。帰りの切符代もなく、カップルの顔には盛大にタテ線が入ります。
 とにかく二十四時間居残ってみようかと、腹を据えるや銃声が響き渡り、そのあとは殺人につぐ殺人。電話線は切られるわ、口先三寸で容疑者に仕立て上げられるわ、虫の好かない憲兵隊長に短機関銃突きつけられて絵を描かされるわ、朽ちかけた邸の中では緊迫感に満ちたシーンの連続。外に出ても狂気の連鎖は収まらず、カコの暴動からゾンビの復活、アンクル・イーライの墓への生き埋めと、とんでもない展開が待ち構えています。
 特筆すべきムードに対し、果たしてその結末は・・・うん、やっぱりB級パルプだわこりゃ。最後まで考えてあるし、それなりに面白いんですけどね。怪奇性はホントに凄いんで、毛色の変わった世界にドップリ浸ってみたい人にはいいかも。でもあまり高得点は付けられません。6点作品。

No.5 8点 ロマン
(2015/10/22 15:37登録)
ブードゥー教で有名なハイチに住む資産家だが性悪な伯父が死に遺産相続権を手に入れたピット。彼女は相続権を拒否するために葬儀への出席を拒むが恋人である主人公はハイチに無理やり、同行する。だが、欲深くておかしい論理の遺産相続人が次々と殺される。高圧的または朴訥とした現地の警察と上手く、コミュニケーションができずに捜査が進められるが暴動が発生。なんと、カコ(ならず者)を率いているのはゾンビだという!遂にパニックになった警察からも殴られ、生き埋めにされる主人公。もはや、これは冒険パニック推理小説だ!

No.4 7点 蟷螂の斧
(2014/09/08 17:43登録)
アガサ・クリスティ氏の某作(1939)を彷彿させますが、本作は1935年の発表です。その点を大いに評価したいと思います。動機もユニーク(今まで読んだ中では初物)です。ゾンビの取り扱いがうまいし、それにひっかけた犯人の末路も笑えます。怪作と呼ぶにふさわしいのか?。解説(森英俊氏)で、超弩級の密室ミステリと紹介されていますが、その点はどうかなと思います。

No.3 5点 mini
(2012/06/25 09:59登録)
本日25日発売の早川ミステリマガジン8月号の特集は、”幻想と怪奇 ゾンビって何?”
ミスマガ夏の号恒例の特集”幻想と怪奇”だが、今年は”ゾンビ”っていうキーワードが加わったぞ
ゾンビって何?と問われても、明日が命日のマイケル・ジャクソンに訊く訳にもいかねえが、そう言えばゾンビが出てくるミステリー小説が有ったなぁ

てな訳でセオドア・ロスコー「死の相続」である
ロスコーは幻の本格派作家の中でも極め付けのマイナー作家で、多分原書房から刊行された当時は、密室や不可能犯罪ものだけを漁る類のマニア読者ですら初めて名前を聞いたっていう人も居たんじゃないかな
原書房らしいような、らしくないような
前半は遺産相続の名目で集められた怪しげな関係者が1人また1人と殺されていくという、まさに絵に描いたような”館ものコード型本格”そのものである
こう聞くと興味を持つ館ものファンの方々も居られるかと思う
しかし作者はこの種のパターンのパロディとして書いたんじゃないかなぁ、後半になると様相は一変し主な舞台は屋敷の外に移って、”館もの”パターンとは完全におさらばする(笑)
舞台だけじゃなく、残った相続人があと3人くらいに減ってくるとスリラーかパニック小説のような展開へと移るのだ
コード型本格しか読まないような読者だと、中盤から変な方向に向かうのが期待外れに感じる人も居るんじゃないかな
しかしこの異色の後半の展開こそがこの作品の魅力であり怪作たる所以なのである
某掲示板でこの作品をすごく褒めちぎっていた人が居て、解決編ですっきり腑に落ちる傑作だと評していたが、そういう読後の感想は、少々真面目にこの作を捉え過ぎているんじゃないかと私などは思う、トリックなんかもパロディっぽいしね
原型がパルプ雑誌に連載されたものらしいし、独特のB級感が漂う雰囲気を楽しむ話なんじゃないかな、B級と割り切って読めばかなり楽しめる

No.2 6点 kanamori
(2010/12/15 20:11登録)
西インド諸島・ハイチを舞台にした館ミステリ。
外では原住民の暴動が発生している最中、館では相続人が次々と奇怪な手段で殺され、ヴードゥー教やゾンビ登場という怪奇趣向が飛び出すというとんでもない展開で楽しめた。プロットが異常すぎて、オーソドックスな密室トリックが霞んでしまうほどです。
普通のクラシック・パズラーに飽き足らない方にお薦めの怪作。

No.1 7点 nukkam
(2009/02/12 16:39登録)
(ネタバレなしです) 米国のセオドア・ロスコー(1906-1992)は第二次大戦前にパルプ作家として有名だった存在らしいです。E・S・ガードナーのようにパルプ作家からメジャー作家に転身できたケースもあるとはいえ、日本にこういう作家の作品が紹介されるのは非常に珍しいですね。彼の代表作とされる本書はまるで横溝正史の「八つ墓村」(1949年)と「三つ首塔」(1955年)を足して2で割って更にオカルト要素と不可能犯罪要素をたっぷり注ぎ込んだ、強烈なカクテルみたいな本格派推理小説です(しかも横溝作品よりも早い1935年の発表です)。パルプ作家の作品らしくとにかくど派手な展開に終始し、振り回される読者はじっくり推理する暇などありませんが密室も透明人間もゾンビもそれなりに合理的に謎解きしているところが並ではありません。所詮B級ミステリーだと言えばそれまでですが、たまにはこういうひたすらど派手な本格派を読むのも楽しいですよ。

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